香春 蘇葉
2020-11-05 19:30:36
1877文字
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【Chilly morning】

現パロルシサン。今季一番の冷え込みの朝、体温が高いル様と低いフォン。

久しぶりに、目覚まし時計のか細い音で目が覚めた。ゆっくりと首を巡らせると、遮光カーテンの隙間からほの白い朝日が漏れ入っている。いつもより五分ほど遅い起床だ。のんびりと瞬きをして、気怠い瞼をほぐしつつ、いつ振りだろうかと考える。そうだ、春が過ぎて暑気が纏わりつくようになった初夏のとある朝以来であった。
昨日までは目覚まし時計が鳴る少し前に彼が優しく起こしてくれていたから、このか細い音を聞く機会などついぞなかった。しかし、今日ルシフェルがその音で目を覚ましたということは。
最後にひとつ、ゆるりと瞬きをすると、ルシフェルは毛布の下にある自分の腕の中をそっと覗き込んだ。昨晩確かに背側から抱き込んで眠りについたはずの彼が、胸板にぴたりと密着するように、手足をこちらの四肢に絡めて寝息を立てている。夏の日はあんなにも早く目を覚ますというのに、今の彼ときたら少しも起きる気配がない。
寒い季節がやってきたのだ。もはや毎年の風物詩とも言える光景に、十一月に入ったばかりの晩秋の朝、ルシフェルは愛おしげに顔を緩ませた。
というのも、サンダルフォンは体温が低い。平均的に三十六度の後半をキープし、時折三十七度台に割り入るルシフェルに対して、彼の平均体温は三十五度台前半。寒い時には三十四度台に食い込んでしまうこともある。体温が下がり過ぎると動きも思考も鈍くなる。彼はそれが如実に出る質で、有り体に言えば寒い季節が苦手だった。
故に朝、なかなか起きることができない。暑くなってくるとまだ日も明けきらない内に起き出して、朝ごはんの準備を終えてから、目覚まし時計よりも少しだけ早くルシフェルを起こしてくれるというのに、寒い季節が訪れると、体温が高いルシフェルにぴたりとくっついて起こされるまでいつまでも眠っている。
そういえば今朝は今季一番の冷え込みだと言っていただろうか。冬の足音を感じられるひやりとした空気を頬に受けて、ルシフェルは双眸を崩した。
毎年の事と言えど、この時期が巡ってくるとルシフェルは嬉しくなる。何せいつもは気を張って、ルシフェルが手を出す隙が見つからないほどに二人で棲む家のことや身の周りのことをこなす彼が、寒い日の朝は起きることもままならないほどに寝ぼけていて、世話を焼き放題なのだ。加えてルシフェルが目を覚ましても彼はまだ腕の中にいて、いつもは恥ずかしいと拒否されるような触れ合いも、ふわふわと笑って受け入れてくれる。
腕の中に仔猫のように収まっている彼の体を、きゅうと抱き込んで、顎のすぐ下に潜り込んだ頭の、そのつむじへと軽く口付ける。くすぐったかったのか、微かに身動いだ彼の耳元へ唇を寄せると、ルシフェルは薄い背中をぽんぽんと軽く撫でながら、サンダルフォン、と声をかけた。

「そろそろ起きる時間だよ」

一、二度の吐息をつく程のいとまを置いて、腕の中の彼がむずかるような唸りを上げる。彼が身動ぐ度に顎の下をふわふわと動く鳶色の癖毛を愛おしく思いながら、様子を見守っていると、暫くして重たい前髪の隙間から、ひどく眠たそうな赤い瞳がこちらを見た。

「る……ふぇ、さ……?」

「うん。おはよう、サンダルフォン。そろそろ起きて、朝ごはんにしよう。お腹が空いてしまった」

ん、と聞いているのか聞いていないのか返事が返ってきたかと思えば、サンダルフォンがもそもそと毛布の中から這い出てきて、ルシフェルの顎先へもむもむと食むようにしてキスをする。次いで、輪郭を辿り、鼻先を愛でて、最後に唇同士を束の間、啄むようにすり合わせた後に、眠気に耐えきれなかったのか、彼は甘えるようにルシフェルの首に抱きついてきた。きっと眠気の下での無意識だろう。現に肩口へもたれかかった頭から、すうすうと愛らしい寝息が聞こえてくる。
ルシフェルはそっと笑みを深めると、空いている方の手で毛布を剥いだ。首に抱きついているサンダルフォンを膝の上に抱き上げてまずはスリッパに足を通すと、いまだ眠りの中にいる彼の体を横抱きにかかえ上げる。
さて、まずは何から始めようか。寝室を出て、洗面所に向かいながら、ルシフェルは足取りを軽くした。腕の中の彼はまだ起きる気配がない。今ならばいくらでも甘えてくれるだろう。冷蔵庫の中身と、彼のために買い置いていた整髪料やスキンケア用品、それから彼には秘密で用意した新しい冬服を頭の中で並び立てると胸が躍る。

ルシフェルは寒い季節が好きだ。サンダルフォンがいくらでも甘えてくれるこの時期は彼と過ごす一年の中で特に愛おしく感じている。