冬灯夜
2014-11-30 23:57:51
2304文字
Public TOV
 

よいの口

TOV レイエス
・ED後、レイエス成立前
・お酒は成人してから

 エステリーゼは酔っていた。
 分かりにくいが確かに酔っている。
 久しぶりに会う仲間達に誕生日を祝って貰い、嬉しそうにしていた。成人したのだからと酒を勧められ、一部の反対を受けながらもあまり顔色を変えず、おいしいです、と笑っていたのだが。
「カロルは大きくなりましたね」
「うん、でしょ!」
 ここまではよくある会話だ。
 エステリーゼは胸を張ったカロルに手を伸ばし、
「いっぱい頑張ったんですね」
「へっ!?」
 ぎゅっとまだぎりぎり低い位置の頭を抱きしめた。
「え、ええエステル?」
「それに、ナンにも告白したって……凄いです、頑張りました、偉いです」
「わああああ! エステルに教えたの誰さー!?」
「ジュ」
「エステル」
 犯人の名はぎりぎりで遮られたが、時すでに遅し。
「ジュディス!!」
「秘密よ、って言ったじゃない、エステル」
「僕だって秘密にしてって言ったのにぃぃ……
「ジュディスは早めに言わないとタイミング逃すから、と思ってくれたんですよ」
 カロルを解放して、今度はジュディスに向かう。
「そうやっていつも皆のこと気遣って、ジュディスはいいこです」
「「「いいこ?」」」
 数人分の声がハモる中、エステリーゼはジュディスの頭を抱き寄せて、優しく撫でた。
 この段に至り、違和感を覚え始めてはいたものの、衝撃で上手く頭が働かない。
 ジュディスも驚いたようで、されるがまま、エステリーゼの手を甘受している。
 そうしてリタには両手を握って優しいですと言い募ってはひらすら照れさせ、パティには箸使いの道を二人で登ろうと約束させた。
「こういう酔い方する人っているんだ……
「普段思ってることがそのまま行動に直結してるのかしら」
「自制が外れとるという意味では、よくある酔い方じゃのう」
 セットで単独行動に対する説教を滔々とのべ、自然と正座させられているユーリとフレンを横目に眺めながら、解放された面々は気楽に見解を述べる。
 ちなみにリタはオーバーヒート状態で、飲酒していないのに撃沈している。
「おっさんには何がくるかの」
「そりゃあ勿論、普段は恥ずかしいけどおっさんの胸に飛び込んで」
「来ないと思うよ」
「せめて最後まで言わせてちょうだいよ!」
……どうかしら」
 ぽつりと意味深にジュディスが呟いた時、下町の青年二人組を解放したエステリーゼが、レイヴンに目を向けた。
 ぱぁ、と輝くような笑顔を見せ――座っていたレイヴンの膝に、乗った。
「へ」
「え」
「おお?」
 固まる周囲をよそに、エステリーゼは笑顔を崩さない。
「え、え、エステリーゼ様っ!?」
「はい?」
「じょ、嬢ちゃん、な、にして」
「? 座ってます」
「この椅子、おっさんが先に座ってるんだけどな!?」
「はい。知ってますよ」
 知ってるなら何で!!
 突っ込むに突っ込めない言葉をレイヴンは飲み込んだ。
「リタ姐が寝ててよかったのう」
 代わりにパティが尤もな感想を漏らす。起きていたら、レイヴンの血の雨が降っていたことだろう。
 じ、とエステリーゼはレイヴンを見詰める。何を言い出すのか、全員が固唾を飲んで見守る。
……撫でてくれないんです?」
「えっ」
「最近は胸に飛び込んでおいでって言いませんし」
「そ、いやあのその」
 ぺたりとレイヴンの胸に身を寄せる。
「あったかいです……
「酒のせいじゃねぇのか、それ」
 ユーリのツッコミにも反応はない。
 完全に思考停止中のレイヴンとフレンを除き、他の面々は少しずつ立ち直っていった。
「僕、将来お酒飲むの怖いなぁ」
「少しずつ飲みゃあいい」
「うむ。度を過ぎなければ、酒は百薬の長と言うからの」
「あら」
 不意にジュディスが声を上げる。
「眠っちゃったわね」
 動けないでいるレイヴンに、完全に身を預けてエステリーゼは目を閉じていた。穏やかな寝息が聞こえる。
「休ませてあげなきゃ」
「リタも横にした方がいいし、二人とも運びましょう。おじさま、エステルお願いね」
 返事なのか分からない奇声がしたが、ジュディスは完全に無視してリタを背負う。
「レイヴンさん、僕が運びましょうか」
「ぁ、そ、そうね、」
「おじさま、早く」
「はいぃっ」
 何故か有無を言わせぬジュディスの口調に、レイヴンは反射的に返事していた。
「じゃ、すぐ戻るわ」
 色んな視線が突き刺さる中、結局エステリーゼを横抱きにして、レイヴンはジュディスに続いて行った。

「びっくりしたわ……
 廊下に出て、思わず息をついたレイヴンに、そうかしら、とジュディスは答える。
「よほどおじさまに甘えたかったのね」
「や、いやいや、皆にも抱きついたりしてたじゃない」
「違うわ。私達には抱き締めたり撫でたりしたの」
「同じっしょ」
「おじさまには、抱き締められたかったし撫でられたかったのよ」
 ほんの僅かな言葉の差を、その意味の大きな違いを、レイヴンは過たず受け取った。
 故に、沈黙する。
 それ以上は何も言わず、取ってあった宿の部屋に二人を寝かせた。
「不思議な光景ではなかったけど、面白いものは見れたわ」
 くすくすと楽しげな笑みを残して、ジュディスは仲間達の所へ戻っていく。
 一度しゃがみ込み、大きなため息をついて、レイヴンもまた戻っていった。
 ジュディスより遅く戻っては何を言われるか分かったもんじゃない。
 それでも待っているだろう詰問と、預けられた身体の重み、信頼の重みに同時に思考が巡り、もう一度息を吐き出したレイヴンだった。






健全なお酒初体験