香春 蘇葉
2020-10-28 02:46:40
3104文字
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【きのまよい】

現パロルシサン♀。ル様がショタ。お題でサンダルおねぇちゃん、おいしゃさんごっこ、網タイツ

「サンダルフォン、今日は私と、お医者さんごっこをしてほしい」

サンダルフォンはきょとんとした。見上げた先では大きな紙袋を抱えた彼女の生徒が、子どもらしいきらきらと期待に満ちた顔をしてこちらを見下ろしている。いつも通り、家庭教師としてこの家に訪れた、穏やかな午後のことであった。
サンダルフォンは今年高校に上がったばかりの学生である。近所の豪邸に住む、昔から可愛がっている少年の勉強を見るという名目で、毎日放課後この家を訪れていた。とは言え彼女の生徒であるルシフェルは、それはそれは優秀な少年で、学年トップの成績を維持し続けるサンダルフォンから見ても驚くほどに聡明なのである。故に教えることなど然程ない。そもそも有名私立に通っていると言っても、彼は小学生である。宿題の量などたかが知れているのだ。そういうわけで毎日早々に終わってしまう宿題のその後には、大体二人で並んで取り止めのない会話をしたり、各々読書をするなどして過ごすことが常であった。
ルシフェルがあまりに大人びているのと、彼と過ごす時間が居心地がよくて忘れていたのだ。彼がまだ遊びたい盛りの年齢だということに。遊びに誘われたのは初めてだが、それでルシフェルが笑ってくれるのならば、サンダルフォンとしても悪い話ではない。サンダルフォンはよく考えずに二つ返事で誘いに乗った。

「では、これに着替えてほしい。とある筋からもらったものだ。私はくわしくないが、お医者さんごっこには不可欠なものだと言っていた」

いやに本格的だな。紙袋から香るどこかで嗅いだことのあるような匂いに眉を顰めつつ受け取り、隣室で中のものに着替えること五分足らず。
サンダルフォンは部屋の入り口で二の足を踏んでいた。とりあえずルシフェルに渡されたものだからと訝しみつつも全てを身につけたが、これは少しおかしいのではないだろうか。
とくと自分の姿を見下ろす。淡いピンクをした着られなくもないが、余裕もないといったサイズのナース服。歳の割に豊満なサンダルフォンの胸元を抑え切れずに合わせが広がって隙間が開き、ボタンは今にも弾けそうである。何故、こんな絶妙なサイズなのだろう。軽く身動いでみると、やはりどこかで嗅いだような匂いがサンダルフォンの鼻腔をついた。甘ったるいそれに眉間のシワを増やしつつも、サンダルフォンは紙袋の内容物、その最たる謎アイテムに視線を落として、首を傾げた。彼女の視線の先には、ナース服の裾から覗く自らの脚がある。それだけならばいい。それだけならばまだ何の問題もない。サンダルフォンの首を傾がせる最大の理由は、その脚を包む網タイツであった。何故、網タイツ。普通なら膝下まである白靴下の類だろうに。ルシフェルに渡されたから、とりあえず全て身につけたが、あいにくサンダルフォンは頭に浮かんだ沢山の疑問符を解消するための材料を持ち合わせていない。謎は謎のまま、ちぐはぐな格好でルシフェルの前に現れるしかないのだ。
ようやくついた決心のままに、部屋の戸を押し、中に入ってみれば、少し大きな白衣を羽織ったルシフェルの姿があった。首からは最低限鼓動は聞こえるであろう、おもちゃの聴診器がさげられている。
部屋に入ってきたサンダルフォンを見るや否や、ルシフェルはパッと顔を華やがせて、己の目の前に座るように促してくる。それに軽く頷いて彼の前に腰を下ろすと、サンダルフォンは開口一番こう訊ねた。

