【フェニモール】
メルネスさまが生まれたときいた日から、おねえちゃんはまいあさ、海に向かっていのる。村のひとたちもよくいのっている。
わたしはおねえちゃんがいのるとき、いつもついていっている。
「だいじょうぶよ、テューラ」
メルネスさまがたすけてくれる。
おねえちゃんはそう言ってわたしの手をひく。うなづくと、おねえちゃんは笑った。
同い年のおねえちゃんがそうやって笑うから、わたしはだいじょうぶなの。
「だいじょうぶよ、おねえちゃん」
だから、この手をはなさないでね、おねえちゃん。
【ワルター】
「お前はメルネス様の親衛隊長になるのだよ」
少年に、幾度も言い聞かせた言葉を掛ける。大人ですらなかなか使いこなせない、三つの爪術を使う少年は、既にメルネス様のお傍に仕える事が決まっていた。
メルネス様は隠れ里で守られ、未だ少年と会った事はない。
けれどこの類いまれな才能を持つ少年は、メルネス様の生誕に合わせて生まれてきたのだと、この村の誰もが確信していた。
「メルネス様を、きっとお守りするのだ」
それは祈り。
寡黙な少年は、強い眼差しで頷いた。
【セネル】
「おい、待て!」
果物をかっぱらった白髪の少年を追いかける。
子供にしては随分速い。中年の坂に差し掛かる自分には少々堪える。あっという間に見失った。
先の戦争で、ああいう子供は増えた。
哀れに思わなくはない。が、我が身すら危ういこのご時世、気にかけてやることは出来ない。目こぼししてやるのが精々だ。
ため息を吐きながら店に戻る。
昼飯のパンがない。
「
……やられた!」
次は容赦しねえぞ、と心に決めて、カミさんに怒鳴られに行くのだった。
【シャーリィ】
膝の上で妹が眠る。
年の近い子は少ないせいか、私によく懐いて、どこに行くにもついて回る、可愛い妹だ。
幼くも儀式の準備をし、学び、小さな身体には疲れることだろう。
メルネス様が全て救ってくれると大人たちは言う。ならこの子は誰が救ってくれるのだろう。時々言い様のない不安が襲う。
ゆっくり撫でていた手が、強張る。
「
……おねえちゃん?」
それに気づいたのか、妹は目を開けた。
何でもないの、と手を握ってやれば、あどけなく笑う。
――この子を守ろうと決めたのは、きっとこの時だった。
【クロエ】
「父様、おかえりなさい」
妻と娘の出迎えに、自然と顔が綻んだ。
「父様、今日はどうでしたか」
娘はよく騎士の話を聞きたがる。いつものように話しながら、剣を習わせるべきか悩む度、妻は少し顔を顰める。
騎士の家とはいえ、娘自身が剣をとる必要はない。妻も当人が決意すれば反対はしないだろうが、淑やかに育って欲しいと思っているのは知っていた。
今日も妻とそっと視線を見交わせる。娘ははやくはやく、と急かすように期待を込めた目でこちらを見ている。
決めるのは、もう少し大きくなってからでいい。
伸びてきた黒髪を撫でると、娘は嬉しそうに微笑んだ。
【ウィル】
「先生、一生のお願い」
「もう何度目の『一生のお願い』かな」
じぃっと見つめれば、先生は口調と笑みは苦く、声と仕草は優しく答えてくれた。
先生は、私の一生のお願いを無碍にしたことはない。今回だってきっとそう、だけど。
それで、と促されて、一瞬言葉に詰まる。
「
……撫でてください」
「それくらい、いつだって構わないさ」
先生、先生。
私、先生とずっと一緒に居たいんです。
それでもそう、答えてくれますか?
【ノーマ】
最近、近所の公園に女の子がよく居る。
ベンチに座って足をぷらぷらさせて、詰まらなそうに遠くを見てる。
「何してるの?」
「なんにも」
やっぱり詰まらなそうに女の子は言う。話しかけられたくないのかなあ。
でもある日、なんにもって言ってたのにシャボン玉を吹いてた。
私も一緒にやりたいなって言ったら、女の子はちょっぴり笑った。
「シャボン玉ってなんで膨らむのかな」
「ひょーめんちょーりょくってヤツ」
何となく、その笑顔に満足して、私もシャボン玉を膨らました。
【モーゼス】
長の息子はオレの3つ下。おかげで一緒にいると、遊ぶというよりやんちゃ坊主の面倒をみる形になる。
そう漏らすと、お前も子供だと呆れられた。絶対こっちの気なんて知らないだろ。
ところでそのやんちゃ坊主は、時々(まあわりとひんぱんに)一人で出かけたりもする。
怪我しないといいんだけどなあと、はらはらしてるこっち、お構いなしだ。
「チャバ、早う行くぞ!」
長によく似た訛りのキツい喋りで、オレを呼ぶ元気な声。
さあて、今日はどこまで行くのかな。
早くも遠ざかり始めた声に、オレも大きな声で返事した。
【ジェイ】
我が弟子は筋がいい。すぐに泣き出すあたりはまだまだだが、悪くない拾い物だった。
狙いの甘い苦無を弾き飛ばす。りん、と訓練には似つかわしくない音がした。
「あっ」
転がる音を追って、弟子が身を丸める。
下らん物に気を取られるのは減点だ。背を蹴る。小さな全身でその音を守り、離そうとしない。反射的に舌打ちしていた。
まあいい。今は。
「とっとと顔を上げなさい」
恐る恐る上げた顔に、安堵の色が広がる。
ほんのりと甘く、笑ってやれば、こうして十分に操れるのだから。
【グリューネ】
相反にして融和。同一にして別個。
其は我、我は其に非ず。
いかりのこえがきこえる。
なげきのこえがきこえる。
どうか、どうか、子らを助けてと、二つの声は言う。
その声もまた、我には世界の一部。
未熟な世界。
ああ、『』が目覚める。ならば我も目覚めよ。
種をつくろう。
世界の形に合わせよう。
植え、支え、育ち、そして熟するように。
……ああ、そう、言うべき言葉があるのだ。
何故だろう、それはとても愛おしい言葉に思えて。
「
――――みんな、おはよう」
いつかくる、信じてる、
出会えば別れ、
捨て去ってもそれは、変わらずいとしく、
わかれても、わかれても、それでも、
「いってらっしゃい」
テイルズオブレジェンディア 10周年おめでとう!
140字原文は<a href="
http://privatter.net/p/926338" target="_blank" title="140字まとめ">こちら</a>の2P目
(16/07/08追記)今月のテイマガでクロエの両親の話が出ましたが、ここはそのままにしておきます
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.