前回→
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「兄さん、
…………この旅の間だけでいいから、わがままを聞いて欲しいんだ」
「わがまま?」
覚悟して顔を上げると、兄さんはじっと僕の瞳を見つめていた。
なんとなくその青い瞳が熱っぽいような気がしたけれど、自分に都合よく思い込んでいるだけだろう。そもそも「わがまま」なんて言い方をして聞いてもらうような話じゃないことは百も承知だった。
「うん。だけど、兄さんが受け入れられるとも思っていない。本当はせめて隠れ家に帰り着くまで黙っていようかと思っていたんだけど
……」
もし受け入れてもらえなかったら、残りの旅路をどうするつもりなんだ? 気まずいまま見知らぬ土地から無事に帰り着けるのか? と、冷静な自分がさっきから頭の中で怒鳴り声を上げているのに気づいていたが、どのみちもう我慢をするのは限界だった。
そもそも僕が兄さんへの気持ちを抑えていたのは、自分がもうすぐ死ぬと分かっていたからで、兄さんのそばからいなくなるだけで兄さんを苦しめることはわかっていたのに、それ以上に別の感情で兄さんを掻き乱したくなかったからだった。
僕の死は兄さんの傷になる。だから、それ以上の何かを兄さんに残す必要はないと思っていた。
本当はあなたが好きだっ、たなんて僕が言っていたら、兄さんは僕のことを思い出すたびに複雑な感情を抱く羽目になっていただろう。そういう風に兄さんの記憶に残ってしまうのは嫌だった。
「なんだよ、前置きが仰々しいな。緊張してきただろ」
肩をすくめて笑う兄さんの優しい表情をじっと見つめながら、二度とこんな顔は見られないだろうと思っていたことを思い出した。
意識が途切れる直前まで、兄さんはずっと僕を抱きしめて泣いていた。あんな表情をして欲しくはなかったけれど、それと同時に安堵したのも事実だった。
「ええと
……」
いざ告白しようとして、急に申し訳なさで胸が傷んだ。
兄さんを困らせることは本当に理解している。それでももう、どうしても言ってしまいたかった。
だめならだめでいいし(嘘だ)、別に兄さんとすぐにどうこうなりたいとも思っていない(
……と思う。恐らく)。
それに兄さんは、僕を拒絶はしないだろうと言う確信があった。兄さんは僕を大事に思ってくれている。だからきっと、戸惑ったりもし本心では嫌悪をしていても、隠してそれなりに僕を尊重してくれるだろう。
兄さんの優しさと僕への
——家族に対する愛情につけ込むみなやり方は正しくないこともわかっている。だけどもう、それに縋らざるを得なかった。
僕の恋と愛は「生前」から執着と嫉妬に塗れた汚い感情だ。そもそも十八年離れていたにしても家族に恋をするなんて間違っている。間違っているのに諦められないのだから、僕はきっと狂っている。
それと同時に、
他人と同じようにただ誰かを好きになっただけなのに、
どうして僕だけが我慢しなくちゃいけないんだ ? と自分の「境遇」に対する怒りも抱いていた。
「僕はね、兄さん
——あなたのことを愛している。兄弟としてそう思ってるだけなら、今更こんな風に言ったりしない」
口にした瞬間、怒りの炎がふっと消えていくのがわかった。
とうとう言ってしまったことに対する恐怖で心臓が冷えて縮み上がり、懐かしい息苦しさが戻ってくる。指先が震えてくるのに気がつき、隠すために拳を握って背中に隠す。口の中がカラカラに乾いて、舌が口の中に張りつくような感覚がした。息がうまく吸えない。だけどここまできたら、もう、言ってしまうしかない。
兄さんの中にもしまだ「十歳までの弱くて良い子の僕」がいるのであれば、その僕にはもう消えてもらうしかなかった。
「兄さんがジルを心から愛していることはよくわかってる。本人がいない時にこんなことを言うのが、どれだけ浅ましくて狡いことなのかもわかってる」
兄さんがなにか声を挟みたそうに口を開くのを、震える手を上げて制止する。
「だけど、僕の方がずっとあなたのことを好きだった。
