香春 蘇葉
2021-01-17 03:48:10
2317文字
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【似たもの同士】

復活時空ルシサン。かっこわるいとこ見られたくないフォンと頑固で忍耐強いル様の話。

空の民により近い精神構造で彼を創った。それ故にルシファーが創った他の天司達よりは、よほど複雑な感情を持っている。辛い時、悲しい時には泣く。嬉しい時、楽しい時には笑う。そんな風に創ったつもりであったが、中庭にいた頃はおろか、一度失われて再顕現した今も、彼が笑うところを目にすることはあれど、泣いているところを目にしたのは片手で有り余ってしまうくらいの回数で。

「ルシフェル、サンダルフォンを見なかった?」

ある日の昼下がり、討伐依頼に出た折である。依頼内容の割に、一行の前に立ちはだかった魔物はやけに強く、苦戦を強いられた。と言うのも、相対した魔物に、依頼書には記載されていなかった、特殊な能力があったからなのだが。
魔物は、ランダムで弱体付与をする能力を有していた。しかし、騎空団の中に数人いるような、弱体付与を得意とする団員達が操る強力なものではない。例えば武器を突き出すその一歩の直前に脹脛の痙攣を起こしてみたり、詠唱をするそのさなか盛大に舌を噛ませてみたりとさしたる影響はないものの、魔物討伐に少し苦心するような弱体効果であった。無事討伐依頼を終えた後、丁度ドクタークラスで出ていたグランは、地味な効果だったとしても後々影響が出る可能性があるので、と討伐に参加した全員の様子を丁寧に確認して回っていたのだが、どうにもサンダルフォンの姿が探せど探せど見つからないのだ。そういうわけで、彼は真っ直ぐにルシフェルのところへ聞きに来たのだという。

「然程離れてはいないところに気配は感じるが」

「うう〜ん……これは何かあったな……今すぐに迎えに行きたいけど、多分僕じゃ何もないって追い返されちゃうだろうし…….」

……では、私が」

「え?本当?いやぁ〜言わせちゃったみたいでごめんね」

よろしくお願いします。そう言うグランはルシフェルが再顕現した当初より余程遠慮がなく、打ち解けてくれているように思う。研究所にいた頃や天司長であった時は常に誰からも一線を引いた状態で接されていたので、ルシフェルにとっては新鮮で、喜ばしい。
小さく頷いて、そばの茂みへと分け入る。枝木を踏んで気配を頼りに森の中を進めば、しばらく歩いた先で縮こまる彼の背中を見つけた。知らず詰めていた息を深く吐くと、サンダルフォン、と彼の名前を呼びながら近づいていく。

……ッ来ないでください!!」

あと数歩、というところで不自然に震えた叫び声が投げつけられて、ルシフェルは歩みを止めた。声をかけるか否かと迷っていると、不意にそろそろと言った体で肩越しに赤い瞳がこちらを向く。

「後から必ず戻りますから、放っておいてください」

「しかし特異点から、君に異常等がないか確認したい、と連れてくるように言われている」

私も、君に何の異常もないことを知って早く安心したい。重ねてそう言って、残りの距離を詰めれば、蹲み込んだ背中があからさまに飛び上がった。逃げようとするその肩を掴んで、同じように蹲み込むと、両手首を握りこみ、顔を覗き込む。
はたり、と地面に雫が垂れた。何だ、と聞くまでもない。再顕現したあの日から一度も見ていない彼の涙が、ルシフェルの心をひやりと貫いた。慌てて再び、覗き込むように顔を傾けながら、彼へ言葉をかける。

「サンダルフォン、こちらを向いて欲しい」

「嫌です。いくら貴方が相手だとしても、俺にだってプライドってものがあるんです。泣いてるとこなんか、見せられません」

どうやら彼に降りかかった効果は、涙が止まらなくなると言うものだったらしい。さて、どうしたものか。ルシフェルはそっと息を吐いて考えた。このまま無理矢理にでも自分の方を向かせることも、できることはできるが、それは何よりルシフェル自身がしたくはない。かと言って彼の目に異常がないか早く確認してしまいたいので、何もせずにこのままでいるのもルシフェルの忍耐が限られてくる。何より、ルシフェルは泣いている彼に、優しくしたい。落ち着かせて、その瞳を濡らす涙を止めてあげたい。
そこまで考えてしまうと、行動するまではすぐだった。こめかみに、額に、手の甲に。優しく、労るようなキスを繰り返しする。唇が触れる度にサンダルフォンの体は小動物のように跳ねたが、構わず何度となく繰り返していくと、徐々に抵抗する力は弱くなっていき、ついには動きを制された彼の手が、指先が、諦めたようにぱたりと落ちた。

「サンダルフォン、お願いだ」

……そういうのは、ずるいと思います」

「ズルくても、私は君が泣いているのを前にして何もできないままでいたくはない。私を、情けない男にしないで欲しい」

瞼に唇を這わせば、涙で濡れたまつ毛が一度ふるりと震えて、その下からゆるゆると覗いた赤い瞳が、文句ありげににルシフェルを射抜いた。

「ルシフェル様、そんなに頑固でしたっけ」

「頑固だよ。特に君のことに関しては。共に過ごしていた君が似てしまう程に、私は頑固だ」

さて、帰ろうか。顔を上げた途端にしとりと一度唇を食まれて、舌先のひと舐めを残してルシフェルの顔が離れていく。ついで立ち上がった彼に両手を引かれて、サンダルフォンは渋々腰を上げる。羞恥と悔しさに唸りながら、歩き出すと、数歩進んだところで何かを思い出したのか、ルシフェルが肩越しにこちらを向いた。そうして束の間、サンダルフォンの顔を見つめたあとに、おや、と穏やかに呟きながらふわりと微笑む。

「涙は止まったようだ」

「おかげさまで」

ぐっと言葉に詰まった後で、苦し紛れにそう言うと、ルシフェルの肩が上機嫌に揺れた。