元絵→
かにぱんれおさん(@ka2ka2pan)より
笹のこすれる音と、水の流れる音はよく似ている。
背面を覆う水はひんやりと心地よかったが、濡れた髪が張り付くのは少々鬱陶しく、ぼんやりとした心地のまま額に手をやった。
「
……もう少し眠ってます?」
囁くような、伺いの声がした。
手を当てたまま、瞼をのろのろと押し上げる。指の隙間から覗く青の目は、穏やかな色をしていた。
「
……フェニモール」
やや掠れた声が出た。はい、と返事が返ってくる。
額に張り付いた髪をかき上げ、首を起こそうとして
――既に一段、高くなっていることに気付いた。
水の心地よさとは違う、柔らかな感触。
もう一度、今度は意識して上に目を遣ると、フェニモールはやはり穏やかに微笑んでいた。
何故こうなったのだったか。
思い出そうとして、不意に面倒になる。どうでもよいことだ。
「ワルターさん?」
何でもない、と答えるのも面倒で、そのままフェニモールを、先にある空を見上げた。
笹がまだどこか明るい夜空に張り出している。だが星は十分に輝き、よく見えていた。
星祭りだ。随分と前に、『なにをお願いします?』とそんな話をした覚えがある。
「
……願いの葉は」
「あ、はい、流れてますよ」
書いたのか、と訊く前にそう答えが返ってくる。
ちらりと横に視線を向ければ、葉の上に幾つもの光が乗って、ゆっくりと流れていた。
「ワルターさん、何を書きますか?」
「俺は、いい」
「そう、ですか」
ほんの少し、フェニモールは苦笑した。
「書いたのか」
「あ、いえ。ワルターさんが書く時に一緒に書こうかと思って」
「
……そうか」
書かないと言ったわけだが、では一人で書くのか。無言で見上げれば、緩く首が振られた。
「いいです。このままで」
特に無理をしている風ではない。
……ならば、それでいい。
膝に頭を預けたまま、静かな空間を享受する。
水の音すら極僅かで、それが却って静寂を際立たせていた。
身体を包む水温と、それよりも温かい頭の下。
「星、綺麗ですね」
こちらを見下ろしながら、フェニモールが呟いた。
「空、見えるのか」
先程からずっと視線は下に向いている。
フェニモールは小さく笑って、水をすくい上げた。
「星が映って、全部空の中みたいです」
涼やかな音を立ててフェニモールの指から水が滴り落ちる。
波紋が幾つか広がり、流れる葉と、マントや袖を揺らした。
星明りに煌く髪。柔らかな笑顔。穏やかな声。
「
……ああ」
きれいだな。
ふと、そんな言葉が零れていた。
はい、と。
嬉しそうに笑ったフェニモールは、果たしてその意味を、分かっているのだろうか。
問いかけることはなく。
水に二人で溶けていくように、再びゆっくりと目を閉じた。
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