パーティも後半に差し掛かり、幼い団員達はプレゼントを夢見て眠りの中。酒酔いした連中は声高らかに歌を歌い、武勇を語り、会場は耳が痛いほどの喧騒に包まれていた。懸念していた騒ぎは起こらず、無意識に入っていた肩の力を抜いて団員達に囲まれたグランへ視線をやり、それから順繰りに会場の中を見回して、人々の楽しげな姿にそっと笑みを零す。
そうして、出入口である両開きのドアへ視線を移したところで、ルシオははたと瞬きをした。先程までグランの近くで騒ぎを眺めていた彼が、金属製のマグカップを片手に会場の外へ出て行く姿が見えたのだ。
数年越しに初めて参加したこのパーティに、ルシオが兼ねてから関心を寄せている彼もまた、出席するということはグランからの話でわかっていた。一瞬、もしかするとこの賑やかな会場の中であれば、彼も話をしてくれるかもしれない、と期待が胸をくすぐったが、顔を合わせる度に警戒しきりの猫のように毛を逆立て、ルシオのやることなすことひとつひとつに眦を釣り上げる彼の姿を思い出して、すぐに諦めに期待を塗りつぶされた。夏の頃には以前よりは打ち解けられたような気がしたが、艇に帰ってからはまたすぐに元の距離感に戻ってしまったので、声をかけようにも憚られる。一度彼の心の内を見てしまってからは、今まで微笑ましいとさえ思っていた彼の怒った声が、胸に深々と刺さるようになってしまったから。らしくもない。そう思いながらも彼の声がささくれのように刺さる瞬間が怖くて、パーティの間は一度も彼には寄っていかなかった。
とは言え、今夜は聖なる日。大人も子供も大切な人と温かな時間を過ごして笑顔のまま眠りにつく日。そんな日だというのに、喧騒を離れて一人外に出る彼を見てしまったら、放っておけなくて。ルシオは火の元素の炉の上で暖まったワインを木製のカップに注ぎ足すと、足速に彼の背中を追って会場を出た。
気配を辿るとどうやら甲板にでたようで。階段を上がり、吹きつけた雪混じりの風に目を眇めながら見回すと、隅の方で欄干に体を預け、空を見上げながらマグカップを傾ける彼の姿を見つけた。どこかそわそわと逸る心を必死に抑えながら彼の隣まで寄って行き、同じように欄干にもたれかかる。
「サンちゃん、こんばんは」
「ああ、キミか。こんばんは……抜け出してきてよかったのか?」
ず、と彼がカップの中身を啜る音がする。鼻腔を擽る香ばしい匂いと、彼の表情から察するに会場で振る舞われていた名店の珈琲であろう。ひとつ瞬きして、ルシオもまた、彼と同じように木製のカップを傾けた。葡萄とほんのりスパイスの香りがして、なんとも絶妙な味が舌を浸す。ほう、と息を吐き、思わず口元を緩めれば、不意に隣からく、と喉の奥で笑う声がした。
「美味いか?」
「ええ、優しい味がします。サンちゃんこそ、楽しみにしていた珈琲はどうでしたか」
「ああ、なかなかのものだ」
グランが泣きついてきただけあるな。重ねて言って、彼が緩やかに口角を上げた瞬間に、心臓がことりと一際高く揺れた。聖夜という特別な日のせいか、はたまたルシオがまだ知らない別の理由か、今日は何だか感情が不安定だ。彼があの夏の日のように穏やかなのも、理由のひとつだろう。
ひとつ咳払いして、視線を手元のワインに落とせば、今度は彼の視線がこちらを向く。
「珈琲を、貰わなかったのか?キミ、あれだけ飲みたいと言っていたじゃないか」
彼の言葉にゆっくりと瞬きをして、ルシオは視線を彼の手元へ滑らせた。確かに香ってくる珈琲の匂いは嫌いではないし、飲んでみればきっと美味しいのだろう。しかしどうしても、手を出してみる気にはなれなかった。その理由を、ルシオは曖昧ながらもちゃんとわかっている。
「私が欲しいのは、その珈琲ではないですから」
「……そうか」
口に合うものが見つかればいいな。どこか的外れなことを言って、彼がもう一口珈琲を啜る。その横顔を一息のいとま見つめて。ルシオは微かに苦笑すると、彼との距離を一歩詰めて、湯気がほんの少し薄らいだホットワインで唇を湿らせた。
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