冬灯夜
2015-05-23 02:15:07
985文字
Public TOV
 

月の残像

TOV エステル
・ED後 帝都にて
・雰囲気短文

 ふとエステリーゼは、書いていた手を止めた。
 何があったわけでもない。ただ、溢したため息に気をとられ、結果として区切りがついただけだ。
 書き始めた時、まだ地平線の近くにあった月は、すっかり天上に昇りきっている。ペンを置いてぺたりと机にもたれると、低くなった視線が窓枠越しの高い月を捉えた。
 不思議だ。
 明星の兄は天に行き、満月の妹は地に残る。
 なのに月はやはり、空に在るのだ。
 手を伸ばす。窓にも当たらぬ指の隙間に、月が重なる。
 ……本当は。
 満月の子らが空に行って、明星こそが残ったのではないだろうか。
 今、この地に立つ満月の子たる己は、どちらにも置いていかれた残像なのではないだろうか。
 いいや、残像ならばよかった。
 この身は残骸だった。己が何者かも知らず、ただ害を成すばかりだった自分。
 指を曲げてみても、月は捕まらない。
 十六夜になれば幽玄のあの街を思い出すけれど、やはり地の上に在るのは自分だけだ。
 腕を下す。突っ伏したまま空を眺めた。
 やがてゆっくり身を起こし、窓辺へと歩む。
 空ばかりの景色は近づくにつれ、なだらかに連なる帝都の街並みへと変わった。
 結界がある時ほど、明るくはない。魔導器の光は消え、カンテラや電気の灯が増えた。こつりと額を窓に当てる。
 あの揺らめく光の一つ一つが、誰かがいる証だ。
 もう一度、月に目を遣る。
 皓々、白く強く、変わらずそこにある。そして宵の明星が、傍で明るく灯っている。
 ……神話の兄妹、満月の子である妹も、自分と同じように空と月を見上げただろうか。
 役目を負って残された満月の子も、時と共にその役目を忘れていった末の自分も、空を見上げる時だけは同じだったのではないだろうか。
 空には月と明星がある。その時だけは、会えぬ人に会えるから。
 ひとりではないと、思い返せるから。
 目を閉じる。
 遠く、同じ空の下で笑う仲間たちを想う。
 街の灯り一つ一つに存在する、テルカ・リュミレースの人を想う。
 それは幾つもの灯火を胸に宿す。
 何もかもすっきりとはいかないけれど、微かに上がった口の端は、自分の気持ちに正直だった。



一人じゃない状態を知ってからの一人はそれまでとちょっと違う
窓、ひとり、故郷、あたりのキーワードでレイエスに繋げたかったがとりあえずここまで!