冬灯夜
2015-12-26 23:06:18
1803文字
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和田の家の亜莉子

#NP版深夜の真剣創作60分一本勝負 お題『年越し』
歪アリ
・和田家の年越し

 月日はあっという間に過ぎるものだな、と思う。
 叔父さんに会って、お祖母ちゃんと暮らすようになって、その間に転校したり七夕をしたり、お盆もやったしクリスマスだってした。
 こんなに、盛りだくさんなものだったのかな。
 まだ一年経っていないのに、こんなに、たくさんの思い出をもらっていいのだろうか。
 叔父さんにそれとなく、私のせいで無理に色んなことをしてるのではないかと訊いたことがある。
「まあ、お祖母ちゃんは張り切ってるな」
 と返ってきた。孫を可愛がれて嬉しいんだと。
「七夕もまあ、俺と二人じゃやんなかったかもな。でも孫がいると張り合い出て色々やりたくなるんだよ」
 そうして叔父さんはぽんと頭を撫でる。
 やりたくてやってんだよ、と視線を逸らしてぶっきらぼうに告げながら。
 瞬間、胸が詰まって、私は頷きだけを返した。


 大晦日、大掃除の終わった居間で、こたつに入ってぬくぬくする。
 テレビからは紅白の歌声がする。電飾がきらきらしていた。
「台所におそば用意してるからね」
「おう」
「ありがとう、お祖母ちゃん」
 台所からお祖母ちゃんが戻ってくる。
 手伝うと言ったのだけれど、ゆっくりしてなさいとこたつに押し込められたのだ。
「じゃあ先に寝てるから」
「おう」
「おやすみなさい」
 あんたそれしか言わんの、と叔父さんがお祖母ちゃんに小突かれた。
 お祖母ちゃんが正座して、叔父さんもこたつから出て正座する。
 何だか改まった空気が――
「ほら、亜莉子も」
「え、は、はい」
 招かれて叔父さんの隣に正座する。
 何だろう。
「そんじゃま、今年も一年お世話になりました」
「こちらこそお世話になりました」
 二人が頭を下げる。
 こ、これは――これはいわゆる、年越しの挨拶というヤツでは――!?
「あ、お、お世話になりましたっ」
 慌てて私も頭を下げる。
「あの……叔父さん、お祖母ちゃん。本当に、お世話になって」
 とても、感謝しています。
 そうやって言葉にするのが精一杯で、どうしたらいいのか分からない。
 だって凄く迷惑を掛けた。なのにこうして家族にしてくれた。色んなことをしてもらった。
 私は何を返せているのだろう。
 『お世話に』なんて言ってもらうようなこと、私はしていないのだ。
「亜莉子」
 お祖母ちゃんの声が優しく響く。
「この家に来てくれて、ありがとうね」
「え――
 にこにこと、お祖母ちゃんはいつものように微笑んでいた。
「来年もよろしくお願いします」
 もう一度、お祖母ちゃんは頭を下げる。
「よろしく、亜莉子」
 叔父さんも。
「来年も、再来年も」
 ――今年、私は色んなことを経験した。
 それは、ある意味ボーナスステージのように感じていた。
 きっといつか消えてしまう、きっと最初だけ、いつか無理を感じさせてしまう。
 やがてそんな風に考えるのはよくないと思えるようになったけど――染み付いた感覚は簡単になくならない。
 なのに、来年も。
 その先も?
「康平あんた、再来年は大学かもしれないんだから」
「いやそうだけど……亜莉子、年末年始くらいは帰って来いよ」
「き、気が早いよ叔父さん」
 取らぬ狸の皮算用と言うのでは。
 いや何か違う。
……うん」
 以前、私は頷くのが精一杯だった。
 でも今は。
「来年も、よろしくお願いします」
 こうやって、言葉に出来る。
 ――して、いいのだと、思う。
 目頭が熱い。
 頭を上げた後も俯く私を、お祖母ちゃんは優しく撫でて、部屋に戻っていった。
……そば、食うか」
 いつの間にかこたつに戻っていた叔父さんがぽつりと言った。
「うん。食べる」
 ぐっと顔を拭って、台所へ向かう。何故か叔父さんもついてきた。
「いいよ叔父さん、寒いでしょ」
「そば茹でるくらいすぐ済む」
 紅白はいつの間にか、お寺の鐘の音に変わっていた。
「これ食ったらあけましておめでとうだな」
「うん。……あ、でも」
「ん?」
……お祖母ちゃんと、一緒に言いたいなって」
……そうだな。朝までそれは取っとくか」
 茹で上がったそばとおつゆを器に入れる。叔父さんのはちょっと大きめ。私も今日はちょっと大きめ。……そばはヘルシーだから夜中でも大丈夫、うん。
 こたつの上に湯気が広がる。
 ――新年は、もうすぐそこだ。