香春 蘇葉
2020-08-05 03:06:20
1897文字
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【Scale】

付き合いたてのシオサン。ルシオの言動に少し変化が訪れた話。

また来たな。サンダルフォンは心の内でひとつ、ため息をつくと、あまりの呆れに坐った赤い瞳をじとりと、自らの恋人に据えた。

以前から互いを意識しあっているという感覚は、事あるごとに得ていた。彼は始め、サンダルフォンの友になろうと奮起していたようだが、そのさなかで何かしらが彼の中で形を変えたのだろう。サンダルフォン自身も、始めこそやれ不敬だとか、その顔で妙なことをするなだとか、彼のすること為すことに苦言を呈していたが、とあることをきっかけに、彼自身に意識を向けるようになった。それからは彼を自らの創造主と重ねるような真似をやめて、互いに手探りでぎこちないコミュニケーションを取るようになったのだが。
正直、サンダルフォンにとっても、今のこの関係は青天の霹靂この上ない状況である。何せ最初は毛嫌いしていた相手がいつの間にやら意中の相手という席に堂々と腰をかけていたのだから。もっと言ってしまえば、それはそれはあっさりと、互いに意識し合っているのならば、お付き合いというものをしてみましょうか、という話になったのだから。彼と出会った頃の自分が聞けば、卒倒するくらいの変化である。今でも何かの冗談だと思っているくらいである。
とは言え、人の子ほどの情緒もなく、かと言って創られてまもない星晶獣ほどの無知さもない、何とも微妙な力加減で支えられた恋慕というもので、二人は晴れて恋人という関係になったのだ。サンダルフォン自身、そう転じた当初は一体どんな態度の変化があるのかと身構えてはいたが、あまりの変わらなさに拍子抜けして、最近は以前のようなやり取りに収まっていた。収まって、いたのだが、どうやらそう思っていたのはサンダルフォンだけだったらしい。変化のない関係性の中で意外にも最初の変化を見せたのは、彼の方だった。

ため息をついて、その場に現れた彼を睨めつけたサンダルフォンは、束の間頭痛のようなものを覚えた頭を押さえた。ややあって深々とため息をつきながら彼の手を取ると、今まで話をしていた相手に断りを入れて、ひと気のなさそうな廊下の端までズンズンと歩いて行く。そうしてたどり着いた廊下の円窓の前、ピタリと歩みを止めたサンダルフォンは、彼の手を離して向き直ると、開口一番、低い声で言った。

「ルシオ、何のつもりだ?」

「何のつもり……とは?」

「近頃、俺が他の団員と二人で話していると、すぐに割って入って来るな?自覚がないとは言わせん」

近頃ルシオが見せた変化こそが、サンダルフォンの悩みの種であった。他の団員と二人きりで話している時に、決まって現れては会話に入ってくるのだ。最初こそ偶然だと思っていたが、頻繁に同じことをされると、さすがにサンダルフォンも気付く。意図して、邪魔をしているのだと。

「嫌がらせをしたいほど俺に不満があるなら早々に言っておけ」

「不満なんてそんな……サンちゃんに、あるわけがありません」

「ならば何だと言うんだ?今更独占欲が出てきたとでも?ならばいっそ、俺をどこかに閉じ込めでもするか?」

詰め寄りながらほとんど一息で捲し立てると、最後の一音と共にその場がしんと鎮まり返った。もしかして外したか?そんなことを思いながら、背中に冷や汗の一筋を伝わせていると、不意に彼がどこか影のある微笑みを浮かべて、ゆっくりとその状態をかがめた。そのままサンダルフォンの肩口に近づいてくるので、反射的にたじろぐ。しかし、その体の傾きさえも、腰をぐっと強く抱かれて抑えつけられて、とうとう彼の唇が、吐息の熱さがわかるほど耳元に近づいてきた。ああ。彼がため息のように低い声で呟くのでびくりと小さく体が跳ねる。

「それも、いいかもしれませんね。サンちゃんと、誰も邪魔されない場所で、二人きり」

「ルシオ、」

「ふふ……まぁ、これは冗談です」

私、なかなか演技派でしょう?得意げな顔をしながらあっさり解放されて、サンダルフォンの時は束の間止まる。しかし徐々に軽々と躱されたことを悟って、真っ赤な瞳に負けず劣らず、その顔も朱に染まった。

「この……!!貴様そういうとこだぞ!!」

「でも、サンちゃん。少し焼きもちを妬いてしまったのは、本当です。ですから、たまには私ともお話ししてくださいね」

私たち、恋人同士ですからね。軽い調子で言うも、コチラを見下ろすルシオの瞳は、ほのかな暗さを湛えている。迂闊な啖呵はよそう。ぞくりと背を這い上がった悪寒に身震いをしたサンダルフォンは、いつの間にやら自らの手を握り込んだ、彼の手の大きさを見下ろして、そっと睫毛を伏せた。