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香春 蘇葉
2020-11-18 00:44:03
2511文字
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【君とお手軽風物詩】
現パロの学生なシオサン。
「キミ、いつものコートはどうしたんだ?」
授業も終わり、放課後の校門脇。職員室でちょっとした用事を終えてから出てきたサンダルフォンとは違い、ホームルームが終わってからすぐに教室を出たらしい彼は、その差の分だけの時間をここで待っていたようで。
今朝の天気予報で今季一番の冷え込みと言われていた今日の気温は、その予報に恥じぬほどに底冷えするもので、立っているだけで体の芯から冷え切ってしまいそうなほどであった。サンダルフォンだって今朝慌ててクローゼットの奥からピーコートとマフラーを出してきた程である。だと言うのに校舎から出てきたサンダルフォンを待っていたのは、いつもよりは厚手のカーディガンをジャケットの下に着込んでいるものの、コートはおろかマフラーさえ身につけていない幼馴染の姿だった。彼の体の成長が緩やかになってきた辺りに買ってもらったというコートは、サンダルフォンの記憶違いでなければ今年も使える程度の丈はあったはずである。
気でも違ったか。表情のみで言外に問えば、その表情の意味をどこまでも正しく捉えた彼が、困ったように苦笑して首を横に振った。
「私だって、こんなにも寒い日はコートくらい着たいです」
聞けば彼の兄であるルシファーが、今週の始めに週間天気予報を聞き、兄弟達に何も言わないまま、ハウスキーパーに言って家の中にある防寒着全てをクリーニングに出させたらしい。彼のクローゼットに行儀良く眠っていたコートとマフラーも、もれなく持って行かれて、まだ戻ってきていない。そこに、週間天気予報と少し外れる形で、今季一番の寒波が襲ってきた、というわけである。
鼻の頭まで真っ赤にした彼は、話終えるや否やそっと身を震わせると、じゃあ帰りましょうか、と何でもないような顔で笑う。それがほんの少し面白くなくて、サンダルフォンは自らのマフラーを素早く首から外し、軽く背伸びをすると、どこか心許ない彼の首元へ黙って巻きつけた。そのままの勢いで冷たくなった鼻先を指で弾けば、いたっと小さな声を上げた彼が、きょとんとした顔でこちらを見つめる。
「折角整った容貌をしていても、そう鼻を赤くしていては台無しだな」
「
……
サンちゃん、もしかして私の顔を美しいと、常日頃から思ってくれています?」
「は、
……
ルシフェルさんの次くらいにな。くだらないことを言っていないで、風邪を引く前に帰るぞ」
ほら、といつも通りに手を差し出せば、ひと呼吸程の間を置いて、彼の顔がぱっと華やぎ、勢いよく掌が握り込まれる。あまりに無邪気に喜びを示すものだから、サンダルフォンはほんの少しだけ気恥ずかしくなって、彼から視線を逸らすようにして方々へ視線をやりながら、互いの家に向かって校門を出た。
「でもサンちゃん、私がマフラーをお借りしてしまったら、サンちゃんが寒いのでは?」
「俺はまだコートもあるからいい。それよりキミはどうなんだ?昔から寒さには弱いだろう。冷え込むとすぐに風邪を引くくせに、人の心配ばかりしているな」
看病をするのは誰だと思っている。毎年冬にルシファーの横暴で彼の看病に駆り出されることを思い出しながら重ねて言えば、それを言われてしまうと、と彼が寒々しく白い息を吐き、蒼い瞳を眇めた。校門で落ち合った時よりは多少ましになっているが、それでもまだ、頬や鼻先は冷えてしまって赤いままである。時折吹き抜ける風の冷たさを思うと、やはりマフラーだけでは心許ないか。何とかしてもうひとつ、体を温める手立てを打たねば、きっと明日の朝には彼が高熱に浮かされてしまっている。
いつもより動きがのんびりとしている彼の手を引いて歩きながら、サンダルフォンはきょろきょろと辺りを見回した。何か、いいものは。そう考えたところで、不意にサンダルフォンの視界にとあるものが飛び込んでくる。
「
……
ルシオ、コンビニに寄っていいか?」
「珍しいですね。何が欲しいものでも?」
「ああ、少しな。キミは少しここで待っていろ」
コンビニの店先にルシオを待たせると、サンダルフォンは店内に入っていった。脇目も振らずレジ横のホットドリンクコーナーに向かい、はちみつレモンのボトルを二つ取り出してレジに並ぶと、今度は会計時にホットスナックの陳列棚からとあるものを二つ、出してもらうように頼む。それら全てを腕に抱えコンビニを出たサンダルフォンは、私大人しく待ってたんですよ、と言わんばかりの勢いで自分の方を向いたルシオに小さく笑って見せると、徐に裸のまま抱えた品々の中からホットスナックの包みを持ち上げて、包装を半ばまで除いた。ほら、と薄く笑いながら彼の口元に持っていくと、不思議そうにこちらを見下ろした蒼い目がひとつ瞬く。
「特別に奢りだ。そら、食べろ」
「
……
私、肉まんを食べるの初めてかもしれません」
「ん。そうだったか?なら、なおさら食べるといい。食べて、少しでも体を温めろ」
はちみつレモンのボトルを彼の手に押し付けて、自身も包みを開き肉まんに齧り付いてみせると、ややあっておずおずとルシオが肉まんに歯を立てた。咀嚼をしばらくしてから、こくんと嚥下。次いでにわかに輝き始めた彼の顔を見上げると、サンダルフォンは満足げに笑った。
「どうだ?こう寒いと殊更美味く感じるだろう」
「むぐ、これは何とも
……
美味しいものです」
ふわり、と。冷えた果てのものとは違う紅に、ルシオの頬が色づいた。これならば、風邪を引かずに済むだろうか。はちみつレモンのボトルをコートのポケットに突っ込み、空いた手でルシオのジャケットの裾を引いて再び歩き始めながら肉まんをひとつ齧ると、サンダルフォンは頬を緩めた。
「サンちゃん、何だかご機嫌ですね」
「別に。キミの気のせいでは?」
何でも卒なくこなして、昔から物をよく識っているルシオに、彼の知らないことを教えられたことは素直に気分がいい。握り込んでいた彼の手がいつの間にか常の体温にまで戻っていたことも相まって気を良くしたサンダルフォンは、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌さでまた一口肉まんを齧った。
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