冬灯夜
2014-08-16 20:43:02
1869文字
Public テイルズ色々
 

神子んびの炊事

TOS 神子んび
・エアコミケのエアスケブ(小話)で交換したもの
・TOS初書き

「コレットちゃんはさ、嫌になんない?」
「何が?」
「神子」
 普通に、いつもの軽口を叩く時のような調子で、さらりとゼロスは言った。
 仲間たちは野営の準備をしていて、食事の用意はコレットとゼロスだった。
 コレットは首を傾げて答える。
「うーんと、私が、私とゼロスを嫌いかってこと?」
「ああ、そう取っちゃうのか……
「私はゼロスのこと好きだよ?」
「わぁい、俺さま嬉しい。って違くてね」
 先程あっさりと口にしたわりに、今度は妙に迷っている素振りを見せる。
 そんなゼロスをじっと見つめながら、コレットは待った。
 ふ、とため息が零れた。
「神子ってさぁ、神子じゃん?」
「うん、神子だね」
「世界救ってくれってそればっか言われて、嫌になんなかった?」
 水色の瞳がコレットを見下ろす。
「神子だもん」
 同じ色の瞳で見返しながらコレットは言った。
……嫌じゃなかったワケか、コレットちゃんは」
 沈んだ声で、ゼロスは呟く。どこか諦めを含んだ声だった。
 目を逸らしてまた板に戻す。
「ま、シルヴァラントじゃ死活問題だったワケだもんな」
「うん。でもね、私がそうしたいって思ったからなの」
 とんとん、と野菜を刻む音が止まった。
 ゼロスがもう一度横を向くと、そこには変わらずコレットの瞳があった。
「ロイドがいたから。おばあさまにお父さん。ジーニアスやリフィル先生。皆のこと好きだから」
 それにね、とコレットは笑う。
「今はしいなやプレセア、リーガルさんにクラトスさん、ゼロスがいるから」
 だから。
 同じ色の瞳が、同じ筈の色が、とても柔らかな色に染まる。
「私だけじゃなくて、皆で世界を救えるなら、私は救いたい。
 皆の生きる世界を守りたいの」
 優しく細められる目。
 目を逸らすことも出来ず、ゼロスは押し黙った。
 コレットが鍋の中に具材を入れていく。
「皆がいなかったら、そんな風には思えなかったかも、しれないけど」
 小さく、呟かれた言葉。
 ようやくゼロスは、まな板に向き直れた。
「ゼロスは、嫌だったの?」
 とんとん、とんとん。
 野菜を刻む音と、鍋に水を入れる音が響く。
「ま、皆ちやほやしてくれっからねー」
「そか」
 刻んだ野菜を鍋に。
 火に掛けようとするコレットを制して、ゼロスが持ち上げる。
 ここでぶちまけられたら目も当てられない。
 コレットの場合、しいな曰く『神に愛されたドジ』だそうだが。
「ゼロスも、私たちのこと好き?」
 コレットは火に掛けられた鍋を見つめている。
 ごめんね、とよく謝る少女。
 神子であることに縛られていると、自覚している少女。
 答えないことは、きっと許されていない。
……まぁ、嫌いじゃねえ、な」
「うん。そっか」
 火に照らされたコレットが笑う。
 その隣に座って、鍋の向こうの騒ぎを見る。

 家族は血筋の為。
 教育は次代の為。
 友人はコネの為。

 家族は家族。
 教育は世界の為。
 友人は友人。

 同じなのか、違うのか、どこまで思っているのか、結局深くは聞けなかった。
 ゼロスには、訊く勇気がなかった。
 鍋の向こうを指さす。
「ほら、あいつらアホじゃん? 見てて飽きねえっつーのはあるぜ」
「あ、何かあったのかな。楽しそう」
 笑い声と、リフィルの怒鳴る声がこちらまで響いてくる。
「ったく、それはあんただろ、このアホ神子」
 後ろからしいなの声と拳がゼロスに降ってきた。
「いっでぇ! 何だよしいな、俺さまがコレットちゃんと仲良~くお話してるからってヤキモチか? んー?」
「なワケないだろ! コレット、これ以上こいつと話してるとバカが移るからこっちおいで」
 しいながコレットの腕を取り、コレットもそれにつられて立ち上がる。
「え? 移るものなの? それにお鍋が……
「後は煮るだけだろ? こいつにやらせときな」
「ちょ、コレットちゃん、それ俺さまがバカだって言ってない?」
「え? あ、そうなのかな?」
「そうだよ、バカでスケベなアホ神子だよ」
「おいこら待てーい!!」
 しいなはひらひらと手を振って、コレットを連れて行く。
 元暗殺者と元標的とは思えない距離だ。
 特大のため息をついて、ゼロスは鍋に視線を戻した。
 ことこと、気泡が沸き上がる。
……馬鹿だよなぁ」
 楽しいと、思っている自分が。
 自嘲の笑みが零れる。
 けれどその瞳が、コレットと同じ柔らかな色を宿していることに、ゼロスは気付いていなかった。