Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
冬灯夜
2016-05-15 10:43:21
2516文字
Public
TOV
Clear cache
正装とホワイトデー
TOV レイエス
・ホワイトデーと正装(
http://privatter.net/p/1374123)のレイヴン視点
・かいたら来る、の時期は過ぎました
全く自分らしくない、甘い香りに包まれながら城内を歩く。
探し人は、部屋のすぐ近くで見つかった。
「嬢ちゃん」
彼女が足を止めたのと、声を掛けたのと、どちらが先だろう。
「レイヴン」
振り向いたエステリーゼは、笑ってこちらに向かってきた。
青を重ねたドレスと、結い上げられた淡紅色の髪。その色調は城の外で見る白の衣よりも髪の色を際立たせ、だが全体的にはより落ち着いた印象を与える。
「どうかしました?」
挨拶しながらついまじまじと見ていると、それに気づいてエステリーゼは首を傾げた。
……
ちらりと覗く項が眩しい。
「いやあ。ドレス見んの、久しぶりだなあと思って」
「そういえば、最近お城では会ってませんでしたね、レイヴン」
そんなことを口にして引かれたくはないので、無難に誤魔化す。
調子のいいことなら幾らでも言える。
……
それに、ほんの少しの恐れが混じるようになってきたのは、いつの頃からだったろう。
くるり、とその場でエステリーゼは一回転した。裾が僅かに空気を孕んで、またすぐに落ちる。
「どうです?」
「そういう色合いもいいね、嬢ちゃん。でも目にはちょっと優しくな、ごほっ」
危ねえちょっと漏れた。
「え? どこか反射してたりします? 大丈夫です?」
「いやいやいや。似合ってるってことよ、うん」
「そう、ですか
……
?」
じっと見つめられて、反射的に目を逸らす。けれど、エステリーゼの声には不安が含まれていた。
無用な誤解は、避けるべき。
臆病な自分につい笑いが苦くなる。
「綺麗だよ。似合ってる」
真っ直ぐ目を見返して、伝える。エステリーゼが不安がることは何もない。
エステリーゼはぱちりと目を瞬かせ
――
「ありがとう、ございます」
ほんのりと頬を染め、視線を外してそう言った。
……
軽口には照れてもくれないのに、こう、どうしてこう、こういう時は!
湧き上がる羞恥に口を噤む。
互いに黙り込んでしまって、感情のやり場が心臓しかない。同時に懐にしまってあったブツを思い出した。そうだこれが本題だ。
声に動揺がでないようにと息を吐き、思い切って口を開く。
「あのさ、嬢ちゃん」
「あの、レイヴン」
被った。
「ご、ごめんなに、嬢ちゃん」
「いえ、レイヴンから先に」
「嬢ちゃんの方が早かったって」
「わたしはあとで大丈夫ですから」
そうしてひとしきり譲り合った結果、そもそもレイヴンは用事があったのでは、というエステリーゼの言葉によって、自分から話すことになった。
ええい。
巾着袋を取り出して、差し出す。
「この前のお礼。受け取ってくれる?」
「わあ」
目にした途端、顔を輝かせたエステリーゼの両手に、巾着を乗せた。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「あの、開けてもいいです?」
「どーぞどーぞ」
エステリーゼが結びを解くと、甘い香りが広がった。
「すごく、いい香りですね」
相好を崩したエステリーゼに、ほっと息をつく。嬉しそうな、機嫌のよいこの表情だけで、苦労した甲斐があるというものだ。
「気に入ってくれたんならよかったわ」
「はい!」
巾着の中身はクッキーとジャム。二つを見つめながら、エステリーゼは真剣に考え込んでいる。やがてぽつりと、その答えが漏れた。
「
……
バラ?」
「おー、正解」
生花とは多少違う香りだろうに、流石だった。
エステリーゼが顔を上げる。
「もしかして、手作りしてくれたんです?」
「
……
ん、まあ」
そこは、気付かなくてもよかったのだが。
「ほら、嬢ちゃんもこの前、甘くないヤツ作ってくれたでしょ」
先月、普段お世話になっている人たちへ、という名目の行事で、エステリーゼは甘くない菓子を作ってくれた。
甘味を極力減らして、ブランデーを香らせた小さなチョコレートだった。
旅の仲間たちで酒を好むのは自分だけで、エステリーゼ自身も酒を嗜む年ではない。菓子自体は仲間たちにも配ったのだろうけど
――
これを受け取ったのは、きっと自分だけだ。
密やかな優越感と独占欲を抱きながらも
――
ひとりひとり好みのものを作っただろうことは理解している
――
自分の為に、という気遣いが何より嬉しかった。
「嬉しいです。ありがとう、レイヴン」
その礼なのだから、そんなに嬉しそうな顔をすることはない、のだ。
分かっていても、笑顔は眩かった。
「大事に食べますね」
「いやいや、日持ちしないからさっさか食べちゃって。ね」
大事に胸に押し抱くエステリーゼにむず痒いものを感じる。
「でも、勿体なくて
……
そうだ、写真か絵に残して」
「待ってそれおっさん羞恥プレイになるから!」
やめよう、やめて!
必死に止めると、冗談です、とあっさり流された。
「よ、よかった。
……
そういう冗談言うの、珍しいねえ」
「そうかもしれませんね」
人の気も知らないで、エステリーゼは涼しい顔をしている。
「本当にありがとうございます」
「なーに、お礼なら胸に飛び込んでおいでー嬢ちゃん」
いつも通りにふざけて言うと、いつも通りにエステリーゼは小さく笑った。
直後、窺うような目線が向けられる。
「これ、他の方にも
……
あげて、ます?」
「あー
……
」
少しだけ口ごもる。が、他に聞かれれば誤魔化しようはない。
クッキーは他と一緒。バラのジャムは、エステリーゼだけに。
「だから、他のヤツには秘密ね」
ほら、知られたら俺様に恋する女性方が嫉妬しちゃうからさ、なんて軽く軽く言葉を重ねる。
手作りはバレた。特別扱いも、バレた。
でも、一つだけバレて欲しくないことが残っている。
どうして、バラを使ったのか。
どうして、生花を贈らずジャムにしたのか。
「秘密、ですね」
そっと唇の前に人差し指を立てて、柔らかく笑うエステリーゼ。
その笑顔がどうしてか、今日一番嬉しそうに見えて
――――
秘密に出来ているだろうかなんて不安だとか、何で嬉しそうなんて疑問だとか。そんなもの全て、どうしようもない程の喜びとときめきに、かき消されたのだった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内