香春 蘇葉
2020-11-13 12:43:45
2270文字
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【二人の時間】

復活時空ルシサン。寂しがり屋なル様の話

騎空団という集団の中で、彼は実に人の子らに好かれている。共に過ごした時間だろうか。はたまた苦楽を共にした経験からだろうか。彼の周りにはいつも人がいる。それはそうだろう、彼は誰よりも凛として美しく、優しいから、と納得がいくからこそ、またこの感情は行き場をなくしてしまうのだ。
再顕現して数週間程は常に行動を共にしていたが、ここ最近各々で日々を過ごすことになってから、彼と二人きりで過ごす時間はめっきりと減った。同じ部屋で寝起きするため、朝目を覚ませばまだ眠っている彼が隣で健やかな寝息を立てているし、夜挨拶代わりのキスをすれば、然程経たないうちに彼が腕の中で眠りにつく。日々は確かに穏やかで、幸せであるというのに、足りないのだ。彼ともっと二人きりの時間が欲しい。そう思ってしまう。
かと言って、どれだけ強くそう思ったとて彼にはとても伝えることはできない。自分がこの空になかった間も彼はこの騎空団の仲間と毎日を共に過ごし、同じ時間を共有してきた。最近この艇に乗るようになった自分とは比べ物にならないほど沢山の者と親しくしているはずである。だとしたら、彼が他の者と過ごす時間を、自分のわがままひとつで独占してはいけない。彼がまだ自分しか知らなかった頃と同じだとは決して思ってはいけないのだ。

「ルシフェル様、久しぶりに二人で街に出ますね」

そんなある日だった。物資調達にと二人で街に出された折に、こちらの手を握りながら彼が嬉しそうに笑った。一日の終わりに二人で使っている部屋で顔を合わせて、束の間の会話を楽しむ以外、彼と二人になることを避けてきたルシフェルのコアは、もうそれだけでも嬉しげに震えた。二人きりになればなるほどに、もっと彼の時間を独占したいと願う自分がいることに気がついて、研究所にいた頃よりも更に顔を合わせる時間は少なくしていたが、こんなにも嬉しそうに笑ってくれるのならば、もっと二人の時間を持てばよかった、とルシフェルはほんの少し後悔する。際限なく溢れ出る彼への欲が恐ろしくて、意図して二人の時間を減らすなど、なんとも無粋な話であった。後ろ手にルシフェルの手を引きながら、跳ねるように人混みを縫う彼の背中を見下ろしてそっと心の内に苦笑を落とす。

「そういえば、こうしてルシフェル様とゆっくりお話するのも久しぶりですね」

最近、二人とも忙しかったから、と物資調達の途中に入った喫茶店で、テーブルの向こう側の彼が小さく苦笑を浮かべた。その頃にはもう目的の物はすぐに買い揃えていて、それぞれ座る椅子の隣に堆く積まれていた。時刻はすでに普段団員達がティータイムを取るくらいの時間にはなっていて、窓から見える晩秋の晴天はすでに日が傾きかけている。できれば彼の隣に座りたかった、だとかもうすぐ帰らなければ、だとかつらつら考えつつもルシフェルは彼の言葉にひとつ頷きを返した。

「ルシフェル様がこんなにも早く艇に馴染んでくれて、俺も嬉しいです」

嬉しそうな彼の一言に、違う、とも言えずにルシフェルは曖昧な微笑みを返すことしかできない。違うのだ。彼と共にいる時間は少なくなれど、実際のところルシフェルはひとりでいることが多い。本当ならば、いつだって彼のそばにいたい、と伝えられたらいいのに。彼を取り巻く環境を自分勝手な欲求で壊したくなくて、つい飲み込んでしまう。
休憩を終え、艇に帰る時になってもそれは変わらず、ルシフェルと同じ位の量の荷物を持って前を歩く背中をただただ見つめながら、時折彼の言葉に返事を返しつつ帰り道を進んだ。
いつからこんなにも、自分は欲深くなったのだろうか。もっと彼を独占していたい、艇にはまだ帰りたくない、と騎空艇が停泊している港に近くにつれてその思いは強くなる。いっそ彼をこのまま引き止めて、どこかに連れ去ってしまおうかとさえ思ってしまった。
そこまで考えてしまうと寂しさと、切なさがないまぜになった心の内は、もう駄目で。空いた方の手で彼の手首を掴むと、自分の方に引き寄せて腕の中に引き込む。そのままルシフェルは荷物と一緒くたになった彼の重みを胸板で受け止めつつ、その肩口へ詰まってしまった言葉の代わりに額を押しつけた。

「ルシフェル様……?」

「サンダルフォン、私はまだ帰りたくはない。君とまだ二人でいたいし、君を独占していたい」

でもそれは、私の我儘だ。名残惜しげに彼を解放して、肩越しに振り返った赤い瞳へ微かな苦笑を向ける。複雑そうな顔をした彼は、束の間まつ毛を伏せて考えるような素振りを見せると、やおら後ろ手にルシフェルの小指をそっと掴んで、港の方に視線を向けながら、小さく咳払いをした。心なしか、こちらからちらと見える耳の先が赤い気がする。

「あの、出かける前に特異点……団長に言われたんですが」

そこで一度言葉を途切れて、俯いたせいで顔を隠した重たい前髪の間から、赤く染まった眦と彼の瞳が覗いた。

「数日停泊するのと、物資も急ぎではないから、二日くらいは帰って来なくても平気だ、と……

「それは、」

「あの、俺も今日は帰りたくないです」

最近は貴方と二人の時間があまりなかったですから、と彼ははにかんだように言う。

「貴方が引き止めて下さって、よかったと思ったんです……あの、ルシフェル様?」

……うん」

「宿、取りますか」

返事は咄嗟にできなかった。代わりとしてひとまわり小柄な彼の体をきゅうと抱きしめれば、くすぐったそうな笑い声が鼓膜を震わせた。