「ルシフェル、この衣装は誰がくれたんだ?」

「君のお兄さんのベリアルだよ。サンダルと遊びたいと言ったら、遊びにも全力じゃないとな、とこれをくれた」

やっぱりか、とサンダルフォンは内心舌打ちした。ルシフェルのことを可愛がっていると知っているベリアルはことあるごとに二人へちょっかいをかけては楽しんでいる。度々嗅いだあの匂いは兄の香水のそれだったというわけか。しかもわざわざこちらが気付くようにふりかけている。悪趣味だ。帰ったら一発は殴る。サンダルフォンはそう心に決めた。

「お医者さんごっこを始める前に、ひとつ聞きたいのだが」

この装具はどういったものなのだろうか。ルシフェルの幼い指が無遠慮にサンダルフォンの太腿、そこを覆う網タイツの荒い目を辿った。んっ、と小さく声を上げ、擽ったさに身を震わせながら、かろうじてこれはこういうものなのだと返せば、ルシフェルは感心したように頷きながら聴診器を手に取った。

「今日はどのようなしょうじょうできましたか?」

あ。何事もなく始めるんですね。これが三人いたのならば、サンダルフォンが衣装通り看護師役をして、ルシフェルが医者役をする。しかし今は二人しかいない。となると、必然的に患者役に回るのはサンダルフォンになってしまう。ナース服を着た女が患者。ちぐはぐさに目眩を覚えながらも、これは子供の遊びだ、と自分に言い聞かせてサンダルフォンは胸が、と話し始めた。

「胸が、苦しくて」

ごっこ遊びでは割とよく聞く症例を舌先に載せる。実際苦しい。ベリアルが妹のボディデータを何故か正確に把握した上でよこしてきた、嫌がらせ用のサイズが小さなナース服は、サンダルフォンの豊満な胸を、息苦しさを感じるほどに締め付けていた。
ルシフェルが一度、戸惑ったようにこちらを見て、またすぐに視線を伏せる。てっきりすぐに手にした聴診器を使うと思っていたが、何かが気になって使えずにいるらしい。
ルシフェルの顔を覗き込む。覗き込んで、そこにあった真っ赤な顔を目にして、サンダルフォンは得心のいった顔をした。恥ずかしいのだ。それでサンダルフォンの胸に、聴診器を当てることがなかなかできずにいる。
そうと分かるとサンダルフォンの心にもむくむくと悪戯心が湧いてくる。にんまりと笑った彼女は、ルシフェルの手をそっと取ると、聴診器を自分の胸に軽く沈み込むくらいの強さで押し当てた。きっとルシフェルにも胸の柔い感触が伝わっているだろう。ちらと視線をやれば、案の定先程よりも頬が高潮していた。これはなかなか見物である。普段少年らしいところを見ないルシフェルが、年相応の反応を見せている。次々と違う場所に聴診器を当てながら、サンダルフォンは微かに笑った。

「あの、どうですか?先生……どこが悪いんでしょうか」

「その……やわらか……くて」

「柔らかいのはいけませんか?」

「あの、サンダルフォン」

……もっと、触ってみますか?」

サンダルフォンは、笑顔に妖しさを滲ませると、ルシフェルの小さな手を取った。ぽす、と微かな音を立てて床に聴診器が落ちる。ルシフェルの目が追いすがるように聴診器へと滑ったので、サンダルフォンは一瞬むっとした顔をすると、躊躇いなく、ルシフェルの小さな掌を自らの胸元に押し当てた。ぼよ、と束の間乳房が跳ねる。上目でちらっとルシフェルを見れば、真っ赤な顔で泣く寸前まで眉を寄せていて。
ここでようやくサンダルフォンははっと我に返った。慌てて小さな体をかき抱いて、小刻みに震える頭を撫ぜる。

「すまない。やりすぎた……ルシフェル?ルシフェル、」

あっ、と。サンダルフォンはもうひとつ気がついた。胸の柔らかさに戸惑っているのならば、抱きしめる形で胸に彼の顔を押し付けるのはかえって逆効果ではないだろうか。
そっと体を離してルシフェルの様子を確認する。真っ赤な顔で目を回すルシフェルの顔をみとめたサンダルフォンは、頭痛を覚えた頭にそっと手を当てて、深々とため息をついた。これはしばらくまともに近づいてきてはくれないかもしれない。