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香春 蘇葉
2020-12-19 12:30:50
2545文字
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【ホリデー支度の寄り道に】
クリスマスボイスに幻覚を見たシオサン第一弾
今年も残りあと二十日間を切ったある日。
この時期は皆クリスマスの準備に忙しく、誰もが己が身に合った役割を振られている。艇にいれば例外なく、パーティの出席の有無に関わらず、仕事を頼まれることも珍しくない。人の営みにあまり近くはない人外の者たちも、人に限りなく近い超越した存在の者たちも、みなそれぞれ振られた仕事を抱えて楽しげに動き回って居た。
そしてそれは、パーティ出ると決めていながら、いまだ何一つとして仕事を振られていなかったサンダルフォンも同じで。パーティを残り一週間ほど後に控えたある朝、団長に呼び出されてとある仕事を頼まれた。曰く。
「キミと俺、二人で買い出しに出掛けて、パーティの準備に不足しそうな物資を買い集めてくれ、と」
「そうなりますね。しかし、ああ
……
大丈夫でしょうか。この時期は街に人が集まるもの。そこに私が現れて、要らぬ争いにならないといいのですが」
「そんな事を憂う割には、随分と軽装だな?何より、寒くないのか?人の子は今時分、しっかりと防寒を施して外にでなければならないのだろう?」
グランに頼まれた仕事の同行者を見上げて、サンダルフォンは呆れたようなため息をついた。紆余曲折あって、最近になり恋仲へ発展した彼であるが、その時に突飛な行動にはいつまでも慣れそうにない。
外は雪が降るほどに冷えているというのに、サンダルフォンが見つめる先の彼ときたら、いつもの装束姿なのである。見ているこちらが寒いと言われて、寒暖に身体的な影響がないサンダルフォンでさえ、人の子に合わせてもこもことしたマフラーを身につけているというのに、一体何のつもりなのだろうか。
決して恋人に向ける様なものではない訝しげな視線を、ぎ、と睨みつけるように据えれば、彼が驚いたかのようにひとつ瞬きをした。次いで淡く微笑みを返されて、心配してくれるんですね、といつもよりワントーン高い弾んだ声音が場に響く。
「寒くはないので、大丈夫ですよ」
「そういう問題ではないんだが
……
まぁ、いい」
もしかして、防寒着の類を持っていないのだろうか。否、そんなはずはない。自分達星晶獣のような存在ではあるまいし。
しかし、仮にそれが本当だとしたら、サンダルフォンがここ数日抱えていた悩みを一気に払拭できやしないだろうか。もしそうであるのなら、ここで延々と出発前の問答を繰り返しているよりは、早々に街へ繰り出して行った方がいい。
彼の返答を一応は納得した風を装って、サンダルフォンは自分より頭ひとつ分程度嵩張る長身を伴い、クリスマスの準備に賑わう街へ出た。興味に任せて彼が逸れてしまわないように始終手首をしっかり掴んで、彼の周りに寄ってくる人々を威嚇しながら頼まれた品物を手早く買い集める。
そうしていると、黙って街の様子を見ているのにも飽きたのか、彼がそういえば、と口を開いた。
「サンちゃん、今年は貴方もパーティに出るのでは?」
「ああ
……
そういうキミも、珍しく重い腰を上げたと聞いたぞ。名店の珈琲が振る舞われるらしい。俺もそうだが、さぞ楽しみだろう」
「いえ、私は
……
サンちゃんや、皆さんほどは」
「
……
?持参するほど、好きだったと記憶しているが?」
さなかにそんな会話を交わして、そうですねぇ、と彼が返した曖昧ないらえに首を傾げながらも、買い出しを進めてゆく。途中入った雑貨店で彼が目を逸らした隙で、出発前に手に入れると決めていた品を気づかれることなく荷物に紛れ込ませることに成功すると、残り数軒を回った後に頼まれていた買い物は終わりを告げた。
あとはさて、荷物に紛れたコレをいつ渡そうか、と相変わらず周囲に威圧感を放ちながら帰路へつこうとすると、不意に彼があっと声を上げて立ち止まる。つんのめるようにして足を止めて、肩越しに彼を振り返り、その視線を辿れば、きらきらとした蒼い瞳はこの時期特有のマーケットへとひたすら据えられていた。
「そろそろ、その姿だと冷え切ってくるだろう。寄り道せずに、艇へ帰るぞ」
「しかし、クリスマスマーケットですよ。この時期にしかありません。私はできればサンちゃんと共に見て回りたいのですが」
そう言う彼の表情はどこかしゅんとしょぼくれていて、一瞬彼の頭と背後に垂れた耳と尻尾の幻覚が見えた様な気がした。ぐっと束の間答えに詰まったサンダルフォンだったが、ふと荷物に紛れ込ませた品の存在を思い出して、渡すなら今だ、と直感すると、徐に荷物を漁り始める。
そうして取り出した紙包みをそっと開いて、中から取り出した物を、不思議そうにこちらを見下ろす彼の首に素早く巻くと、サンダルフォンは明後日の方向を向きながら少し早いが、と口にした。
「キミへのプレゼントだ。しっかり防寒すれば、マーケットについて行くのも吝かではない」
「このマフラーを、私に
……
?本当に気にしなくてもよかったのですが
……
でも、ふふ
……
暖かい。ありがとうございます。大切にしますね」
後日お返しを。深いフードのついた外套を、続け様に出して、伸びあがり、彼の肩へかけてやっていると、不意に彼が重ねてそう言って、サンダルフォンの体を引く。引かれるに任せて荷物ごと彼の胸板に飛び込むと、すかさず前髪をかき上げられて、露わになった額へそっと唇を押し付けられた。その刺激にびくっと体を跳ねさせて、頬へ熱を集めていると、小さな笑い声と共に彼がひとまずはこれで、と肩をすくめる。
「恥ずかしいやつだな」
「何とでも。私は隙あらば、サンちゃんに触れたいので」
額を押さえながら非難混じりに上目で見上げれば、今度は逆に手を握り込まれて、クリスマスマーケットの光の方へ引かれた。
彼の肩越しにちらちらと見える暖色の光と、聞こえてくる楽しげな音楽と賛美歌。心なしか彼の背中についていく足取りも軽やかで。サンダルフォンは自分が贈ったマフラーと外套を身につけた背中を見上げて、満足げに息をついた。心のどこかがクリスマスを待つ子どものようにそわそわとして落ち着かない。それは決して不快な感覚ではなくて、だからこそサンダルフォンは少し戸惑ったように苦笑して、重ねられた手へわずかに力を込めた。
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