「嬢ちゃん、嬢ちゃん!」
抱え上げたエステリーゼの身体は力を失っていて、酷く重かった。
レイヴンの呼びかけに、うっすらと目を開く。
「
……れ、い」
名を呼ぼうとした声は、喉の奥から溢れる血で遮られた。
「いい、喋るな、今治すから」
薄青の光がレイヴンからエステリーゼへ流れていく。
流れて、そのまま消えていく。その手応えの無さに、恐怖した。
駄目だ、そんなの駄目だ。恐怖を振り払いながら、尚も治癒を続ける。
「『愛してるぜ』」
お決まりの台詞を繰り返し、何度も。
「レイ、ヴン」
「! 嬢ちゃん」
先程よりもはっきりした発音に、ほんの僅か胸を撫で下ろす。
震える手がゆっくりと、レイヴンの胸に
――心臓に伸びた。
「もう
……いい、んです」
その意味を、レイヴンは理解した。
――理解したくなかった。
「いいわけないだろうがッ!」
形振りなど構っていられない。服の上からも分かる程、心臓魔導器が強く輝く。
「これ以上、は
……レイヴンに、負担が」
「そんなのどうとでもなる! 嬢ちゃんの方が今よっぽど、」
「だから」
エステリーゼは、微かに首を振った。
「だから
……です。
……わたしの、為に、命を
……削らない、で」
やめろ。
受け入れるな。
「嫌だ」
「レイヴン
――」
「『愛してるぜ』『愛してる』『愛してる』
……あい、してる、んだよ」
必死に心臓魔導器を稼働させる。
光は幾らでも流れていく。
きり、と心臓が痛んだ。構わない、壊れてしまってもいい、エステリーゼを繋ぎ止められるなら。
エステリーゼの指が、心臓を撫でる。それは、痛みの走った箇所を、正確に捉えていた。
「わたし、も、
……愛して、ます」
エステリーゼは血を流したまま微笑む。レイヴンは口の端に残る血を拭い取る。
「『愛してるぜ』」
流れていく。
「
……あいしてる
……エステリーゼ
……」
留まらず、何の役にも立たず。
削っても絞り出しても、エステリーゼの為に何も。
「いやだ
……俺を、置いていかないでくれ
……!」
大粒の涙が、エステリーゼの顔に落ちていく。
ぱたぱたと、光と同じように、尽きることなく。
「
……ごめんなさい」
「やめてくれ」
もう置いていかれたくないのに。きっと自分が一番先だと思っていたのに。
どうして、自分ではないのだ。
エステリーゼが、レイヴンに身を寄せる。ほんの僅かな動きしか出来なくて、代わりにレイヴンが強く抱き寄せた。
「
……じゃあ
……次は、レイヴンが、いいです」
腕の中で、呟くようにエステリーゼは言う。
「次に、皆の中で、来るのは
……レイヴンにして、ください」
目を見開き、レイヴンは固まる。ただ涙だけが、止まることなく落ちていく。
ひどいこと、だろうか。でも言わなければならないと、エステリーゼは思ったのだ。
本当に酷いのは、今、こうして彼を置いていこうとしていることだから。
「
……あ、でも、ラピードが先かも
……しれません、ね。どうしても
……寿命が違います、から」
小さくエステリーゼは笑う。
「そしたら
……皆が来るまで、ラピード
……ひとりじめ、です。仲良く、してくれるでしょうか」
「駄目よ」
「だめ、です?」
「嬢ちゃんは俺がひとりじめするの。皆は長生きして、その間俺はずっと嬢ちゃんと居る」
「
……じゃあ、約束、してくれます?」
心臓に当てていた手をゆっくりと離す。
小指と小指を、絡める。
「するよ」
「
……はい」
エステリーゼの指は震えている。一度力を込めて、離して
――レイヴンはその手を握り締めた。
「わたし
……迎えに、いきますから」
「本当だぜ? それも約束だからね?」
「はい」
だから。
握られた手を、込められるだけの力を込めて、握り返した。
「だから、その時は
――……笑って?」
しあわせに。
楽しく。
皆と一緒に。
失ったものは還らなくとも、新しく何かをその手に。
レイヴンは、答えなかった。
「『愛してるぜ』」
代わりに、青い光が、瞬く。
嗚咽と涙が、エステリーゼの顔に降り注ぐ。
「好きだよ
……嬢ちゃん」
「すき、です、
……レイヴン」
エステリーゼの視界は、既に霞んでいた。
声を絞り出すけれど、ごめんなさい、という言葉は音にならなかった。
そして、握っていた手から、するりと力が失われた。
「
……じょう、ちゃん?」
応えはない。
腕の中には、完全に力を失った身体があるばかり。
「エステリーゼ」
血よりも何よりも、その顔は涙で濡れている。
「『愛してるぜ』」
治癒を施そうとも、光は流れることすらなく、レイヴンの周りに浮遊する。
もう一度。もう一度。
繰り返し。
「『愛してるぜ』
……あいしてるよ」
ぱたり、ぱたり、零れる涙に、エステリーゼは反応しない。
顔を近づける。
重ねた唇は、既に冷たかった。
抱きしめる。
熱は戻らない。
――誰も聞くことのない慟哭が、響いた。
騎士団が駆け付けた時には、もう遅く。
その時彼らが見たのは、動かないエステリーゼと、彼女を抱きしめ、ただただ涙を零すレイヴンと。
周囲に漂う、行き場を失くした青い光だった。
元ネタ:きみとお別れったー
エステルはレイヴンに頬を濡らしながら言いました。
『笑って
……?』
http://shindanmaker.com/459976
レイヴンはエステルに掠れた声で言いました。
『笑って
……?』
http://shindanmaker.com/459976
シンクロ率にびびった
ED後のエステルには信仰も拒絶も両方あって、政治的には評議会が多少は大人しくなってるんだろうけど、それでも何かが過熱して暴走したら、という想像は拭えない
エステルverはその内に
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