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蜂蜜のカクテルなんてどう、と薦められるままに「じゃあそれで」と答えた自分の声が随分と上擦っていたことには気付いていた。前回クライヴがこの男と寝た時は、漠然と顔と声が好みだなと思っただけで、こんなに緊張しなかったような気がするのに、どういうわけか今日は酷く緊張していた。
クライヴは蜂蜜とレモンとジンの甘酸っぱいカクテルを口にしながら、隣でバーテンダーに二杯目を相談しているジョシュアの横顔に視線を向けた。抑えられた照明の下で、彼の金髪の輪郭が輝いている。そういえば彼の髪も蜂蜜色だな、と考えた瞬間、もしかして「これ」はそう言う意味だったのか? とクライヴはカクテルの意図を探り始めてしまう。
視線を横顔からグラスへと移して考えていると、「好みじゃなかった?」とジョシュアが不思議そうに声をかけてくる。
「甘いものは嫌いじゃなさそうだったけど」
「あ、ああ、それは大丈夫だ。嫌いじゃない」
「そう? ならよかった」
笑いながら、ジョシュアはテーブル上に置かれていたクライヴの手に手を重ねた。体が跳ねたのを誤魔化すために視線をふいと逸らすと、隣で小さく笑う声が聞こえる。
可愛い。
甘ったるい声で小さく囁かれて、体温が一気に上がる。可愛いなんて言われたことないぞ、と思いながら、沈黙の言い訳のために、クライヴはグラスへと口をつける。
飲みに行くのを了承したのは自分のくせに、肌にジョシュアの視線を感じるたびに前回のセックスを思い出して、どうしようもなく熱が体の内側に籠ってくる。
早くホテルに行きたい。彼にその気があるのかないのかはわからなかったが、前回寝たのであればきっと今回だってそのつもりの筈だ、と勝手に決めつけて期待していた。
「アクセサリーは付けないタイプ?」
「っ!?」
突然ジョシュアに左耳に触れられて、クライヴは「おい」と思わず身を引いた。触れられた耳と顔が異様に熱くて、視界がちかちかする。
酒に強い自分がたかが一杯のカクテルでこんなに熱くなるはずもないのに、酩酊に似た感覚がしていた。頭がくらくらする、と思いながらジョシュアを見返すと、眦を緩めて、くすくすとジョシュアが笑っている。
彼の左耳にはシルバーのイヤーカフがはまっていて、店内の照明を照り返して、時折鈍く光っていた。
「
……今日はつけていないだけだ」
「そうなんだ。なら今度何か贈っても? あなたに似合いそうなものがあるから」
クライヴの反応を面白がっている顔をしながら、ジョシュアは再びクライヴの耳に手を伸ばしてくる。
耳朶に触れてくる白い指先に、「こいつ結構遊んでるな」と自分を棚に上げて考えたが、やめろと拒むことはできなかった。
しばらく指を離すつもりがなさそうな男に抵抗を諦めて、クライヴはすりすりと耳を擦る楽しそうなジョシュアの表情をじっと観察する。
長い睫毛に縁取られた切れ長の目許は、黙っていれば色の薄い青色の瞳と合わさって随分と冷たく映りそうなのに、形の良い唇のはしを柔らかく持ち上げて彼が莞爾むと、随分と優しい顔に見える。
女性的だと言えばいいのかだろうか、と前回散々彼が舐めて、咥えて、吸ってきた口許を見つめていると、じくじくと頭の中が霞がかっていくような気分になっていた。
会って早々そんなことしか考えられないのかよ、と自分の浅ましさに落ち込む頃、ジョシュアの指が耳から離れて、クライヴが呆然と置いていたカウンターの上の手に手が重なる。
ジョシュアはさらにクライヴに身を寄せて、耳許に唇を近づけた。
彼の香水がクライヴの鼻先で強く香る。
この前、彼に抱かれている間さんざん包まれていた、春の夜のような甘い匂いだった。
クライヴ、と名前を呼びながら、随分と激しく後ろから攻め立てて、けれど壊れものを慈しむような優しさで体中を撫でてきた彼の手管を思い出し、クライヴの背中をぶわりと熱が駆けて行く。
頬骨から顎、喉元から鎖骨、胸の上、腰、脇腹、足の付け根。太ももの内側から膝の後ろ、足首の裏、指先。体の上を彼の唇がゆっくりと降りていって、ぎらついた瞳でじっとりと見つめられていたことを覚えている。
彼の匂いと熱に包まれて、頭の中がぐちゃぐちゃに融けて行くような感覚があった。
「ねぇ」
あの夜の強烈な快感を思い出し、ジョシュアに重ねられた手が震えそうになる。
「さっきから物欲しそうな顔で僕のこと見てる、」
したい?
頬が触れ合いそうなほど近くで、ジョシュアが口にした。肌に彼の呼気が触れ、クライヴはぎこちなく首を巡らせた。
ジョシュアは白皙の美貌に微笑みを浮かべて、クライヴを優しい瞳で見つめている。けれど、彼の冬の湖のような薄い瞳も、確かに欲に濡れていた。
「
……したい」
自分ばっかりが「したい」わけではなかったことに安堵しながら、クライヴはひっそりとした声で口にした。
掠れた熱っぽいクライヴの声に、ジョシュアの瞳がちかりと瞬いたのが見える。
「じゃ、行こっか」
重ねられていた手を取られて、ジョシュアがカウンターを立つ。
「僕が奢るよ」
導かれるままに腰を上げ、クライヴは生返事を返しながら、ぼんやりと彼が支払いを済ませるのを見つめていた。
店員にカードを差し出し、受け取る。ただそれだけの所作が妙に色っぽく見えて、思わず壁に頭をぶつけそうになった。
一目惚れでも初恋でもない筈なのに、完全に浮かれていた。
だけど、本当にもう一度彼としたかったのだ。
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