さちこ/Sharia
2023-12-20 23:13:29
1861文字
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北の果て

特にネタバレなし/死ネタ

世界の果てを見たいと思ったのはいつだっただろうか。
ふと思い至ったのは、故郷を出た時だろう。スノウを預けて、一人相棒の布袋と共にスカテイ山脈を横断し、ドマに足を踏み入れたあの日。わたしは故国の外を知った。
故郷の人々とは違う衣服を身にまとうドマの民たち。活気づいた城下町の商店街。聳え立つ山々に、トンビの飛び回る広大な空。
あの冷たいキンと澄んだスカテイの透き通った寂しい雪山とはまた違う、暖かく広大な大地が、わたしの眼前に広がったのだ。

ドマでこうなのだから、もし世界の果てがあるならば、どうなっているのだろうか。
一人身軽になって、少し頭がおかしくなってしまったらしい。わたしはまだ見ぬ景色を想像し、憧れた。憧れてしまった。



「北極点?」

そうよ、とヤ・シュトラが頷いた。
北極点。北へ北へ向かった後に辿り着く、世界の果て。
極寒の地であるそこには巨大な解けることのない氷の大陸が浮いていて、一日中陽が沈まなかったり、登らなかったりするとか。

「世界の果て、かぁ……
「貴女なら興味があると思ったのだけれど」
「もちろんあるに決まってるじゃない! 誰か踏破した人はいるの?」

そう尋ねると、魔女殿は小さく首を横に振る。
北の果て、未踏の地。てっきりシャーレアンあたりがもうすでに踏み込んでいるかと思ったが、彼女の反応曰くまだらしい。
北の果て。どんな景色が広がっているのだろう。
スカテイよりも寒いだろう。気温が下がれば下がるほど星は美しく見えるから、きっと夜空は綺麗なはずだ。どんな生物が住んでいるのだろう。そもそも生物すら存在できないほどの環境なのだろうか。

あぁ、ワクワクして仕方がない!……が。


「行くとしても、少なくともエオルゼアを回り切ってからかなぁ」
「はぁ……そう言うと思ったわ。本当に冒険が好きね、貴女」

だって、この地にだってまだまだ知らないことは沢山あるのだから。全て知り尽くして、見て、覚えて、聞いて、感じて、考えて────この好奇心を満たしたい。
だから、真ん中から順番に。いずれは南方大陸にだって行きたいし、ガレマルドだってまだ首都付近しか回れてない。南洋諸島なんかは海の底まで見尽くしてやるんだから。

「きみだってそうでしょ、シュトラ」
「呆れた、私まで同類にするつもり? ……ところで、銀泪湖の対岸に新しく遺跡が見つかったのだけれど」
「最ッ高!! 当然調査の許可もらってるんでしょ!?早く行くわよ!!」

そうしてセブンスヘブンからヤ・シュトラの腕を引いて飛び出す。
すとん、と果てまで手が届きそうなほど透き通った青空を見上げて、わたしはまだ見ぬ冒険へと胸を躍らせた。









ある日、英雄は姿を消した。

────世界の果てを見てきます。

最初にそんな置き手紙を見つけたのは、たまたま彼女のアパルトメントを訪れたアルフィノだった。
ルヴェユール家の使用人として与えられたジャケット一式を彼女にしては珍しく綺麗に折りたたみ、すっからかんになったアパルトメントへその手紙と共にぽつんと置いてあったのだ。

アパルトメントの管理人へ尋ねると、彼女はアルフィノがアパルトメントを訪れる2週間前に一度帰ってきてきりだそうだ。
そこからはただひたすら、暁の皆で彼女の足取りを追った。なんせ珍しい至極色の髪を持つヴィナ・ヴィエラだ、あちこちで目撃証言が絶えなかった。

キャリッジとすれ違った。船に乗せた。助けてもらった。旅の話を聞いた。
やがてつかめたルートは、まずエオルゼア大陸を一周。その後船でトラル大陸へ上陸、こちらも一周。
南洋諸島を巡り、オサード小大陸へ。数週間故郷へと滞在した後、彼女は北を目指してイルサバード大陸を北上し始めた。

彼女を追って北へ行くうちに、ヤ・シュトラの顔色はどんどん悪くなっていった。

やがてイルサバード大陸の北端────北極を望む海岸に一行はたどり着いた。
そして彼らは、海岸沿いに建てられた小屋の中で数十冊の手記を発見する。
これまでの旅路が記されたそれの中にはびっしりと絵や言葉が書き込まれている。
最後の一冊の、さらに最後のページには、ただ北極点へと向かうとだけ、昔と比べて少し綺麗になった文字が踊っていた。



数年後。シャーレアンの研究隊が、北極の調査に乗り出した、その日。
北極点の真下、氷でできた洞窟に、ヴィエラ族の女性の骨が残っていた。

腕の中に、すっかり凍りついた弓だけを抱きしめて。