冬灯夜
2016-02-29 23:39:48
2108文字
Public TOV
 

ホワイトデーと正装

TOV レイエス
・ED後 ホワイトデー エステル視点
・かくと来るっていうから
・レイヴン視点→http://privatter.net/p/1536563

 ふと、ほんのり甘い香りがした。
 どこからだろうと足を止めたと同時、嬢ちゃん、と呼ばわる声がある。
「レイヴン」
 自分をそう呼ぶのは彼だけで、確認する前に名を呼び、振り向いていた。
 そこにはいつも通り、羽織を引っ掛けたレイヴンが手を上げて笑っている。
「よ。嬢ちゃん元気?」
「はい。こんばんは」
 近づくと、先程の香りが強くなる。香水だろうか。だけどレイヴンは香水をつける方では――酒の匂いや化粧の移り香はたまにあったが――ないと、思っていたのだけれど。
 内心首を傾げている間、レイヴンは上から下までまじまじとこちらを見ていた。
「どうかしました?」
 香りのことを訊く前に、そちらの方が気になってしまった。
「いやあ。ドレス見んの、久しぶりだなあと思って」
「そういえば、最近お城では会ってませんでしたね、レイヴン」
 城ではドレスもよく着ているけど、ハルルや街に出る時は旅の間の恰好をしていることが多い。今は青を基調としたドレスを着ている。少し直せば夜会にも出られる恰好だ。
 レイヴンの目には、どう見えただろう。
 くるりと一回転して見せる。
「どうです?」
「そういう色合いもいいね、嬢ちゃん。でも目にはちょっと優しくな、ごほっ」
「え? どこか反射してたりします? 大丈夫です?」
「いやいやいや。似合ってるってことよ、うん」
「そう、ですか……?」
 どこか変な所があるなら言って欲しい。じっと目を見つめていると、一瞬、避けられたが、やがて苦笑と共にきちんと目を合わせてくれた。
「綺麗だよ」
 似合ってる、と穏やかな声でもう一度呟かれて――自分から訊いたことなのに、頬が少し熱くなる。
「ありがとう、ございます」
 今度は自分が目線を下に外して、小さくお礼を言った。
 何となくそのまま黙ってしまうと、また香りが気になった。やはりレイヴンから香るように感じる。
「あの、レイヴン」
「あのさ、嬢ちゃん」
 口を開くと、レイヴンと被る。
 ごめんなに嬢ちゃん、いえレイヴンから先に、と譲り合った結果、レイヴンから話すことに落ち着いた。
「あー、と。はい、これ」
 羽織から取り出されたのは、淡紅色の巾着袋だった。底は紅色で、金と赤で花の模様が入れてある。
「この前のお礼。受け取ってくれる?」
 に、と少し悪戯っぽく笑うレイヴンに、手を伸ばす。手の平の上に、ぽすりと袋が置かれた。
「わあ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「あの、開けてもいいです?」
「どーぞどーぞ」
 結びを解くと――ふわりと、優しい香りに包まれる。さっきからしていた香りの発生源は、ここだったのだ。
 中身は薄い布に包まれたクッキーと、ジャムの小瓶。
「すごく、いい香りですね」
 果物ではない。甘すぎず、すっきりとした爽やかな香り。
「気に入ってくれたんならよかったわ」
「はい!」
 何の香りだろう。ラベルはない。でも、嗅いだことのある香りだ。
 多分、元の香りよりは弱くなっている筈。それでいて、しっかりとした芯のある香り――
……バラ?」
「おー、正解」
 クッキーとバラのジャム。ラベルのない、二つの品。
「もしかして、手作りしてくれたんです?」
……ん、まあ。ほら、嬢ちゃんもこの前、甘くないヤツ作ってくれたでしょ」
 レイヴンは甘いものが苦手だ。
 香りだって、好きではないだろうに。
 ジャムを作るには、煮詰めなければならない。こうやって香らせる為には、もしかしたら何種類かを使ったのかもしれない。
「嬉しいです。ありがとう、レイヴン」
 花を使って、好きなものをわざわざ手作りしてくれて。
 潰さないように袋を抱きしめて、笑う。
 ん、と短い返事をして鼻の頭を掻いたレイヴンは、珍しく照れていたのかもしれない。
「大事に食べますね」
「いやいや、日持ちしないからさっさか食べちゃって。ね」
「でも、勿体なくて……そうだ、写真か絵に残して」
「待ってそれおっさん羞恥プレイになるから!」
「冗談です」
「よ、よかった。……そういう冗談言うの、珍しいねえ」
 ほっと息をつくレイヴンに、そうかもしれませんね、とだけ答える。
「本当にありがとうございます」
「なーに、お礼なら胸に飛び込んでおいでー嬢ちゃん」
 いつもの調子で、でもそう言うのは随分と久しぶりなレイヴンに、少しだけ笑って返す。
 ……本気で焦っていたから訂正した、というのが一つ。
「これ、他の方にも……あげて、ます?」
「あー……クッキーはね。ジャムは大量生産したら俺様死にそうだからさ、うん」
 他のヤツには秘密ね、とレイヴンは手を合わせる。それを見て、もう一つの理由が強くなる。
 この香りを、独り占めしたいと思ったから――だから。
 形には残したくないと、思い直した。
「秘密、ですね」
 甘い香りを纏ったあなたも、ドレスを綺麗だと言ってくれたあなたも。
 きっと、独り占め。




かくと来るっていうから!!(アスタリアのホワイトデーおっさん&リンクの正装エステリーゼ様)
※ちなみにどちらも来ませんでした