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香春 蘇葉
2020-11-21 23:12:13
2116文字
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【独占】
ルシサンワンライ:独占
ルシフェルが自分に遠慮している。サンダルフォンがそれに気がついたのは、彼が再顕現を果たしてから数ヶ月が経った時だった。
それまでも度々、違和感のようなものは覚えていた。サンダルフォンと二人きりでいる時はあれほど柔らかな無表情の中に豊かな感情を滲ませて話をしてくれるし、サンダルフォンへの愛情を全身で示してくれる。だと言うのに他の団員と話している時や、二人きりではない外出に誘うと、その表情からにわかに柔らかさを消して、どこか冷淡な言動をするのだ。これに違和感を抱かずして、一体何に抱こうか。よもや他の団員に嫉妬して、ということはないだろう。ルシフェルはそんな感情とは無縁の性格をしている。他の団員と共にいたところで、彼が興味を擽られるような場所に誘えば嬉々として行動を共にしてくれて、喜んでくれるだろう。サンダルフォンはつい最近までそう思っていた。
再顕現してこちら、ルシフェルはどうにも様子がおかしい。彼の反応や、行動に違和感を覚える度に、サンダルフォンの中へ静かに折り重なっていって、徐々に不安は強くなっていった。この違和感がいつかルシフェルを、再びどこか遠くに連れて行ってしまったらどうしよう、と。
「私のことは気にしなくてもいい。いっておいで、サンダルフォン」
そうして散々、サンダルフォンを悩ませていた違和感であったが、ある日突然その正体を知ることとなった。
というのも、きっかけは現在騎空艇が停泊している島の、大きな村で毎年冬が始まる時期になると行われる祭りへ昼間のうちにみんなで出かけよう、ということでいつものようにルシフェルを誘いに来た時であった。気にしなくてもいい。そういう割にルシフェルの表情は浮かなく、よくよくその顔を見つめてみれば、どことなく唇も尖っているような気がする。なるほど、これは。
どうやら自分はルシフェルに理想を押し付ける癖をまだ完全には脱ぎ捨てられていなかったらしい。談話室のソファに行儀よく腰をかけ、その膝に本を開いているくせに、視線はちっとも本には向いていないし、かといってサンダルフォンにもほとんど向けられない。
それと気がついた瞬間に、サンダルフォンは談話室の扉から顔だけを出して、廊下の中程にいる団長達に自分とルシフェルは同行しない旨を伝えた。すぐに扉に鍵をかけ、ルシフェルのすぐ目の前まで小走りで寄っていくと、彼の膝から本を取り上げて、ぐいぐいと脚を開かせてから、そこにできたスペースへ自分の体をねじ込む。
「サンダルフォン?行かなくて、」
「いいんです。貴方と行かなくては意味がありませんから」
確かに決して短くはない時間、苦楽を共にして、今や気のおけない仲となった団長達と過ごすのは楽しい。しかし、ふとした時。例えば美味しそうな物を見つけた時や、楽しそうな様子を見た時、美しい景色を目の当たりにした時などに、私はいい、と同行しなかったルシフェルに共有したくてたまらなくなってしまうのだ。きっと、自分と同じように喜んでくれる。そう思う度に、いくら団長達との時間が楽しくとも、ルシフェルがその場にいないことが苦しくて、寂しいと思ってしまう。
「それに、どうやらルシフェル様は俺のことを独り占めされたいようですから」
「
……
そうか、これが」
「まさか気付かれていなかったんですか?ふふ、困った人だ」
背中をとんと胸板に寄せて、ルシフェルの両手を握り込みながら、顎下に頬で擦り寄ると、ルシフェルが悔しげに小さく唸った。
「子どものようだと、呆れてしまうだろう?」
「まさか。貴方にも可愛い所があるんだとほっとしましたよ」
それに、俺って諦めが悪いんですから。ふふんと鼻を鳴らして、したり顔でルシフェルを見上げると、こちらを見下ろす蒼い瞳が愛おしげにとろりと蕩ける。
「何度だって貴方を誘いますよ。俺が絶対に、他には靡かないって、貴方が安心できたら、皆と一緒に遊びにでましょう」
早速今夜。重ねてそう言って、サンダルフォンはルシフェルの小指に自らのそれを絡めた。伝わってくる体温にそっと目を眇めていると、不意に赤い瞳が何かを乞うようにルシフェルを見上げる。
「祭りは遅くまで続きます。ルシフェル様さえよれしければ、俺と二人ででかけませんか?」
元々、昼に出かける面々は時間帯を考えた上で若かったり、幼かったりする団員がほとんどだったらしい。遅くまで続く祭りに参加しようと夜の村に繰り出すのは、大半が酒や一夜の夢を目当てにした大人の団員で。その流れに乗じて、二人でこっそり艇を抜け出そう。そんな、何とも魅力的なお誘いに、ルシフェルはそっと苦笑をこぼして、小指を絡める力を強くした。
「どうですか?それなら、やきもちも焼かないで済むでしょう」
「ふふ、そうすると今度は、君の目を奪う美しいものに立派なやきもちを焼いてしまいそうだ」
なんですかそれ。ナンセンスだなぁ。
いたずらっぽく笑うその目尻に唇を落とせば、くすくすと笑いながら彼がルシフェルの脚の間で肩をすくめる。やはり敵わないな。薄い肩に額を押し付けながら、ルシフェルは柳眉を下げた。
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