日差しは刺すように強く。それを反射した砂浜は目を瞑ってしまいたくなるほどに眩い。雲ひとつない蒼空の如き瞳をそっと眇めて、視線の先で楽しそうに戯れる少女と己の愛し子を眺めていたルシフェルは、不意に自分のいる木陰に人が寄ってくる気配を感じて、のんびりとそちらの方を振り仰いだ。特異点、とこちらを見下ろす少年に呼び掛ければ、どこかきまりが悪そうな顔をして、彼が徐にルシフェルの隣に腰を下ろし、軽く飛び跳ねるようにして、膝頭がくっつく程に近くまで距離を詰めて来る。
「ルシフェルに、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「……?私でよければ、話を聞こう」
蒼の少女とサンダルフォンと遊んでこなくてもいいのだろうか。胸中でそんなことを思いつつ、首を傾げて見せれば、少年は一、二度言葉を口にしかけて逡巡を見せ、あぎとう姿を見せた後に、ややあって全身に力を込めて、絞り出すように言った。
「ルリアに、アクセサリーのプレゼントをしたいんだけど、ルシフェルがサンダルフォンに選ぶ時にどうやって選んでるのか聞きたくて……!」
ほら、さっきも買ってたでしょ。彼の視線が浜辺で広げられていた露店で買った、アクセサリーの包みに向けられていることに気がついたルシフェルは、ひとつ納得したようにうなずいた。なるほど、だから木陰に入ってきた時から、どこか緊張していたのか。年端もいかない人の子が、好いた少女のために贈り物をする。喜んでほしいが、何を贈ればいいのかわからない。だから、よく恋人に贈り物をするルシフェルに話を聞きにきた、と。
いや、それでは。ルシフェルは内心首を傾げた。騎空団に所属する面々は、多少の差はあれど、大切な相手に行事ごと贈り物をする者が多い。自分に聞くより余程相談に向いた者が他にいるだろうに。ルシフェルの考えていることを察してか、少年はやや朱に染まった顔を俯かせながら、自らの膝を抱えなおして縮こまると、だって、と消え入りそうな声で唸った。
「サンダルフォン、ルシフェルにプレゼントして貰ったもの、いつも嬉しそうに笑いながら撫でてるから」
何を基準に選んでるのかなって気になっちゃって。続けられた言葉に、ルシフェルは束の間、目を瞬かせた。聞けばルシフェルが顕現する以前にいつの間にかブレスレットをつけるようになっていた時も、再顕現を果たしたルシフェルに指輪を贈られた時も、はたまた力の増強のために少年が渡したピアスに対抗するために、揃いのピアスを贈られた時も。身につけている時にふとサンダルフォンに視線を向けると、それはそれは愛おしそうに、嬉しそうに、ルシフェルから贈られたアクセサリーに触れているのだと言う。あんなに喜んで貰えるプレゼント、僕もしたいな。はにかんだように笑って締めくくった少年の声で、我に返ったルシフェルは、初耳この上ない情報に柄にもなく動揺した自分を取り繕うようにして、ひとつ咳払いをすると、期待を多分に浮かべた少年の瞳を見下ろして、私は、と口を開いた。
「私が美しいと感じた箇所に、最も相応しいと思う物を贈っているだけだ」
「……それだけ?」
「ただ、それだけだ。故に贈る装飾品の種類が被ることもある」
少年の言葉通りならば、それでも彼は喜んでくれているらしい。ルシフェルの前では、照れたように小言を口にするだけで、あまり嬉しそうなそぶりを見せてはくれなかった。漠然とした不安は確かにあったので、己の見ていない所での彼の反応を知ることができて、安堵した。
「蒼の少女は、君が彼女のことを考えて贈る物ならば、喜んでくれるのではないだろうか」
「みんなそう言うから迷ってるんだけど……う〜ん、そっか。じゃあルリアに似合いそうな物、僕なりに探してみる」
ちなみに、それ何を買ったの?にかっと年齢相応の笑みを浮かべた少年が首を傾げた。ルシフェルは己の膝の上に置いた小さな紙袋に束の間視線を落とすと、やおら少年を見上げ、意味深な笑みを口もとに淡く湛えながら、立てた人差し指を唇にそっと当てて、瞳を眇めた。
*
恭しく持ち上げた足の甲に、そっと唇を押し当てて、小刻みに啄むようなキスを落としながら、足首まで上ってゆく。そうして、舌先をちろりと踝に這わせたルシフェルは、小さく跳ねた足先を宥めるようにして柔く撫でながら、対の手に持っていたアンクレットを彼の細く括れた足首にそっと嵌めた。かしゃん、と小さな音がした瞬間に、震える手が耐え切れないとばかりに、ルシフェルの顔を自らの足から引き剥がそうと、伸びて来る。その掌に甘えるようにして頬をすり寄せれば、呆れたような深々としたため息とともに、彼が硬くなっていた体の力を抜いた。
「汚いですって言っても、貴方は聞いてくれないんでしょうね……」
「うん。君の体で、汚いところはひとつもないからね」
思った通り、このアンクレットは君の美しい踝によく映える。重ねて口にすれば、ひとつ咳払いが聞こえてきて、頬を染めた彼が身をかがめ、ルシフェルの顔を両手で優しく包むと、そのままそっと自分の方へ上向かせた。次いで、柔らかく降り注ぐ細い雨のように柔く唇が重ねられて、ルシフェルは意外そうに瞬きをする。
「こんなに頻繁に贈り物を頂かなくても、俺にはこれひとつで十分なんですよ」
「……サンダルフォン、それは少々違うよ」
単に彼を思ってアクセサリーを贈っているのではない。例えば情事のさなかで、木漏れ日のなかで、ふとした日常で。美しいと思った場所に自分の贈ったアクセサリーが光っているところを目にすると、その度に彼は自分のものなのだと、強く実感するのだ。美しいと感じた瞬間が、永遠とさえ感じる。刹那を閉じ込めるかのように、美しいと感じる度それにそぐう装飾品を贈るのだ。
ルシフェルはもう一度、足首にそっと唇を押し当てると、小さなリップ音を立てつつ離して、上目に彼を見上げながら微笑んだ。ずっと欲のない男だと言われ続けてきた自分であったが、一度失われて再顕現を果たしてから、どうやら自分が思う以上に欲深くなったようで。刹那さえも惜しんでしまうほどに。きっとまだ自分の欲深さをしらないであろう彼に、アクセサリーを贈る真意など、とてもではないが聞かせられたものではない。
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