……そうでしょ? 産まれた時からずっとあなたを知っているんだから。勿論、今まで言わなかったくせに今更こんなことを言い出すのは卑怯だってこともわかってる」
兄さんがじっと感情の見えない瞳で僕を見つめている。時折手が持ち上がっては下げられるのを見ながら、果たしてその手は僕を突き放すためなのか、受け入れようとしているためなのかと考えていた。
「僕はもうすぐ自分が死ぬとわかっていた。だからずっと言えなかったし、兄さんを愛しているからこそ他の誰かとでいいから、誰かと幸せになって欲しいと思っていた。幸せそうな顔をするあなたが見たかったんだ。本当は僕がそうしたかったけど、もうすぐ死ぬ人間が望んじゃいけないことだとわかっていたから
……」
今となっては痛みも何もない胸を無意識に押さえていたことに気がつき、手を下ろした。
「
………………」
兄さんは眉を寄せ難しそうな顔をしていたけれど、僕が望んだ通りに口を挟みはしない。
「つまり何が言いたいのかと言うと
……、この旅が終わるまでの間、
……僕は兄さんと恋人みたいになりたいんだ。勿論、帰るのを嫌がって遅延したりしないし、その後に関係を強要したりもしない。ただ帰り着くまでの間だけで良くて
……」
ずるいことを言っている自覚はもちろんあるし、こんなことを口にする自分への嫌悪感だって勿論ある。
兄さんとジルの関係を応援していたくせに、今更それを否定するような真似をしているのも不誠実で、何も正しいことは一つもない。
浅ましく愚かで、醜く狂っている。もしかすると醜悪な自分を認めたくなかったから、「生前」の僕はジルとのことを応援したし、兄さんに愛しているとは言わなかったのかもしれない。
死ななかったからと言って愚かになることは絶対にないのに、理性のない獣のようなことを口にしている。
「
……………………」
兄さんは腕を組み、難しい顔をしていた。勿論即答して欲しいなんて思っていないし、受け入れてくれるとも本当に思っていない。僕の手持ちのカードは兄さんの僕に対する甘さと優しさだけで、それでも許容できないと判断されたのなら、もう他にできることは何もなかった。
深呼吸をして、あーあ、とわざとらしく声を上げて笑う。
「突然こんなこと言ってごめん。だけど最初に言った通り、受け入れて欲しいなんて言わない
——言えないよ。ちょっと頭を冷やしてくるから、わがままを言って悪いけど、僕が戻って来るまでに今の言葉は忘れ、」
「わかった」
一秒でもここにいるのが嫌になって背を向けようとした僕の腕を掴み、兄さんが静かな声で言う。「わかった」だって?
ハ、と自分の口から息が漏れて、腕を掴まれたまま呆然と振り返った。
兄さんはきっと、覚悟を決めたような厳しい表情を顔しているのだろうと考えていた。諦めと優しさの混ざった、子どもの頃、部屋に帰っちゃ嫌だと泣いてねだる僕に、仕方がないなと頭を撫でて許してくれていたように。
だけど僕のその予想は外れて、顔を上げた先の兄さんの青い瞳に、激しい怒りの炎が燃えたのが見えた。
それが僕に対する嫌悪感かと思うと、今すぐ心臓を貫いて消えてしまいたくなっていた。
思わず手を振り解いて短剣に手をかけようとしたけれど、兄さんが僕の手首を捻りあげる方がずっと早い。
*
ジョシュアの言葉を予想していたわけでは勿論なかったが、今までの弟の態度はなるほどそう言うことだったのか、とクライヴはようやく納得をした。
ジョシュアの瞳があまりに不安そうに揺れているのを見て、クライヴは今すぐ弟を抱きしめて何がそんなに不安なのかと尋ねてやりたかった。けれどもジョシュアは震える手を掲げてクライヴを制し、口を挟ませなかった。
かつて幾度も目にした表情の意味に気づいてやれなかったことに胸を痛める暇もなく、そんなに自分を責めなくたっていいだろう、とジョシュアの吐露する自己嫌悪のひとつひとつを拾い上げながら考えていた。
狡いことを言っている、恋人になりたい、だけど帰るまででいいと口にしながら、本心ではどうせ無理だろうと諦めているのが見えて、何故そんな風に思うんだ? とクライヴは疑問に感じていた。
