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冬灯夜
2014-08-29 22:01:40
2719文字
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テイルズ色々
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食卓を一緒に
TOE キルメル
・ED後
「キール、何してるか?」
シルエシカに提供された研究室で背を丸めているキールに、メルディは首を傾げた。
「見て分からないか? ボタンつけだよ」
くるりと椅子を回して横を向いたキールは、今も愛用しているミンツ大学の白いローブに針を通していた。
以前、ここまで汚れた制服はないだろうな、とボヤいていたが、実際かなりガタがきているようだった。
「ボタン
……
なぁ、キール」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないよぅ」
甘えるような
――
と言えば聞こえはいいが、明らかに何かを含んだメルディの声を、キールは一刀両断する。
頬を膨らませるメルディに視線も向けず、キールはため息をついた。
「どうせあのボタンが外れた、どの靴下が破れた、そんな所だろ?」
「バイバ! どうして分かるか」
「お前な、インフェリアに居た時も同じようなことやったろう。自分でやれ」
「メルディよりキールが上手いよ!」
ぶち、と歯で糸を切って、キールは裁縫道具を脇に避ける。ついでに再び椅子を回して作業台に向かった。
「駄目だったら駄目だ」
「キールのケチんぼ」
「何と言われようが駄目だ。それに今日はこっちに集中したいし
――
」
「分かったよぅ」
全くこちらを見ようともしないキールの言葉を遮って、メルディは言った。
その声が尖ってるのは気付いたが、キールは振り向かなかった。
だが。
「じゃあ、今日の夕ご飯、からおでんにするな!」
「はあ!?」
メニューが聞こえた途端、凄まじい勢いでメルディの方に振り向いた。
メルディは完全にむくれてそっぽを向いている。
「め、メルディ、今日はオムライスの予定だったろ!?」
「知らなーい。デザートもソディが沢山使う」
「お前
……
っお、大人げないぞ! ソディ使う日と使わない日を分けようって約束したじゃないか!」
メルディにとって、インフェリア料理はどうも物足りない。
キールにとって、セレスティア料理は味が濃すぎる。
互いの妥協点を探りつつ、ソディを使う日と使わない日もそれぞれ決めていた。
「キールが意地悪するからよぅ」
「意地悪とかじゃないだろ、ボタンつけは!」
「最近ずっと帰るの遅いな」
少し、トーンを落とした声に、一瞬キールは詰まる。床に目線を遣るメルディの顔は、怒っているとも拗ねているとも違う表情だった。
「いつもキールの分余るよ。なら最初からメルディが好きなの作るな」
つい熱が入り過ぎて、遅くなることが多かった。
そんな時、メルディが食事を待っているのは悪いと思って、先に食べてるよう言ってあったが。
「
……
悪かったよ」
酷く決まりが悪くなった。
だからといって研究を止める気もないのだが、メルディが寂しがっていることすら気づかなかったのは事実だ。
「
……
ううん。メルディ言い過ぎたよ。ごめんな。キール頑張ってる、メルディ応援したいな」
でも、と小さく言い添えて、メルディは笑う。
「今日みたいに、ちょっとだけ、お話ししたいよ」
長い沈黙の後、大きな大きなため息をキールはついた。
ついでに額に手をやって頭痛を堪える。
本当に痛いのではなく、目的を一部見失っていた自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしたからだ。
「
……
キール? ごめんな、ワガママ言い過ぎたよ、邪魔してごめ
――
」
「違うんだ」
もう一度息を吐き出して、キールは顔を上げた。
「これを読みたかったんだ」
「
……
図鑑?」
「ああ」
セレスティアでは一般的な、インフェリアで言えばレオノア百科全書のような
――
そんな図鑑の一部だった。
「メルニクス語はピアスがあるから問題はない。でも読み書きはまだまだだ」
図鑑の一ページをめくって、絵と解説の文字を読み上げる。
「ミアキス。たったこれだけの文字や解説を読むのにも時間が掛かる」
「そっか
……
キールは学士さん。本、沢山読みたいな」
「ああ。
……
それに読み書きができるようになれば、もっと色んなことが出来る」
「そだなー! キールが研究、色んな人に見て貰えるよ!」
肯定が返ってくるかと思えば、何も聞こえない。
どうしたのかとメルディが見つめれば、視線をずらしてもごもごと口を動かす。
「
……
手紙とか、やり取りできるだろ」
「? そうな」
「僕はエラーラ電話が出来ないんだから。
……
その、お前と会えない時とか」
メルディは目を瞬かせる。
だが、言われた言葉を理解して、一気に声が弾む。
「キール、メルディとお話ししたかったか?」
「そ、
……
まあ、そりゃ」
「ワイール!」
「わっ!」
弾んだ勢いのまま、キールに抱き着く。
「おま、だからそういうの止めろって言ってるだろ!!」
「だって嬉しいよぅ! キール、メルディがことも考えててくれた!」
くるくると椅子が回る。
キールが止めようとしても、メルディが勢いに乗っていて椅子は止まらない。
「ありがとな、キール! 今日ちゃんとオムライス作るな!」
「『な』は余計だって言ってるだろ! うう、目が
……
」
暫くの後に回転から解放され、キールは今度こそ頭を抱えて机に突っ伏した。
「じゃあ、メルディ先にクイッキーと帰ってるな」
「ああ
……
今日はもう少ししたら、僕も帰る」
「はいな! また後でな!」
打って変わって明るい調子を取り戻したメルディを見送り、キールは本日三度目のため息をついた。
メルニクス語を習得したいと思ったのは、研究のことも日常生活も、そしてメルディとのやりとりのことも、全て本音だ。
オージェのピアスを失くしたら、会話は通じなくなる。
研究を進める上でも、メルディを始めとしたセレスティア人との交流でも、言語は決して欠かせない。
そしてキールは、メルディがインフェリア語の勉強をしているのも知っていた。
それは果たして自分が先か、彼女が先か、そんなものは分からないけれど、別れがたく思っているのだけは確かだ。
だから懸命になっていたけれど
――
それならアイメンでしたように、メルディと共に学んだってよかったのだ。
「
……
目的は一つ。でも、動機は一つじゃない」
その一部を
――
メルディを蔑ろにしていたのは、自分の過ちだ。
ページを繰る。
料理の技法について。
ソディについて。
パンヤ麺の歴史。
メルディが作るセレスティア料理の手間を、ちょうど読んでいた所だった。
図鑑を閉じて、ローブを羽織る。
オムライスだと言うメルディの言葉を信じて、今日はもう帰ることにしよう。
その日の食卓に並んでいたのはオムライスと
――
ソディたっぷりのあまにんどうふだった。
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