冬灯夜
2014-05-15 05:20:15
2426文字
Public TOV
 

自覚するお話

TOV レイエス
・三部のどっか

 自覚は唐突だった。
 街をぶらぶらして、カロルの好きそうな仕掛けだな、とかこのケーキはジュディスやリタが好きそうだな、とか。眺めたりして。
 同じように、髪飾りに目がいった。淡い黄の可愛らしいバレッタ。
 ああでも、こっちの小さい方が落ち着いて見える。翠の石を嵌め込んだバレッタ。エステルの目の色と同じでよく似合いそうだ。
 そこまで考えて、ふと気付いた。
……あれ。これ、どっちかってーと俺の趣味じゃ)
 エステルは明るい色を好む。いや、別に寒色系の色を嫌ってるわけではない。実際城では青のドレスも着ていた。
(他意はない。同じだ同じ)
「おっさん、何ぼーっとしとるのじゃ?」
 ひょい、と横から覗き込まれる。パティとジュディスか買い物袋を抱えていた。
「お、パティちゃん、ジュディスちゃん。いやね、さっきの店で見たケーキ、ジュディスちゃん好きそうかなーって考えてたのよ」
「ああ、おいしそうだったわね」
「のじゃ。ユーリが喜びそうじゃのう」
「それはおっさんどーでもいいんだけど」
「うちにはどうでもよくないのじゃ」
 そのやり取りに、ジュディスがくすりと笑う。
「でも私は、隣のクッキーの方が好みかしら」
「あらそう? おっさんまだまだ勉強不足だわ」
「エステルが好きなんじゃないかしら」
「え」
 どきりとした。名前も出してないし、そこから思考も話題も逸らしたかったのに。
「あのケーキ。あの子、生クリームも好きでしょう?」
「あ。ああ、そーね。ていうか、おっさんとわんこ以外、皆好きよね……
 このメンバーで旅をしていると、甘味の出てくる率はかなり高い。毎食後に出てきた時は、何のいじめ!? と叫んで抗議した。頻度は減った。少しだけ。
「私は特に、というわけではないけれど?」
「でも嫌いじゃないっしょー?」
「ふふ、そうね」
 とりあえず誤魔化せたことに安堵する。……そもそも誤魔化すほど大した話じゃない。
「のうジュディ姐、皆に買っていかぬか?」
「そうね……たまにはよさそうね」
「ではまた後での」
「あいよ。あ、おっさんの分はいいからねー」
「全員分買って、ラピードとおっさんの分は争奪戦じゃ」
 にぃ、と笑うパティはとても楽しそうである。
 それ俺にメリットないよね、という言葉はさらっと無視され、海賊少女とクリティア美女は去っていった。
 見送って、これからどこへ行こうか考えていると、また髪飾りが目に入った。
 他意などない。単純に似合うと思うものを考えただけだ。目の色と装飾を合わせるのはよくあることだし――
(ちょっと待て。目と同じ色の装飾品贈るって、いや贈んないけど贈るってそれ)
 慌てて思考を止める。が。
……て、いうか、俺の目とも同じ色……
 そこまで思考してしまっては、もう遅い。
 愕然とする。
 まさか無意識にここまで。そしてその先に――根底にある想いは。
……いやいやいやいやいや!!)
 必死で思考を振り払う。
 認めるわけにはいかない。彼女にそんな想いを向ける資格などない。
 …………駄目だ。もうこの時点で認めてしまっている。
 ふらりと道端に寄って、座り込む。
……マジかよ」
 唐突に理解した想いに、一人呻きを上げた。


 この感情を何というのか、知っている。
 気付いてみれば何のことはない。十年前に持った、あの感情とよく似ている。
 だから――同じようにすればいい。

「じゃじゃーん! 今日のデザートはケーキなのじゃ!」
「わあ、おいしそうです」
「ラピードとおっさんの分は争奪戦じゃ」
「早い者勝ちでいいだろ」
「それあんたに有利じゃない」
「じゃんけん! じゃんけんしようよ!」
「まずはきちんと食べ終わってからだよ」
「はい、おじさまとラピードはこれ」
「お? おお、さっすがジュディスちゃん、気が利くぅ! ありがとう!」

 ラピードと薄い干し肉を齧りながら、ケーキの争奪戦を眺める。酒が飲みたい。
 じゃんけんは最初はパーだ、後出しだ、など散々揉めた後、二つのケーキを全員で分け合うことで決着がついた。
「レイヴンとラピードは本当にいいんです?」
 皆がフォークでつつきあう中、エステルが問いかけてきた。
「甘いもんは苦手だからねー」
「わふん」
「そうですか……ありがとうございます」
「別になんもしてないよー?」
「でも、二人の分、ですから」
 ね、と笑ってエステルはラピードに手を伸ばす。撫でようとした手は空を切った。
「やっぱりダメですか……
 がっくりと肩を落とす。ラピードは澄まし顔で干し肉を飲み込んだ。
 項垂れた頭を何気なく撫でようとして、――直前で手が止まった。
「嬢ちゃん、ケーキなくなるよ」
「あ、待ってください!」
 代わりにケーキを指す。エステルはぱっと顔を上げて、戻っていった。
……わふ」
 ラピードが妙に引っかかる声で鳴いた。
……わんこには隠せない感じかー、これー」
 ぱたりと尻尾が揺れる。
 このラピードという生き物は全くもって、何というか、ラピードであるとしか言いようがない。最初は随分賢い犬だと思ったものだが、うん、ラピードである。
 ケーキを囲む面々を、その中でケーキを頬張って笑うエステルを見る。
 触れられなかった。
 以前は触れようと思わなかった。少し前までは、カロルやリタにするように、じゃれていられた。
 今は、気づいてしまった今は。
……エステ、」
 呼べない。触っちゃいけない。
 目を閉じる。
 同じだ。
 あの時と同じ。
 あの笑顔が、俺以外に向いていていい。幸せに笑っているのなら。
「レイヴン? 今、何か言いました?」
「いや?」
 名前を呼んでくれる声がある。
 それ以上は、望まない。
 顔を上げて、いつものようにへらりと笑った。





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