香春 蘇葉
2020-05-26 23:33:54
2354文字
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【ベッドルームにて。】

現パロ。一緒に住んでるシオサン。雨の日のベッドルームのお話。

さわさわと遠くの方で人が囁き合うような音がして、サンダルフォンはうっすらと瞼を押し上げた。視線だけを動かして、壁にかけてある時計を確認すると、午前九時を少し過ぎた時刻を指している。いつも休日に起き出す時間を一時間ほど過ぎているが、それでもいい、とどこか投げやりになりながら一、二度瞼を緩慢に動かして、そうして最後に二度寝の体勢に入った。
昨晩の行為で全身が重く、おそらく立とうとしたところで腰に力が入らないだろう。何より、目を覚ます要因となったものが、今日一日、サンダルフォンが使い物にならないのだということを如実に示していた。
ベッドの上でごろりと体の向きを変え、抱き枕を抱きしめながら気怠げに、無駄に大きな窓に薄開きの視線を向ける。先に起き出した彼が開いたのであろう、本来あるべき場所にカーテンの覆いはなく、遮光の分厚いカーテンどころか、レースのカーテンまでもが排されたその先では、どんよりと曇った空の下、細い線の様な雨粒が無数に滴っている。サンダルフォンの体に乗しかかる気怠さは、単に昨晩の行為によるものだけではなかった。試しに頭だけをもたげてみれば、鈍痛と共に軽い目眩の様なものに襲われる。抗いきれないそれに呻きながらうつ伏せに抱き枕へ沈みこんだところで、不意に部屋のドアを開ける音がした。

「サンちゃん、目が覚めましたか?食事を持ってきましたよ」

「う……要らん」

「そう言うと思って、今日はサンちゃんが好きなものばかり持ってきましたから。薬も飲めませんから、少しだけ食べましょう」

かたかたとサイドチェストにトレイを置く音がして、一拍程置いた後に脇下に手を差し入れられて、引きずられるように抱き上げられる。やめろ、と間延びする低音で呻いて、抵抗とも言えない抵抗を始めたところで、彼がそのままひょいとサンダルフォンの体を己の膝に横抱きで抱きかかえるようにしてベッドの脇に腰を下ろした。頭を真っ直ぐに保っているのも辛いので、彼の胸板にぺたりと側頭を預けると、くすぐったそうに彼が笑う。

「どうしたんですか?今日は甘えん坊ですね」

「キミ相手に格好つけるのも阿呆らしいだろう」

ほら寄越せ、と両手を出せば、サイドチェストからマグカップを取り上げた彼が、苦笑混じりに手渡してくる。普段珈琲はブラック一択であるサンダルフォンの趣向に反して、中身はふわりと蜂蜜が香るカフェオレで。一口、二口啜って、じわりと束の間緩和された鈍痛に安堵のため息をつくと、今度はマグカップと入れ替えにバンブーファイバーの大振りなボウルによそわれた、リゾットが差し出された。作られたばかりと思しき湯気の中に、ふわりと香るのは、コンソメ混じりのミルクとバターの香りと、サンダルフォン好みの加減で混ぜ込まれたチーズ、それからキノコと黒胡椒の香り。渡された木製のスプーンで一口食べれば、どうやら知らぬうちに大層空腹を抱えていたらしく、一気に胃袋がおかわりを訴える。続け様に口に含んでいると、不意に視線を感じて、サンダルフォンは咀嚼を続けながら、ちらと上目で視線の主を見やった。

……人の食べてるところを、そうじっと見つめるのはマナー違反では?」

「ふふ、思っていたよりも、食べっぷりが良かったので安心していただけです」

自身もリゾットをそっと口に含みながら目元を和ませた彼に、サンダルフォンは不意に気恥ずかしさを覚えてふいと視線を逸らした。
それから暫く二人して無言のままに、彼が用意した朝食を胃袋へ収める作業に勤しむ。これがルシフェルとの食事であったなら、何か話題をと焦るだろう。しかし、彼との間ならばそんな気遣いさえもバカバカしく感じてしまって、こう言う時はかえって無言の方が安心できる。
最後の一口を飲み下したサンダルフォンを認めて、彼はそっとその手から空の食器を回収すると、櫛も通していないせいで鳥の巣のようにかき乱されている鳶色の柔い毛にそっとすり寄って、今日はどうしますか、と柔らかな声で言う。その響きは、窓の外をしとどに濡らす雨のざわめきにどこか似ていた。細い糸が落ちるような彼の声音に、そっと目を細めたサンダルフォンは、己の膝の上に放り出された彼の手にそっと指先で触れて、そのまま柔い力で握りこみながら喉の奥で笑った。

「昨日キミが好き勝手してくれたおかげで体が動かん。挙句の果てにこの天気で俺は一日、使い物にならないぞ。外になど出られると思うか?ルシオ」

「天司であった時から、三半規管が弱い弱いと思っていましたが、転生してからは殊更ひどいですね。サンちゃん」

では今日は一日ベッドで過ごしましょう。サイドチェストの上から水の入ったグラスと、頭痛薬を取りながら、ルシオが笑う。彼はそのままの手で頭痛薬と水を口に含むとサンダルフォンの顎を掬ってそっと唇を重ねた。薄く開いた唇から、舌先と水と、それから錠剤がふたつ。サンダルフォンがしっかりと水と錠剤を飲み下したのを確認すると、仕上げとばかりに、戯れ程度に舌先を絡めてから、ルシオは体を離した。膝の裏に手を差し入れられて、体を抱き上げられながら、顰め面で非効率だ、と唸れば、風情ですよ、と口元を軽く笑ませながら彼がそっとサンダルフォンの体をベッドに横たえる。

「私は片付けをしてきますから、いい子で寝ていてくださいね」

サイドチェストからトレイを持ち上げたルシオはそう言うと足取り軽く部屋から出て行った。その背中を最後まで見送ったサンダルフォンは、うつ伏せで勢いよく、抱き枕へ顔を埋めてうと、と満腹が誘う眠気に瞼を閉じた。眠りに落ちる寸前の意識の中、遠くの方でさわさわと雨のざわめきが聞こえる。

今日は、一日中雨が降るらしい。