香春 蘇葉
2020-06-06 02:21:29
2880文字
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白いシャツと君と(大学生シオが恋人)

現パロ。モブ独白。JKにょサンちゃんの衣替え。
シオサン

僕には、小学生の時からずっと同じクラスの女の子がいる。彼女は僕を知らない。でも、僕は彼女を知っている。いや、きっと僕は彼女のことを何も知らないのだろう。だって僕は、一度だって彼女と話したことがないのだから。彼女の名前はサンダルフォン。僕は冴えない見た目の取り立てて成績も良くない眼鏡だけが目立つ地味な男。サンダルフォンは僕の初恋で、大して面白くもない僕の世界の中で、いつだって、彼女だけが鮮やかだ。

季節は春が過ぎて徐々に夏の蒸し暑さが顔を出し始めた高校二年生の梅雨入り前。六月といえば大体の学校が衣替えをして、そして僕たちの高校も例に漏れずに。つい半年ちょっと前に脱ぎ捨てたばかりの制服を身につけた同級生達は、どこか初々しくはしゃいでいる。女子生徒達のまだ日焼けもしてない白い肌が、僕たち男子にはすごく眩しくて、彼女たちがはしゃぐたびに、覗く二の腕は、正直少し、目のやり場に困った。いくら本の虫で、あまり生身の女の子に興味がない僕でも、ほんの少し視線を上向かせて彼女達の黄色い声に耳を澄ませていた。そんな中でも、彼女達の輪に混ざらず、自分の席に座って頬杖をつきながら窓の外を眺めている彼女。僕の視線も窓から吹き込む風に誘われるようにして、はしゃぐ同級生の女の子達から、自然と、彼女の方へと移っていった。
ふわり、と彼女のチョコレート色をした癖毛が、風に巻かれて流れる。いつもは隠れている彼女の耳が後ろから見ている僕の視界にちらりと映って、その慎ましやかさにドキドキした。夏の匂いが微かにする風は、彼女の襟足をさらりと浮かせて、シャツの襟との間に真っ白なうなじを覗かせる。ごくり、と息を呑んで、視線をゆっくりおろしていくと、薄手の半袖シャツに彼女が身につけた鮮やかな色の下着が淡く透けている。ああ、なんと似合いの色なんだろうか。なんと、夏服とは苦しいものなんだろう。彼女はあの色の下着を一体どうやって選んだんだろうか。彼女の好み?それとも友達に選んでもらって?母親に買ってもらった?彼女のことを好きな僕は、もうそれを考えるだけで舞い上がってしまって、少しだけ体温が上がった頬を隠すように、新書サイズの本に顔を隠した。あの白いシャツの下には、負けないくらい白くて柔らかくて、いい匂いがする、滑らかな彼女の素肌がある。サンダルフォンが僕の彼女だったら、きっと彼女はあの普段はクールな顔を、恥ずかしげに赤らめながら、柔らかいところを晒してくれるのだろう。

「あれ?サンダルフォン、新しい下着?可愛いねぇ……どうしたの?」

「どうしたも何も、単に新調しただけだ」

「でもこの間までは絶対選ばなかったようなデザインだよねぇ……ふぅ〜ん?何かあった?」

これまた小学生から同じ学校に通う彼女の友人が、僕が不健全な妄想をしている間に教室に入ってきて、彼女の背中に触れながらそんな話をする。にまにましている友人に、彼女は呆れたような顔をして背中から手を払う動きをすると、ナンセンスだな、と初めて同じクラスになった時から全く変わらない口癖でぼやく。

「別に、普段とは違ったデザインが欲しかった。ただそれだけのことだ。変に邪推するな。ジータ」

「うんうん。そうだねぇ……よく似合ってるよ。サンダルフォン」

意味ありげな彼女の友人の様子がどこか引っかかるが、今日も僕の初恋の君は綺麗で可愛い。仮に彼女が他の男のものだったとしたら、きっと僕は悲しみに暮れてしまうだろう。もしかしたらショックで食事も喉を通らないかもしれない。なんて、考えてたことがそもそも悪かった。これはフラグだ。見事なフラグだ。

衣替え初日からわずか一日。つまり次の日。登校してきた彼女は薄手のサマーニットカーディガンを羽織っていた。別に肌寒い日だったわけじゃない。むしろ昨日より暑いくらいだ。彼女の肌が透けるシャツを目にすることができなくて、残念に思っていると、ホームルーム前に他のクラスからジータと呼ばれた彼女の友人が入ってきて、彼女のカーディガンを見ると、あれっ、と声を上げた。

「どうしたの?サンダルフォン。風邪?」

「いや、まぁ……少し、な」

どこか沸きらない彼女に、ジータがええ〜!気になる〜!と喚く。そんなジータを彼女が呆れたように見上げた。カーディガンの不自然にあまった袖口で口元を隠した彼女が、どこか気恥ずかしそうにわかった、とジータをいなした。そういえば、彼女のカーディガンは二回りほどオーバーサイズのように思える。あれ?あのカーディガン、肩もなんだかずれ落ちてるし、男ものじゃないだろうか?

……その、目に毒だから着ておけと……かれ、いや恋人に言われてな……

その日、僕はどうやって家に帰ったか覚えていない。彼女の白い肌を晒す相手が僕の知らないところにいると思うと悔しくて、苦しくて。その夜、僕は爽やかな夏風の中で佇む彼女の、シャツに透ける下着の紐を思って、初めて彼女をオカズに自分を慰めた。





彼の部屋に入った途端に、ひどく悲壮感の漂う顔をされたかと思えば、ぴとりと背中から抱き竦められるようにして密着され、以降夕飯の準備をする時間になってもソファに座る彼の足の間に抱き抱えられるようにして映画を観るハメになっている。いや、厳密には彼は観ていないのかもしれない。何せ映画の序盤からサンダルフォンの肩に寄りかかるようにして項垂れたまま、一度も顔をあげようとはしないのだから。

「おい、ルシオ。いい加減鬱陶しい」

ぽか、と握り締めた拳で軽く頭を小突くと、恨みがましい蒼い瞳が覗いて、ついで彼の呻き声が耳に刺さる。なんだ文句でもあるのか?とせせら笑うと、抱きしめる力を強くして、サンちゃんは、とようやくルシオが口を開いた。

「サンちゃんは、今日一日……シャツ一枚でいたんですか?」

「衣替えだから当然だろう?他に何を着ろと言うんだ」

訝しげに眉を顰めてサンダルフォンが訊ねれば、はぁぁぁ、と肺の中身を一気に吐き出したかのような深いため息が鼓膜を打つ。

「私のカーディガンをあげますから、明日からそれを着て行ってください……

「却下だ。暑苦しい上にキミの服は大きすぎて邪魔になって仕方ない」

「それでも、着て行ってください……貴方の背中は、すごく無防備なんですよ……目に毒です……

さっきから背中に張り付いていると思えばそういうことか。そういえば下着だけでキャミソールの類を着るのを忘れていた。なるほど。たまにはそんな心配をこの男もするのか。そこまで理解すると、にわかに恥ずかしくなったサンダルフォンは、むず痒そうな顔をして、再度ルシオの頭を弱い力で小突いた。

「急に彼氏面をするんじゃない」

「彼氏面といいますか……私、サンちゃんの彼氏ですよね?」

照れ隠しの言葉に真実で返されて、むぐ、と言葉に詰まっていると、情けない顔をしたルシオが再び私彼氏ですよね、と抱きしめてくる腕の力を強くして、肩に額を押し付けてきた。