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ながひさありか
2023-09-11 02:15:33
3314文字
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FF16-JC
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地獄の永遠は怖くない、だけどお前がいないのは恐ろしい
冥界下りが好きなので書きました。
目を覚ませばそこは地獄だった。
なぜ地獄とわかるかといえば、燃え盛る炎に囲まれた、鉄格子の檻に入れられていたからだった。地獄に行く理由もわかっている。
大義のためとはいえ、多くの人を路頭に迷わせ、死なせ、殺したのは事実だった。それを自覚した人生だった。
頭から角を生やした鬼か悪魔が牢の周りをうろつき、シューシューと嫌な音を立てている。
果たして今は何時で、何年の何月なのだろう。死んだのであれば最早そんなことは気にしなくていいはずなのだが、することもなく業火にただ身を焼かれているというのは退屈だった。
痛みと熱は生きている間の方がずっと苛烈で、地獄の方が優しいというのは、正直なところ知りたくない事実だった。喉が焼ける感覚に喘ぎながら、それでもやはり生前の方が苦しかったとはっきり口にすることができた。
手足に嵌められた重苦しい枷も、クリスタルの枷に比べればただ重いだけで、あの気絶すら許さないほどの、神経を苛む鋭い痛みはない。
ただ炎に纏わりつかれて、熱の中、体を骨まで焼かれて行く。時折骸骨姿のローブを被った化け物が槍を構えて回ってきては、俺がきちんと焼けているのを確認し、何やら手許の帳簿に記載していた。カラン、と俺の頭が首から落ちる。それが合図だったかのように、肋骨も何もかも床へと崩れて行く。
無だった。無。骨だけになった俺にできることはなかった。
目を覚ませばそこは地獄だった。
なぜ地獄とわかるかといえば、燃え盛る炎に囲まれた、鉄格子の檻にまた入れられていたからだった。燃え尽きたはずの装備もそのまま、手足の重苦しい枷もそのまま。
じりじりと炎が肌や髪を焼いて、延々とこの身を焦がしている。
頭から角を生やした鬼か悪魔が牢の周りをうろつき、シューシューと嫌な音を立てていた。
視界には炎と化け物しか映らない。遠くで、近くで、誰かの叫び声がずっと聞こえている。おそらく罪人達の叫び声だろう。
そうして再び俺の体は燃え尽き、肉のなくなった体から頭の骨がカランと音を立てて落ちる。肋骨が落ち、ポキンといい音を立てた。炎の檻が崩れ落ち、業火の中に、骨だけになった体が包まれる。
無だった。
骨だけの体になった俺に、最早苦痛はなかった。
これが俺の罪に対する罰で、永遠に続く責苦だと言うのだろうか。
なんだ、と最早肺もない口から埃が舞う。
こんなものを永遠だと言うのなら、生きている時の方がよほど恐ろしかった。
「囚人番号■■■■■、起きろ」
目を覚ますと、頭上から冷たい水が降り注ぎ、業火が一瞬で鎮火する。びしょ濡れになった檻の鍵を誰かが開けて、ずんぐりとした看守二人がずぶ濡れの俺を両脇から支えて檻から連れ出す。もちろん手足に枷はついたまま。
「お前の罪は浄化された」
忌々しそうに、スーツ姿に眼鏡をかけた、顔のよく判別できない男が高圧的に口にした。なんだって? 聞き返そうとしたが、俺の喉は舌は焼け爛れていて、言葉にならなかった。
「二度とこっちには来るなよ。手続きもタダじゃないんだ」
やけに苛立った男は、看守へ顎をやり、薄暗く熱い石の廊下を黙々と歩んでいる。炎がごうごうと音を立てて燃えている音に振り返りそうになると、「おい」と後ろを見ずに、スーツ姿の男が声を上げる。
「振り返るなよ、英雄殿」
その言葉に、かつてバイロンおじさんに読んでもらった神話のひとつを思い出していた。ジョシュアは確か、この話を酷く嫌がっていたような記憶がある。
……
いや、どうだったか。前を見て引きずられながら考えていると、何度も読んでもらった記憶が甦った。もしかするとジョシュアは、最終的には気に入っていたのかもしれない。
《兄さん!》
扉の向こうから、ジョシュアの声が聞こえたような気がした。そんな馬鹿なことがあるわけがない。
