Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
香春 蘇葉
2020-12-14 03:10:31
2049文字
Public
Clear cache
【一夜、熱を交えて】
ルシサンワンライ:グラフェス
可能性として。あるいは。
数日前、夢の中に突如として現れた預言者と名乗る男は、そう前置きするとサンダルフォンにとある話を始めた。どれだけ目を凝らそうとも、顔を覗き込もうとも、決してそのかんばせを認識することはできない、なんとも胡散臭い男ではあったが、言っていることは筋が通っていて納得せざるをえなかった。と、いうよりはサンダルフォンも一度、経験していることではあったので、男に対する胡散臭さよりも信憑性の方が勝ったというべきか。
男の話はこうだ。グランサイファーでは度々不思議なことが起こる。どれも普通の人間が一生の内で経験するどの事象をも凌駕するほど奇なるものではあるが、その最たるが、年に数回起こる時空の歪みと言われるものだそうで。歪みの先はダンスステージによく似た不思議な空間で、歪みに吸い込まれていく団員たちは決まって、数ヶ月前に不思議な夢で指名された面々である。指名されてから数ヶ月の内に歌や舞を練習し、そうして本番、吸い込まれた先で練習の成果を披露し、観客たちを満足させることで、晴れて元の時空に戻れるのだ。
かくいうサンダルフォンも、数ヶ月前不思議な夢で指名を受けた。そこから同じ境遇の団員達と渋々ながら練習を積み重ねてきて。恐らく明日にでもお呼び出しがかかるだろう、という前日の晩に、この預言者を名乗る男は現れた。
勿体ぶった前置きの果てに、男は言う。可能性として。あるいは。時空の歪みが起こる日に、他のありとあらゆる空間が変化するだろう。その影響で、狭間に閉じ込めた堕天司達が抜け出したり、もしかするとサンダルフォンの創造主にも会うことができたりするのかもしれない。
可能性は限りなく低いですが。男はそう言うと、サンダルフォンの返事を待たずして姿を消した。
信憑性はあったが、途方もなく小さな可能性であることは分かっていた。だから、期待しすぎないようにしていた。だというのに、〝起こってしまった〟のだ。
その夜、サンダルフォンは歌と舞を捧げ終えて無事戻った艇の中を必死で走り回っていた。演技のさなかに、彼の存在を確かに感じたのだ。純白の六枚羽を出すその直前に、背中から静かに覆い被さってくるような気配を。元の時空に戻るためには演技を中断することはできなかった。故に振り返って確認することもできない。
可能性として。あるいは。夢の中の言葉を繰り返し頭の中で呟きながら部屋のひとつひとつを回り、艇の中にも微かに残る彼の気配を追った。
そうして入ることのできる部屋を全て確認し終えて、甲板に出た時、ようやくその姿を見つける。
彼は甲板の隅に積み上げられた木箱の上に、ちょこんと腰をかけるようにして空を眺めていた。きっと、サンダルフォンが甲板に上がってきたことはすでに気がついているのだろう。だというのに、視線のひとつもこちらによこさず、よく晴れた空にぽかりと浮かぶ月の、冴えた白い光を浴びながら、その蒼い瞳で一心に上空を見つめている。
束の間その美しさに息も忘れて見入り、そしてその姿が幻の類でも何でもないことに気がついたサンダルフォンは、慌ててまろろぶように駆け出した。高いヒールの音を響かせて甲板を蹴れば、蒼い瞳がゆるりとこちらを向く。視線がかち合った瞬間から、一息にも満たない程の時を数えて、サンダルフォンは体ごとぶつけるような勢いで木箱の上の彼へと抱きついた。
サンダルフォンを抱き留めた彼ごと、ふわりとエーテルの風を纏いながら、二人の体が甲板へ落ちていく。そうしてとん、と彼の後頭部が床板についたと同時に、その体へ馬乗りになったサンダルフォンは、噛み付くように唇を食んだ。擦り合わせ、舌先を切ない吐息と共に交わらせて。しばらくの触れ合いの後に、熱を上げた体をもたげて、自らの下敷きとなっている彼を見下ろせば、困ったように眉を下げた彼がいたずらっ子のように肩を竦めてこちらを見ていた。
「君の歌と舞を邪魔するつもりは、なかったのだが」
「っ、ふ
……
そんなの、気づ
……
っ、かないわけないでしょう
……
っ」
ナンセンスだなぁ。頭をふりながらそう言うと、目に溜まった涙が彼の美しいかんばせにぱたぱたと落ちる。指先でそれを掬った彼は、小さく苦笑をすると、やおら上体を伸ばして、サンダルフォンの頬へと触れた。
「サンダルフォン、どうせ一夜限りだと言うのなら、できれば君の笑った顔が見たい」
「ふ、ふふ
……
もう、仕方ないですね」
泣いてる暇も与えてくれないらしい創造主に、泣きながら笑ってみせると、鼻梁に唇を押し付けられて、次いで額が顎下にすり寄ってくる。
一夜だけだという彼の言葉は真実なのだろう。それでもちらと、この瞬間が永遠ならば、と思ってしまう。そんなこと、叶いっこないというのに。
グランサイファーでは度々不思議なことが起こる。その最たるものが艇内に発生する時空の歪みで。今宵もそれに踊らされる獣が二人。祭典の熱冷めやらぬ体を月明かりの下寄せ合っていた。
・
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内