頭を冷やしてくる、と逃げ出そうとしたジョシュアをここで捕まえておかなければ、きっとジョシュアはこの先ずっと、おそらく永遠に今夜のことを無かったことにするのだろうと感じていた。
幼い頃のジョシュアは時々無茶なわがままを口にして、クライヴが返答するのに窮するようなことがあったが、再会して以降のジョシュアはクライヴに心配をさせるのは悪だとでも言うように振る舞っていた。
知らない間にすっかり大人にってしまったジョシュアに強がらなくていいんだぞ、と子ども扱いをしては嫌がられそうで言わないようにしていたが、本当は頼られていないのではないかと考えてしまう瞬間が確かにあった。
お前が望めば俺はなんだってしてやるのに。勿論実際は望みの内容によるが、誰かとジョシュアを天秤にかけてどちらか一人を選べと言われれば、例えジルを並べられても絶対にジョシュアを優先することは決まっていた。
——そうでなければナイトの誓いを立てた意味がないし、ナイトを名乗ってはいけないと十八年前から理解していた。
「わかった」
だから、ジョシュアの望みを聞いて、なんだそんなことだったのかと安堵していた。ジョシュアを愛しているかと聞かれれば勿論愛しているし、恋人のように扱って欲しい/扱いたいと言われて嫌悪感も違和感も浮かばなかった。
お前はそうして欲しかったのか、と考えの及ばなかった自身に失望したくらいだった。
けれど逃げ出そうとしたジョシュアの手を掴んで了承を示すと、振り返ったジョシュアは信じられない物を見るような目で、明らかな怯えを表明した。
その瞬間、やっぱりお前は俺を信頼していないのか? と一度もジョシュアを守れたことがなかったくせして、お門違いにも程がある激しい怒りが身を灼くのがわかった。自分の怒りが正当でないことはわかっているのに、信頼に値しない男だと言うことも頭ではわかっているにも関わらず。
「いっ
……!」
短剣に持ち上げようとしていたジョシュアの手首を捻り上げて、そのまま胸を腕で押す。木の幹にジョシュアの体を押し付けながら、落ち着け、とクライヴは自身に言い聞かせようとしたが、怒りでうまく頭が回らない。
そもそもその剣でどうしようとしていたのかなんて考えたくもなかった。
——もう一度勝手に死なれてたまるか。ふざけやがって。
言うべきではない言葉が、噛み締めた歯の隙間から漏れたような気がしたが、冷静に考えられる余裕は今のクライヴにはなかった。
ジョシュアはオリジンでも勝手に力を託して、こちらの言い分も聞かずに勝手に死んでしまった。もちろん彼はクライヴのゆいいつの主人であるのだから、時には自身の意思を通すために
——それが真に正しいものであるのならば
——ナイトに対して横暴に振る舞うのが正しいことだと言うこともわかっている。いくら嫌だとこちらが懇願してもジョシュアの意思が基本的には尊重されるべきだと頭ではわかっている。
わかっていても、それでも俺とお前は兄弟なんだから、もう少し家族として話してくれたってよかったじゃないかとずっと考えていた。
そもそもナイトとして呼びかけられた時にはどうにもならなくなっていて、クライヴにはジョシュアの意思を受け入れるしかなかった。もちろんアルテマを斃し、この世界を破滅の道から救い、ドミナントやベアラーたち、ジョシュアの言う「人ではない僕たち」が人として生きて、死ねる世界を築きたいと考えてここまでやって来たのは事実だった。結果的に数多の人々に恨まれ憎まれることとなっても、最善の道はそれしか残されていなかったのだから。
そうは言っても、だ。
ジルの力を勝手に奪ったこととある意味同じことをジョシュアにされて、確かに自分の振る舞いは相手のことを考えておらず、あまりに自分本位で勝手にすぎたと最後の最後で自覚させられた。
ジョシュアの状態から目を背けて、きちんと話し合わなかったことを、目が覚めてからずっと後悔していた。
できれば今度こそうまくやりたいと
——何か思い詰めていることがあるんじゃないか?
