冬灯夜
2016-07-16 21:45:08
1233文字
Public TOL
 

星見の水

TOL ワルフェニ #レジェ夏
・かにぱんれおさんの絵から書かせて頂きました

元絵→
かにぱんれおさん(@ka2ka2pan)より





 笹のこすれる音と、水の流れる音はよく似ている。

 背面を覆う水はひんやりと心地よかったが、濡れた髪が張り付くのは少々鬱陶しく、ぼんやりとした心地のまま額に手をやった。
……もう少し眠ってます?」
 囁くような、伺いの声がした。
 手を当てたまま、瞼をのろのろと押し上げる。指の隙間から覗く青の目は、穏やかな色をしていた。
……フェニモール」
 やや掠れた声が出た。はい、と返事が返ってくる。
 額に張り付いた髪をかき上げ、首を起こそうとして――既に一段、高くなっていることに気付いた。
 水の心地よさとは違う、柔らかな感触。
 もう一度、今度は意識して上に目を遣ると、フェニモールはやはり穏やかに微笑んでいた。
 何故こうなったのだったか。
 思い出そうとして、不意に面倒になる。どうでもよいことだ。
「ワルターさん?」
 何でもない、と答えるのも面倒で、そのままフェニモールを、先にある空を見上げた。
 笹がまだどこか明るい夜空に張り出している。だが星は十分に輝き、よく見えていた。
 星祭りだ。随分と前に、『なにをお願いします?』とそんな話をした覚えがある。
……願いの葉は」
「あ、はい、流れてますよ」
 書いたのか、と訊く前にそう答えが返ってくる。
 ちらりと横に視線を向ければ、葉の上に幾つもの光が乗って、ゆっくりと流れていた。
「ワルターさん、何を書きますか?」
「俺は、いい」
「そう、ですか」
 ほんの少し、フェニモールは苦笑した。
「書いたのか」
「あ、いえ。ワルターさんが書く時に一緒に書こうかと思って」
……そうか」
 書かないと言ったわけだが、では一人で書くのか。無言で見上げれば、緩く首が振られた。
「いいです。このままで」
 特に無理をしている風ではない。
 ……ならば、それでいい。
 膝に頭を預けたまま、静かな空間を享受する。
 水の音すら極僅かで、それが却って静寂を際立たせていた。
 身体を包む水温と、それよりも温かい頭の下。
「星、綺麗ですね」
 こちらを見下ろしながら、フェニモールが呟いた。
「空、見えるのか」
 先程からずっと視線は下に向いている。
 フェニモールは小さく笑って、水をすくい上げた。
「星が映って、全部空の中みたいです」
 涼やかな音を立ててフェニモールの指から水が滴り落ちる。
 波紋が幾つか広がり、流れる葉と、マントや袖を揺らした。
 星明りに煌く髪。柔らかな笑顔。穏やかな声。
……ああ」
 きれいだな。
 ふと、そんな言葉が零れていた。
 はい、と。
 嬉しそうに笑ったフェニモールは、果たしてその意味を、分かっているのだろうか。
 問いかけることはなく。
 水に二人で溶けていくように、再びゆっくりと目を閉じた。