冬灯夜
2015-08-25 00:05:23
2796文字
Public TOL
 

10年前の彼らシリーズ

TOL
・10年前の彼らを他者視点から
・140字の加筆ver
・当たり前のように名もなきモブさんがいる

【フェニモール】
 メルネスさまが生まれたときいた日から、おねえちゃんはまいあさ、海に向かっていのる。村のひとたちもよくいのっている。
 わたしはおねえちゃんがいのるとき、いつもついていっている。
「だいじょうぶよ、テューラ」
 メルネスさまがたすけてくれる。
 おねえちゃんはそう言ってわたしの手をひく。うなづくと、おねえちゃんは笑った。
 同い年のおねえちゃんがそうやって笑うから、わたしはだいじょうぶなの。
「だいじょうぶよ、おねえちゃん」
 だから、この手をはなさないでね、おねえちゃん。


【ワルター】
「お前はメルネス様の親衛隊長になるのだよ」
 少年に、幾度も言い聞かせた言葉を掛ける。大人ですらなかなか使いこなせない、三つの爪術を使う少年は、既にメルネス様のお傍に仕える事が決まっていた。
 メルネス様は隠れ里で守られ、未だ少年と会った事はない。
 けれどこの類いまれな才能を持つ少年は、メルネス様の生誕に合わせて生まれてきたのだと、この村の誰もが確信していた。
「メルネス様を、きっとお守りするのだ」
 それは祈り。
 寡黙な少年は、強い眼差しで頷いた。


【セネル】
「おい、待て!」
 果物をかっぱらった白髪の少年を追いかける。
 子供にしては随分速い。中年の坂に差し掛かる自分には少々堪える。あっという間に見失った。
 先の戦争で、ああいう子供は増えた。
 哀れに思わなくはない。が、我が身すら危ういこのご時世、気にかけてやることは出来ない。目こぼししてやるのが精々だ。
 ため息を吐きながら店に戻る。
 昼飯のパンがない。
……やられた!」
 次は容赦しねえぞ、と心に決めて、カミさんに怒鳴られに行くのだった。


【シャーリィ】
 膝の上で妹が眠る。
 年の近い子は少ないせいか、私によく懐いて、どこに行くにもついて回る、可愛い妹だ。
 幼くも儀式の準備をし、学び、小さな身体には疲れることだろう。
 メルネス様が全て救ってくれると大人たちは言う。ならこの子は誰が救ってくれるのだろう。時々言い様のない不安が襲う。
 ゆっくり撫でていた手が、強張る。
……おねえちゃん?」
 それに気づいたのか、妹は目を開けた。
 何でもないの、と手を握ってやれば、あどけなく笑う。
 ――この子を守ろうと決めたのは、きっとこの時だった。


【クロエ】
「父様、おかえりなさい」
 妻と娘の出迎えに、自然と顔が綻んだ。
「父様、今日はどうでしたか」
 娘はよく騎士の話を聞きたがる。いつものように話しながら、剣を習わせるべきか悩む度、妻は少し顔を顰める。
 騎士の家とはいえ、娘自身が剣をとる必要はない。妻も当人が決意すれば反対はしないだろうが、淑やかに育って欲しいと思っているのは知っていた。
 今日も妻とそっと視線を見交わせる。娘ははやくはやく、と急かすように期待を込めた目でこちらを見ている。
 決めるのは、もう少し大きくなってからでいい。
 伸びてきた黒髪を撫でると、娘は嬉しそうに微笑んだ。


【ウィル】
「先生、一生のお願い」
「もう何度目の『一生のお願い』かな」
 じぃっと見つめれば、先生は口調と笑みは苦く、声と仕草は優しく答えてくれた。
 先生は、私の一生のお願いを無碍にしたことはない。今回だってきっとそう、だけど。
 それで、と促されて、一瞬言葉に詰まる。
……撫でてください」
「それくらい、いつだって構わないさ」
 先生、先生。
 私、先生とずっと一緒に居たいんです。
 それでもそう、答えてくれますか?


【ノーマ】
 最近、近所の公園に女の子がよく居る。
 ベンチに座って足をぷらぷらさせて、詰まらなそうに遠くを見てる。
「何してるの?」
「なんにも」
 やっぱり詰まらなそうに女の子は言う。話しかけられたくないのかなあ。
 でもある日、なんにもって言ってたのにシャボン玉を吹いてた。
 私も一緒にやりたいなって言ったら、女の子はちょっぴり笑った。
「シャボン玉ってなんで膨らむのかな」
「ひょーめんちょーりょくってヤツ」
 何となく、その笑顔に満足して、私もシャボン玉を膨らました。


【モーゼス】
 長の息子はオレの3つ下。おかげで一緒にいると、遊ぶというよりやんちゃ坊主の面倒をみる形になる。
 そう漏らすと、お前も子供だと呆れられた。絶対こっちの気なんて知らないだろ。
 ところでそのやんちゃ坊主は、時々(まあわりとひんぱんに)一人で出かけたりもする。
 怪我しないといいんだけどなあと、はらはらしてるこっち、お構いなしだ。
「チャバ、早う行くぞ!」
 長によく似た訛りのキツい喋りで、オレを呼ぶ元気な声。
 さあて、今日はどこまで行くのかな。
 早くも遠ざかり始めた声に、オレも大きな声で返事した。


【ジェイ】
 我が弟子は筋がいい。すぐに泣き出すあたりはまだまだだが、悪くない拾い物だった。
 狙いの甘い苦無を弾き飛ばす。りん、と訓練には似つかわしくない音がした。
「あっ」
 転がる音を追って、弟子が身を丸める。
 下らん物に気を取られるのは減点だ。背を蹴る。小さな全身でその音を守り、離そうとしない。反射的に舌打ちしていた。
 まあいい。今は。
「とっとと顔を上げなさい」
 恐る恐る上げた顔に、安堵の色が広がる。
 ほんのりと甘く、笑ってやれば、こうして十分に操れるのだから。


【グリューネ】
 相反にして融和。同一にして別個。
 其は我、我は其に非ず。

 いかりのこえがきこえる。
 なげきのこえがきこえる。

 どうか、どうか、子らを助けてと、二つの声は言う。
 その声もまた、我には世界の一部。
 未熟な世界。
 ああ、『』が目覚める。ならば我も目覚めよ。

 種をつくろう。
 世界の形に合わせよう。
 植え、支え、育ち、そして熟するように。

 ……ああ、そう、言うべき言葉があるのだ。
 何故だろう、それはとても愛おしい言葉に思えて。




――――みんな、おはよう」




 いつかくる、信じてる、


 出会えば別れ、

 捨て去ってもそれは、変わらずいとしく、


 わかれても、わかれても、それでも、




    「いってらっしゃい」









テイルズオブレジェンディア 10周年おめでとう!
140字原文は<a href="http://privatter.net/p/926338" target="_blank" title="140字まとめ">こちら</a>の2P目
(16/07/08追記)今月のテイマガでクロエの両親の話が出ましたが、ここはそのままにしておきます