昔から風邪を引くことは少なく、頑丈な方と思っていた。だから、油断していたのだ。確かに数日前、朝目が覚めた時喉に違和感を覚えていたが年末の忙しさに気を取られて気づかなかったことしてしまった。その結果が、これだ。
サンダルフォンはこほ、と咳をひとつすると、節々が痛むやたらと重く感じる体をのそのそと動かして、体の向きを変えた。
本当なら大晦日のこの時間帯はリビングルームでルシフェルと二人、いつもより少し豪華な食事をしながら、とりとめのない会話をして年を越すはずであった。しかし、昨日の夕方、サンダルフォンは突然の高熱に倒れた。体を崩しやすいルシフェルと違い、サンダルフォンは同棲を始めてからはおろか付き合い始めてから一度も体調を崩したことはない。だからこそなのだろう。普段あまり動じないルシフェルが体調の悪さを訴えた瞬間に思っていたよりも狼狽えた。
サンダルフォンを横抱きにして寝室に運び、ベッドへと押し込んだかと思えば、自ら消化のいい食事を作ってベッドルームに持ってくると、手ずからサンダルフォンに食べさせると、それ以降片時もそばから離れずに過ごしていたのだ。
正直、風邪を引くことが稀にだとは言え、サンダルフォンも立派な成人男性である。体調が悪かったとしてもちょっとやそっと放っておかれたくらいではどうということはない。むしろルシフェルの方こそ風邪をひきやすい上に普段仕事で疲労を重ねているのだから、きちんとしたところで眠って休んで欲しいくらいである。まぁ、サンダルフォンがいくら願ったところで、頑固なルシフェルが話を聞くわけもないのだが。
サンダルフォンは熱によって腫れぼったい瞼を、ため息と共にひとつ瞬かせた。そのタイミングで、まるで測ったかのようにベッドルームのドアがノックされる。ドアをじっと凝視していると、呼吸ひとつ分ほどをおいて薄く開いた隙間から蒼い瞳がこちらを窺うように覗いた。ああ、もうそんな時間か。時計を見やれば、年を越すまで残り三十分ほどで。サンダルフォンが起きていることを確認してから入ってきたルシフェルの装いも、すっかり眠る準備を済ませたものだった。
「ルシフェルさん」
軋む体を身じろがせて布団をめくりあげると、スペースを開ける。名前を呼ばれた方はといえば、少しの逡巡を見せたあとにややあってゆっくり近づいてくると、サンダルフォンが開けたスペースにその大きな体をねじ込んできた。ぎゅうと向かい合わせに抱きこまれながら、サンダルフォンはバツが悪そうにすみません、と唸る。
「君が謝る必要はないよ」
「でも、せっかく貴方が色々用意してくれたのに、っ」
言葉尻が途切れた。指で唇をそっと押さえつけられてそれ以上の言葉を制されると、徐にルシフェルの唇が近づいてきて、重ねるだけのキスをされる。
「こういった年越しもたまにはいい」
だから眠ってしまおう。重ねて言われて、抱きしめられる腕の力が強くなる。その体温にとろとろ瞼を落とすと、サンダルフォンは襲い来る眠気に体を委ねた。目が覚めたら、真っ先に彼と言葉を交わそう。
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