なぜならここは地獄で、ジョシュアの来るべき場所ではない。きっと俺の頭がおかしくなって、都合よくジョシュアの声を聞かせているのだろう。
「兄さん! クライヴ兄さん!?」
重苦しい扉が開かれて、眩しい閃光に目を灼かれる。光の中に見知った人影が見えたような気がしたが、誰なのかがわからない。
ため息がそばで聞こえ、手足の枷が重苦しい音を立てて外される。
俺の肩を掴んでいた囚人達が俺を放り出し、バタンと大きな音を立て、この世の終わりのような地割れの音と炎の轟音と共に、急速に向こうへ過ぎて行く。
誰かに抱き止められていることに気がついたが、後ろがどうなっているのか気になって仕方がなかった。
「兄さん、だめだよ。あれはあなたの悪い夢で、決して振り返っちゃいけない」
振り返ろうとする俺の目を塞いで、誰かが
——
ジョシュアだ。
ジョシュアが、俺の顔を両手で包み、じっと顔を近づけながら力強い声で言う。
真紅の服に身を包んだ見慣れないジョシュアが、焼けて炭化した俺の肌や髪や目を優しく撫でて行く。熱さとは違う柔らかな熱が体の上に降り注ぐ感覚がした。懐かしい熱だ。ジョシュアから与えられる炎が俺の体を癒して行く。
段々と痛みが消えて行き、徐々に思考と視界が定まってくる。
暗闇と炎しか捉えられなかった俺の目に、青空と草木が映る。青々しい草のにおいが鼻腔を擽る。俺は跪くような体勢で地面に手をつき、ジョシュアに抱きしめられていた。
「ジョシュア
……
?」
「兄さん、待たせてごめん。ずっと兄さんを探してたんだけど、なかなか見つけられなくて。あんなに天国を探したのに見つからないから、まさかとは思ったけど兄さんだけ地獄にいるとは思わなかったんだ
……
。だけどもう離さない。一緒に帰ろう」
「
……
どこへ?」
俺の質問には答えず、ジョシュアが笑う。
ジョシュアの背後に不死鳥の尾羽が見え、はじめて祝福を受け取った時のように、俺の体が暖かな炎に包まれる。
眩しい光の中で目が眩み、目を開けていられなくなる。
「兄さん、兄さん!」
——
眩しい。
目を開けられず、息苦しさに咳き込むと、ハッとしたように誰かの手が俺の喉に触れて、痛みが和らいで行く。暖かな炎に包まれる慣れた感覚に、肺から空気が戻ってくる。
「ジョシュ
……
、ア
……
?」
「よかった、気がついたんだね! 今タルヤを呼んでくるから
……
!」
「待ってくれ
……
ジョシュ
……
、そばに
……
」
あたたかな光が去って行く感覚に、耐え難いほどの恐怖が襲ってくる。体の内側から末端まで一瞬で凍りついたかのような恐ろしさだった。
「兄さん
……
?」
縋るように伸ばした俺の手は空を切ったが、慌てて戻ってきたジョシュアに手を取られる。
触れられた箇所から熱が戻り、鼓動が打ち始めるのがわかった。喉の掠れが引いて、声が出るようになる。
「お前、地獄まで、俺を迎えに来たか?」
「地獄?」
ようやくものが見えるようになった視界に、記憶の中より少し大人びたジョシュアの、不思議そうな顔が映る。
「そりゃ、もし兄さんが地獄にいたのなら僕は地獄の底まで降りて行ったけれど、生憎入口を知らないから、
……
こうして手を握って、ずっと祈っていただけだよ。だけど」
ジョシュアが俺の両手を強く握り、自分の胸は押し当てる。
「兄さんが地獄に落ちるわけがない。絶対に。
——
大体、落ちるとしたら僕も一緒なんだから、そうしたら二人で地獄を燃やして逃げ出そう」
真面目な顔で続けるジョシュアに、なんだそれ、と思わず笑い声が漏れた。
「
……
落ち着いた? ともかく、タルヤを呼んでくるから、ちょっと待ってて」
「わかった。
……
もう大丈夫だ、すまない」
俺の謝罪に肩をすくめたジョシュアが床から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「そうだ兄さん」
ここは医務室か、と見慣れた天井を眺めていると、ジョシュアがドアの前で足を止める。なんだ、と視線を上げる。
「振り返ったら戻れなくなるって、子どもの頃散々読んだじゃないか。
——
だから、次は気をつけてね」
え、と声を上げた時には、ジョシュアはもう部屋を出てしまっていた。
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