香春 蘇葉
2020-08-07 00:39:08
2138文字
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【さがしもの】

5歳児の災厄ショタと養父のル様、出会いの話。

幼い時から、ルシフェルは自分の中に何か欠けたものを感じながら生きてきた。

「では、サンダルフォン。今度は君が鬼になる番だね。私を見つけることができるかな」

「ふん!みてろよルシフェル!あんたがかくれるとこなんて、おれにはおみとおしなんだからな!」

「うん。きっと君は私を見つけることが上手だろう。サンダルフォン、目を瞑って十を数えてごらん」

「おれをみくびるなよ!じゅうくらいかんたんにかぞえてやるさ」

あの頃の自分が今の自分を見れば、きっと目玉が飛び出るほどに驚くだろう。紅葉のようなふくふくとした手で目元を覆って、ルシフェルに背を向け数を数え始めたサンダルフォンの、小さな背中を肩越しに見下ろして、ルシフェルはそっと苦笑を浮かべた。今がこんなにも幸せなのは、ひとえにこの子が側にいてくれるからである。

幼い頃からルシフェルはどこか心の中に欠けたものを感じながら成長した。それは、彼の身の回りにあるもので埋まるようなものでは決してなかった。心にぽっかりと空いたうろのようなそれは、時々ルシフェルを苛み、孤独に突き落とした。中学に上がり、多少は行動範囲が広がったところで、ルシフェルは自らの欠けを満たす何かを探して、様々なところに出かけるようになった。宛てはなかった。ただ漠然と、この世界のどこかにいるという、そんな感覚があった。
そうこうしているうちに月日はすぎ、ルシフェルは中学を卒業し、高校を卒業し、果ては大学を出て就職までした。その間に探しているものは見つからなかった。長きに渡る探しものは、ルシフェルを徒労感で包み、そのせいで束の間の無気力に陥った。
そんなある日のことだ。ルシフェルが重役を務める会社が運営している、乳児院と孤児院を視察する予定が入った。その時のルシフェルは既に二十代も後半に差し掛かっており、ただ漠然とこの世界で出会えるという不安定な感覚だけではこれ以上探しものを続けることはできないと、諦めの姿勢に入ろうとしていた。兄が至極面倒臭そうに回してきたこの仕事も、定形通りに終わらせればそれで終わりだと、未だ調子の戻らぬ無気力の状態のまま、現地に向かった。しかし、最初に出向いた乳児院で、ルシフェルはついに運命の出会いをする。

「この子は数週間前遺体で見つかった女性が、発見当時大切そうに抱きかかえていたところを保護されまして」

こちらを見上げる飴細工のような赤い瞳は、ルシフェルを見上げてキラキラと輝いていた。まだ生え揃わぬ栗色の毛は子猫の毛のようにふわふわとしていて、ただそこにいるだけで庇護欲を煽る。その日、ルシフェルは運命の出会いをした。乳児院のゆりかごに揺られる彼を目にした瞬間、今まで感じてきた心の欠けが、見事に埋まったのだ。
それからのルシフェルは、その赤子を養子に迎えることに尽力した。お前に養子などいらん、と呆れたように言う兄を振り切り、キミみたいな奴がおままごとでもする気かい?とせせら笑う幼馴染を黙殺して。ひと月も経たぬうちにその赤子を自らの子としたのだ。思えば、それから五年、目が回るほどに楽しく忙しない毎日であった。ルシフェルの人生もこれ以上になく充実している。

「ふふん!ルシフェルみつけたぞ!」

寝室のクローゼの戸を勢いよく開けて、逆光を背負いながらサンダルフォンがしたり顔で言った。見つかってしまったか。苦笑をしながら立ち上がれば、彼がこちらを見上げて、無言のまま両手を広げる。なんとも不器用な甘えに、また笑みを深くして身をかがめると、ぱっと喜色を浮かべた彼がルシフェルの首に飛びついてきた。随分と大きくなったな。とはいえまだまだ軽い。心の中で独りごちながらひとつ息を吐いていると、不意にふくふくと丸い彼の掌が伸びてきて、ぺちっと両頬を軽く叩いてきた。

「どうだルシフェル。あんたのいばしょなんておれにはおみとおしだっただろう?」

「そうだね。君は、本当に……私を見つけることが上手だ」

すり、と自らの頬とまろい彼の頬とをすり合わせると、ルシフェルくすぐったい!と、彼がきゃっきゃと笑いながら首に抱きついてくる。ああ、幸せだ。泣きそうなほどの幸福に、思わず顔が歪む。

「ルシフェル……?」

「うん。あちらでおやつでも食べようか」

「あの、ルシフェルさま何かかなしいことでもあったんですか?」

「ふふ、その呼び方は久しぶりだね」

ルシフェルの周囲が彼をルシフェル様と呼ぶものだからすっかり幼いサンダルフォンが覚えてしまって。最初に口にした言葉がそれだったものだから、以降お父さんともパパとも呼ばず、ずっと彼はルシフェルさま、と舌ったらずに呼び続けている。近頃は特撮物をよく見る様になって、年相応にルシフェル、と元気な声で呼ぶ様になったが。

「大丈夫だよ、サンダルフォン。私が迷子になっても、君が見つけてくれるのだろう?」

何せ君は私を探すことが得意なのだから。そっと前髪をかきわけて、小さな額に唇を押し付ければ、きゃーっとはしゃいだ声が鼓膜を揺らして、ミルクのような甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
日曜日の昼下がり、天気は晴れ。今日もルシフェルは幸せの真っ只中にいる。