——と考えていたが、ジョシュアの物憂げな表情を見てしまうとどうにも言葉が出てこなかった。
兄さんに話すことは何もないよ、と例えどのような表情であったとしても、言われて仕舞えばそれ以上追求できないだろうとわかっていた。ジョシュアがされたくないと思っていることはしたくなかったからだ。
「俺がお前を受け入れて、それが気に入らないのか?」
ジョシュアの薄い胸を押す腕に力をこめてしまい、ジョシュアが痛みに眉を寄せる。
なるべく暴力的に振る舞わないようにしなければと言い聞かせているのに頭に血が上って、目の前がぐらぐらと揺れていた。
ジョシュアが息を詰まらせるのが聞こえ、クライヴは慌てて、弟の肋骨を折らないために乱暴に手を離した。ジョシュアが激しく咳き込みながら、「どう言う意味だい?」とクライヴに探るような目を向けた。
「何故帰るまで、なんて言うんだ?」
「何故って、そんなの当たり前だろ。だって兄さ、」
クライヴはジョシュアの言葉を最後まで聞かず、首を振って声を荒げた。
「お前は俺を愛しているのに、俺にはお前を愛することを許してくれないのか? 本当に俺が欲しいわけじゃないのか? それとも本当は、俺は他の誰かの代わりなのか?」
「ハ
——、」
噛み付くような怒りの声をあげるクライヴに、ジョシュアは目を見開き、困惑したように息を吐いた。
裏切られたとでも言うように傷ついた瞳を見せたジョシュアにクライヴの胸がチリチリと痛むが、一度吐き出した言葉を口の中に戻すことはできない。
「
……そんなこと、そんな人が他にいるわけがない。僕にあなた以上に大事な人がいるわけがないのに、どうしてそんなことを言うんだ!?」
ジョシュアの血を吐くような叫びに、クライヴは微かに瞳を細めた。そうであって欲しいと望んでいた言葉を与えられて、瞬間的にどうしようもなく充足感を覚えた。怒りに燃えていた思考が段々と落ち着いて行き、クライヴは肩から力を抜く。
ジョシュアに自分以上に大事な人間がいるはずがないと自惚れていたことを肯定されて、後ろ暗い悦びが湧き上がる。
胸に不死鳥の羽を抱いていた時のように、けれども、そんな風に感じてはいけない熱を体の内側に感じていた。
この感情が正しいわけがない。清いわけがない。肯定されていいはずがない。けれども、別に、誰に許しを得る必要もないはずだった。
自分とジョシュアが納得しているのであれば、それだけでいい。絶対に。
「兄さんはジルを愛している。だからジルを一番にすべきだし、僕は《生前》言わずに我慢していたくせに、生きていけるとわかって今更こんなことを言う卑怯者だ。
……あなたに悩んで欲しいわけじゃない。選んで欲しくもない。あなたは本当に僕のわがままを聞く義理だってない。
…………それとも、クライヴ。もしかしてナイトの義務だと思ってる?」
皮肉そうに唇の端を持ち上げるジョシュアに、クライヴは言葉を返さなかった。ジョシュアが明らかに自分を怒らせようとしているのがわかったからだ。
クライヴは黙って、じっとジョシュアを見つめていた。ジョシュアの皮肉そうな表情が崩れて、重苦しいため息が落ちる。拳を握りしめたジョシュアが、痛々しい笑みを浮かべた。
「
——なんてね。冗談だよ。本当はその逆。僕は兄さんの一番になりたくない。だって十歳の僕は兄さんを身勝手に縛りつけた。それに兄さんがずっと縛られて生きて来たことを知ってる。だから、もう僕のわがままなんて聞かないで、自由に生きて欲しい」
クライヴは俯いたジョシュアのそばにより、ジョシュアの頬に手を添えた。雲間から月光がジョシュアの頰に差し、血の気の引いた青白い美しい顔を照らす。噛み締められた唇を痛ましそうに見つめて、クライヴはそっとジョシュアの唇を親指の腹で撫でる。
