騎空団に在籍する団員にプレゼントを配るのも、時間が取られて骨が折れるだろうと、今年は自らの力で飛べる者を中心として、プレゼントを預かり、手分けして配ることになっていた。ついで仕事に停泊している島の村々にも、と夜通し飛び回り、艇に戻ってみれば夜明けまであと幾ばくかもない時分となっていて。
そこから少しの休息を経て、グランが招待されいてる各国のパーティに名代として出席をして、加えて他の団員達との約束を果たして、サンダルフォンのクリスマスはそこで終わりを迎えた。
時計の針が天井を差し、特別なクリスマスの夜から、何の変哲もない年の瀬のあくる日に移り変わる。そこから三時間ほどが経った頃、サンダルフォンは遠方で催されていたパーティから戻り、疲れた顔でひとつ息を吐きながら甲板に降り立った。連日の酷使でどこか凝り固まった羽を収めて、艇の中の気配に意識を向けると、既に艇に残留していた者、早々に帰ってきていた者は眠りに落ちてしまっているようで、甲板の下は穏やかな眠りの気配で包まれていた。
頭に積もった雪を、払いながら階段を下り、邸内に入ると、壁に灯された灯りに魔法が仕込まれているようで、廊下はじんわりと温かい。ほっと肩の力を抜きながら、高いヒールの音を夜明け前の静寂に響かせないように注意を払いつつ進み、食堂の前を通り過ぎ、艇の端に位置する自室の前へとたどり着く。とん、と上げていた踵を床板に下ろしたサンダルフォンは、自室の鍵を取り出そうと正装のジャケット、そのポケットに指先を差し入れた。
「ああ、鍵は私が」
ふわり、となじんだ香りが鼻孔を突いた。次いで後ろから伸びてきた手が、指先で摘まんだ鍵を鍵穴に差し入れて、サンダルフォンの部屋の鍵を開ける。腕を辿り、その主を確認すれば、頭に思い描いていた通りのかんばせが、サンダルフォンの視線に気が付いて、にこりと小さく微笑んだ。
「サンちゃん、夜会への出席お疲れ様でした」
「全くだ……さすがにあの距離は、俺でも骨が折れる。ルシオ……君も、聖夜に討伐依頼とはご苦労なことだな」
「ええ。しかしこれも、要らぬ争いを起こさぬため。今年は騎空団のパーティに参加できたのですから、私はそれで満足です」
ため息まじりのサンダルフォンの言葉に、どこか満足げにそう言いながら、ルシオが戸を押して、サンダルフォンの体を後ろから抱き込むように部屋の中へ入っていく。大きな犬がじゃれついてきているようで、歩きにくさに眉をひそめていると、思っていたよりもあっさりと、彼の体が離れていく。
「……どうする。眠る前に体を温めるなら、今から厨房を借りて何か作るが」
「いえ、軽く体を綺麗にして、二人ですぐにベッドに入ってしまえば、そう寒くはないでしょう」
肩から外套を落として、コートハンガーにかけながら、どこか上機嫌そうにルシオが言う。その表情に柄にもなく自らもそわそわと浮足立つ感覚を覚えながら、サンダルフォンは首から薄い造りのマフラーを外した。身に着けていた全てを壁から飛び出したフックにハンガーを使ってきちんとかけ、エーテルをふわりと素肌の体にまとうと、いつもの装束で体を覆う。肩越しにこちらの様子を窺いながらベッドのシーツを整えていたルシオは、サンダルフォンの支度が終わったのを見計らうと、いそいそと軽い足取りで近づいてきた。あの羽で数ミリほど浮いているのではないか、と思うほど、いつにない上機嫌さである。
「サンちゃん、明日のご予定は」
「知っての通り、非番だ。キミは?」
「私も明日は、非番です」
奇遇ですね。重ねて言う彼に茶番だな、と軽く鼻で笑いながら、手の甲で彼の頬を柔く叩いて、撫でる。事前に二人で決めていた非番だというのにわざわざこんな茶番を挟んでくるのだから、どうやら思っていたよりも楽しみにしていたようで、それを許容する自分も浮足だっているらしい。
ルシオに手を引かれるようにして厚手のキルトの中に二人で滑り込む。正面から抱き込まれると、殊更彼の匂いが強くなって、サンダルフォンはひとつ鼻を鳴らすと、額をぐりぐりと押し付けるように彼の顎の下へもぐりこんだ。
「……狭いな」
「ふふ、温かいですね」
つむじにすり寄ってくる頬からの振動に、温かさも相まってとろとろと落ちてくる瞼に任せて目を閉じると、サンダルフォンは肺いっぱいにひとつ息をつく。
別段、クリスマスに二人でいる必要はない、と団のパーティと他の依頼や約束を優先した。それ故にここ二日、まともに顔を合わせていないが、今この時があるのならば、その二日間も悪くはない。
「では、起きたら約束通り」
「ああ、朝から付き合ってもらう」
返事の代わりに喉を鳴らす彼の声が何とも穏やかで。程よい疲労に包まれた体を揺らす。ああ、こんなにも早く眠りに落ちるつもりはなかったのに。ぼんやりと思いながら、サンダルフォンはすり、とひとつ彼の胸板にすり寄って眠気に全身を任せた。
目が覚めたらクリスマスでも何でもない休日が待っている。
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