香春 蘇葉
2020-12-08 07:32:21
1808文字
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【真夜中の病に】

シオサン。夜に考え事してた🧂の話。

真夜中はどうしたって考え事が多くなる。例えばそれが、楽しいことであったのなら、きっと幸せなことだろう。しかし真夜中に一人でいて、ふと思い浮かぶ考え事なんてものは大概良いことや楽しいことである事の方が少ない。今夜も思惟の海に呑まれて深く沈み込み、息がろくにできなくなった者がひとり。
サンダルフォンはベッドが重みに悲鳴をあげる微かな音でふと目を覚ました。枕に頬を預けて、うつ伏せに眠っていた彼の、薄く開いた視線の先では、普段過ごす小さな部屋がいまだ暁の遠い、夜の様相をしている。こんな時間に、一体誰が。起き抜けの頭でぼんやりと薄暗い闇を眺めていると、不意にベッドの上の空いたスペースに誰かが体を詰め込む気配がした。小さなベッドはいかな痩身のサンダルフォンであろうと一人が眠るのでいっぱいいっぱいで、相当密着しなければ二人目が入る余地はない。だというのにそいつは不躾にもグイグイと、壁とサンダルフォンとの間に割って入ってきて、当たり前のように腰に腕を回したかと思えば、力加減は心得ているとばかりの絶妙な力できゅうと体を密着させてくるのだ。これが意識のはっきりしている時であったなら、暑苦しい、とも勝手に入ってくるな、とも抗議の声をあげて、すぐに追い出していたところであったが、気怠い眠気に全身を浸されている今ではそれも叶わない。とは言え自分は不本意である旨くらいは伝えなければ気が済まなかったので、サンダルフォンは肩甲骨同士の間に縋り付くように押し付けられた鼻先の存在を覚えながら、小さくため息をついた。

……ルシオ」

確かに不機嫌そうに聞こえるが驚くほどぼんやりと響いた声に、頭の隅のはっきりとした部分で苦笑していると、返事の代わりとばかりに腰に回った腕の力がそっと強くなる。下腹のあたりを両掌で押されるようにして、ぐっと尻とルシオの腰とが近くなった。別にそういう気分ではないのだろうが、普段の触れ合いが触れ合いなので、押し付けられた腰をどうしても意識してしまって、サンダルフォンは一気に目を覚ました。くあ、と頬に集まる熱を自覚しながら、腰元の腕を指先で撫でて、体を捻ると、彼の頭頂部にそっと頬を寄せる。

「キミらしくもない。怖い夢でも見たのか」

苦笑混じりに訊ねれば、もうひとつ腕の力が強くなる。身動きが取れなくなる前に、とひとつ瞬きをしたサンダルフォンは、彼の腕の中で苦心しながら体の向きを変えると、丁度胸の真ん中あたりに来た頭をそっと抱きしめた。ぽんぽんと幼子にするように撫でてやれば、ようやく多少は気分が浮上したらしいルシオが深く息を吸って、腰元から背中辺りへと掌を伸ばしてくる。ぐっと顔を押し付けるように密着されて、くすぐったさに肩を揺らすと、不意に唸るような声が鼓膜を透かす。

「少し、考えごとをしていたら、眠れなくなりまして……ぼうっと艇内を散歩していて、気がついたら……

「うん?」

「サンちゃんのお部屋の前にいました」

何だそれは、と小さく噴き出せば、至極不満そうに笑わないでください、と返ってくる。
眠れないと艇内を彷徨っていた時に、不意に思い出したのだ。サンダルフォンを腕に閉じ込めた時の体温や、匂い、それから鼓膜を緩やかに揺らす声を。一度思い出したらいてもたってもいられなくなって、ひたすら足を進めた結果、サンダルフォンの部屋に辿り着き、深夜不躾にもベッドに忍び込む、という行動に及んだというわけらしい。

「起こしてしまって、すみません」

消え入りそうな声で腕の中の彼がそう言うので、サンダルフォンはひとつぱちりと瞬きをして、それからにんまりと口元を笑ませると、彼のつむじに額をぐりぐりと押し付けた。

「別に怒っていない。たまにはしおらしいキミを見るのもいい気分だ」

だから気にせず寝てしまえ。頭を抱きしめる腕の力をきゅうと強くして、軽く体を揺すれば、安堵したような吐息の音がして、ルシオがすり、と胸元に擦り寄ってくる。可愛げがあるじゃないか。笑みを深くして額を押し付けたつむじにそのまま唇を落とす。

「今夜くらいは、見なかったことにしてやろう」

やがて聞こえてくる寝息に誘われて、とろとろと落ちてくる瞼に任せて眠りに落ちれば、遠くの方で鼓動の音と彼が寝言で自分を呼ぶ声が聞こえた。真夜中に一人考え事をするくらいなら、こういう夜がいくつもあっていい。