「俺はいつだってお前を一番にしたいのに、どうしてそうさせてくれない?」
なりふり構わず僕のために生きろと言ってくれればいいのに。
自分だって素直に口にはできないくせに、クライヴは
情けを求めるようにジョシュアに懇願の声を上げる。
ジョシュアはここまできても首を振り、自分から言い出したくせに、クライヴの想いを否定するかのように硬い声で続ける。
「だって、もう兄さんに僕の《祝福》はないじゃないか
……」
クライヴがジョシュアを優先してはならない唯一にして絶対の担保だとでも言うように、絶望的な声をジョシュアが上げた。
クライヴはジョシュアの青白い顔を見つめて、たったそれだけのことで俺を信じられないのか? とため息をつきたくなるのをどうにかこらえて、ジョシュアの頬を軽く叩く。
「もしこの旅が無事に終わっても、俺の一番は変わらない。俺は何があろうとお前を優先する。俺はお前を守るのが使命で、それはずっと変わらない。お前の祝福があろうがなかろうが関係のないことだ。俺がお前を守ると決めたのは、お前のナイトになると決めた日よりもずっと昔のことだ。お前は知らないだろうが
——」
クライヴは背中から剣を抜くと、ジョシュアにそれを握らせる。
銀色に輝く刃は冷たく月光を照り返し、クライヴの眉を下げた、捨てられた犬のような情けない表情を映している。
「どうしても俺がお前を愛するのが嫌だと言うのなら、ここでナイトを解任しろ。お前がナイトをやめろというのなら、それに従うさ。
……その代わりに、俺をここで殺してくれ」
「何を言って
……」
クライヴの暗く落ち込んだ瞳に、ジョシュアは言葉詰まらせた。剣を手放そうとするが、クライヴは力強くジョシュアの手を押さえつけて握らせたまま、ゆっくりと剣を持ち上げさせて、自分の肩の上に置かせる。上下に引けば確実に首から血が吹き出す距離に刃を当てるクライヴに、ジョシュアは「やめろ!」と大声を上げた。
「兄さんは僕のナイトだ、それは
……それは変わらない」
「そうか」
ジョシュアの言葉に、クライヴはあっさりと剣を首筋から外し、再び背中へと戻す。
理解ができないと言うようにクライヴを見つめるジョシュアに、クライヴは「それで、どうするんだ?」と場にそぐわない静かな声で尋ねた。
「恋人としてあなたを愛してもいいって言ってる? 僕をそう言うふうに愛せるとでも?」
首肯するクライヴに、ジョシュアはまだ疑いの視線を向けている。
月が雲間に隠れて、あたりは再び暗闇に包まれた。輪郭だけがかろうじて見える闇の中で、クライヴは再びジョシュアに近寄り、拒絶をさせないために弟の薄い体を抱きしめた。
ぎくりと身をこわばらせるジョシュアの髪を優しく撫でて、不自由な左腕を腰に回す。
「
……あなたはそうやって自分が我慢をすればいいと思って、」
往生際も悪く、怯えたように声を震わせるジョシュアを宥めるように力強く抱きしめながら、クライヴはまさか、と小さく笑う。
クライヴが今までジョシュアを「本当に」守れなかったのは事実だった。
だから、ジョシュアが最終的には自分は選んで貰えないのだともしかしたら無意識に感じているのかもしれない。そうであるならば、自分の不甲斐なさを恥じるべきで、ジョシュアを責めるべきではない。
「ジョシュア、俺もお前を愛してる。お前が俺が欲しいと言うのなら、俺は今度こそお前を選ぶよ」
体を少しだけ離し、クライヴはクリスタル自治領で再会した時のようにジョシュアの頬を優しく撫でた。
ジョシュアの震える吐息が肌に触れて、いいの? と幼い声が落ちる。
「当たり前だろ」
クライヴの優しい声が闇に落ち、ジョシュアの両手がクライヴの後頭部に回される。兄の黒髪を髪をかき混ぜるようにしながら引き寄せて、ジョシュアはクライヴの唇に唇を押し当てた。