香春 蘇葉
2020-10-05 01:51:02
2469文字
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【ほころび】

シオサン♀【発露】【芽吹き】【恋慕】の続き

ルシオは困惑していた。
そもそも珍しく昼下がりに何の用事もなく、であれば人のように午睡に興じるのもいいかと自室で眠りにつき、何かしらの気配を感じたので目を覚ました直後である。多少は睡眠を取らなくても問題なく動ける体の作りをしていようとも、寝起きの思考の鈍さは人のそれと何ら変わりはない。寝ぼけているのだろうか。起き抜けのややぼやけた視界に広がる光景を前にして、束の間ルシオは固まっていた。
ひょんなことから女性であることを知ってしまった“彼女”が何故かベッドに横たわるルシオの体、取り分け下半身に跨るようにしてぺたりと腰を下ろし、のしかかっている。彼女の在り方を気に入っているのと、女性体であることを隠している割にはあまりにも無防備な彼女を放っておけず、ついつい二人きりの時に女性として接してみたり、ことあるごとに彼女が自らが無防備であってはいけないことを自覚できるように手助けをしてみたりしたが、ついにそのことに気がついて機嫌を損ねてしまったのだろうか。だとしたらきっとこれから、自分は文句の雨を浴びるのだろう。

「あの、サンちゃん」

……だ?」

「え?」

「ここからどうすればいいんだ……?」

この子は、何を真面目にそんなことを言っているのだろうか。困惑も最高潮を通り越して、最早冷静になる域にまでなってしまったので、ルシオは軽くため息をつくと、上体を起こして彼女の両肩にポンと手を置いた。とりあえず、そこに正座しましょうか。おろおろとしている彼女にそう言うと、思っていたよりもあっさりと彼女の重みが下半身から消えて、悪戯のバレた子どものような風情をにじませた赤い瞳が、上目がちにこちらを見つめる。こちらの言う通りベッドの上でちょこんと正座をした彼女の前で、自身も居住まいを正したルシオは、まずお聞きしますが、と低く唸るような声で切り出した。

「貴女は、寝ている私に一体何をしようとしていたんですか?」

「その、メーテラが……オトコなんて押し倒しちゃえば一発よ、と……

押し倒したはいいが、その先で何をすればいいのか、押し倒すことに何の意味があるのか。こんなことならばメーテラに聞いておくのだった。そんなことをつらつら考えているうちにルシオが目を覚ましてしまったらしい。

「前にも言いましたが、サンちゃんはもっと、異性に対する警戒心や危機感などを持った方がいい」

……?それは俺の意にそぐわない相手に対して、だろう?」

至極不思議そうな顔で首を傾げるサンダルフォンに、ルシオは束の間頭痛を覚えた。彼女にさりげなく触れたり、女性扱いすることで、あれだけ警戒心や危機感を覚えさせようとしていたというのに、彼女ときたらそのかけらほども受け止めてくれてはいなかったのだ。深々とため息をつきながら、これは長期戦だな、と踏んだルシオは、顔を覆った指の隙間からちらと彼女を見やる。こちらが見惚れるほどに凛として、姿勢良く座っている彼女は、あいも変わらず不可解だと言わんばかりの顔をしていた。

「もちろんそうです。逆に貴女がこれと決めた相手に対してならば問題は、」

「だから、何も問題はないだろう?」

……どういうことでしょうか」

「キミの話ならば、俺がこれと決めた相手ならば、別段警戒心や危機感を抱かなくていいのだろう?ならば、問題ない。俺は、キミのことを好いている」

言葉に詰まった。彼女だけは自分がいかに優しくしようとも他の女性達のように勘違いをして熱を上げるようなことはないと思っていた。完全に、誤算だった。そもそも、ルシオの中で彼女は単なるお気に入りの存在でしかない。思ったところで、精々妹止まりである。例えるならばルシオは彼女の活動を補佐する存在で、彼女は舞台で演じる主演の役者で。彼女の生が輝くところを間近で見守ることができるならば、友人以上の接触は望まない。

「サンちゃん、近頃私が貴女に女性へするように接していたせいで、勘違いしてしまったのでしょうが」

「悪いが俺も、よく考えた上で言っている。どうやら俺は、キミに恋というものをしているらしい」

だから、有識者に聞いてみたんだがうまくいかないものだな。軽く頬を染めながら顔を逸らす彼女に、ルシオは己の腹の底がざわりと騒ぐ感覚がした。自分はどうやら間違っていたらしい。女性に対するように彼女へ接すれば、いずれ乏しかった世を渡るための情緒が育って、彼女がこの先煩わされるであろう事柄を少しでも減らすことができるだろうか、と。良かれと思いやったことだったが、結果としてルシオが一番望まぬ結果となってしまった。かくなる上は。
ルシオはそっと身を乗り出すと、サンダルフォンの片手首を握り、腰を攫った。軽装となっていた彼女の装束の、その裾から指を差し入れると、布の下を縫うように体のラインを辿り、そうして慎ましやかで形のいい彼女の乳房を柔い力で握り込む。びく、と細い体が跳ねた。反射的な抵抗を抑え込み、首筋に唇を這わせて、やや温度を上げた吐息を吐き、サンちゃん、名前を呼べば、彼女の薄く開いた唇から、ぁ、と小さな声が漏れた。恐れているようにも、悦んでいるようにも聞こえるそれを、耳に受けたのを締めくくりとして、ルシオは彼女の体をあっさりと解放する。

「貴女が私にしようとしたことはこういうことですよ。ここまでされてしまえば、勘違いだったことがわかるでしょう」

「っ……ちが、」

「何が違うと言うんですか?現に今、貴女はこんなに震えているというのに」

「違う……あの時と同じように、嫌ではなかった。嫌ではなかったから、この先に自分の体がどうなってしまうのか、恐れてしまった」

震えを抑え込むように胸元を握って、彼女はルシオの顔を振り仰いだ。こちらを見る表情は微かながらも愛欲に濡れた女の顔をしていて、赤い瞳には欲が滲んでいる。自分は、本格的に間違えてしまったのだ。彼女から視線を外せぬままに、ルシオは心の内で己の浅慮を恥じた。