ながひさありか
2023-08-19 00:30:06
2696文字
Public FF16-JC
 

きみの好きなところ

現パロ・双子

「すげぇ美人、恋人?」
 ロック画面を指差し感嘆した学友に、クライヴの反応は一瞬遅れた。
 視線をさっと下げ、確かにこちらに向かって手を振るジョシュアの笑顔が写っているのを確認し、二秒ほど考えてから「そうだ」と口にする。
 考えてしまったのは、ランダム設定しているロック画面のうち、ジョシュアが写っているのは一枚だけで、これなら誰かにバレることもないだろうと慢心していたからだった。
「長いの?」
「長い?」
 曖昧な問いかけにクライヴが不思議そうな顔をすると、「付き合ってる期間」と彼が言う。
「そうだな……」年数を数えるふりをして、大学に入ってからってことにするか、と決める。「二年か」
「いやそんな考えるほどの長さかよ」
 ばしっ、と笑いながら背中を叩く男に、クライヴは「何ヶ月か数えようとしたんだ」と鷹揚に嘘をつく。
 本当は——クライヴの自認では——二十年だった。両親のせいで五年離れていた時間はあったが、別れたわけでもないので、「産まれた時からずっと」だと思っていた。ジョシュアはもしかすると違う考えかもしれなかったが、尋ねたことがなかったので、クライヴにはわからない。
「どんなやつ?」
「優しくて思いやりがあって……」指を折って数えようとしたが、途中で断念した。「いいところをあげたらキリがないよな」
「あ、そう……
 聞くんじゃなかった、と学友の顔に書いてあるのを認め、クライヴは「なんだって皆同じことを言うんだろうな」と考えていた。
  積極的に「恋人」の話はしないが隠しているわけではないので、尋ねられれば(いくつかの嘘を混ぜて)答えることにしているのだが、どう言うわけか最終的にはこう言った反応になってしまう。恋人の話なんだから、良いことばかり言うのは当然だろう、と眉を寄せても「あーはいはい、わかったわかった、ラブラブでよろしいことで」とあしらわれてしまうのがクライヴには不思議でならなかった。

   *

 日付が変わる頃にバイトを終えたクライヴが帰宅すると、リビングで小さく咳をしながらジョシュアが「おかえり、遅くまでお疲れ様」とクライヴに笑顔を向けた。
「眠れなかったのか?」
「違うよ、レポートが終わらなかっただけ。今終わったから大丈夫」
 心配そうな顔で背中をさすってくるクライヴに笑いかけながら、ジョシュアはタブレットPCを操作し、レポートを提出する画面をクライヴに見せた。
 ジョシュアはクライヴの腕に軽く触れると、「心配してくれてありがとう」と立ち上がり、キッチンへ向かう。電気ポットからマグカップへ湯を足し、「兄さんも何か飲む?」と尋ねながらティーバッグを落とした。
「いや大丈夫だ。先にシャワーを浴びてくるから、後で自分でいれるよ」
 けほ、と咳を繰り返しながら「わかった」と言うように首肯したジョシュアを数秒見つめてから、クライヴは無言で風呂場へ向かう。手短に体を清めて出てくると、冷蔵庫から冷えた水を取り出し、眠たそうな顔でマグカップに口をつけながらタブレット画面を見ているジョシュアの隣へ座る。
「何を見てるんだ?」
「次の課題の資料」
「こんな時間からか?」
 眉を顰めて咎めるように言うクライヴに、「って言えば兄さんがそう言う顔をしてくれるかと思って」とジョシュアが笑う。
「お前な……
 ジョシュアがマグカップをテーブルの上に置いたのを確認してから肩を小突くと、ジョシュアが笑いながら「痛いよ」と少しも痛がってはいない声で言う。笑いながら肩をさすっているジョシュアの顔を見ながら、長い襟足に隠されたうなじに手のひらで触れる。
「っ、わっ」
 ぱっ、と身を引いて首を押さえるジョシュアに、クライヴは怪訝そうな顔をする。
「そんなに驚くようなことだったか?」
「いや、手が冷たかったから……
 とジョシュアはクライヴが先程まで握っていたペットボトルに視線を向け、ああ、と納得したように息を吐いた。
「疲れてるんだね」
 そう溢すジョシュアに「どう言う意味だ?」とクライヴが尋ねるより先にジョシュアの腕が伸びてきて、お疲れ様、と体を抱きしめられる。よしよし、とまるで子どもをあやすように頭を撫でられるのは少しだけ抵抗感があったが、触れられるのが心地よかったので、文句は口の中に留めておくことにする。
「そう言えば昼間、お前がどんなやつかと聞かれて」
「ふぅん」
 ジョシュアはクライヴがこう言う話し方をする時、いつも気のないふりをしつつも少しだけ身を硬くする。それがどう言う感情から来る反応なのか、クライヴには正直なところまだわからない。
 頭の上にジョシュアの顎が乗っているのを感じながら、クライヴはジョシュアの背に腕を回して、弟の細い背中を撫でた。
 ジョシュアが小さく咳をする。抱きしめられた体が咳で振動する。
 話を切り上げてベッドへ向かわせるべきだった。
「いつも通り結局なぜか『もういい』とあしらわれてしまってな」
 クライヴはジョシュアの背を軽く叩いた。ジョシュアは抵抗せず腕の力を緩め、クライヴを自由にすると、再びマグカップを手に取り、緩くなった紅茶を啜る。
「お前の好きなところを聞かれればすぐに答えられるんだが、意外と聞かれないものだな」
 突然の言葉に、ぶふっ、とジョシュアがお茶を吹いて「え、なに?」と咳き込みながらクライヴの顔を見る。
 そわそわと目許を赤くして伺うような視線を向けてくるジョシュアに、「気になるか?」とクライヴは唇の端を持ち上げた。
「そりゃ気になるよ」
「お前が大人しくベッドに入るなら教えてやる」
……なんだか言い方がいかがわしいなあ。入るよ、入る」
 咳止めの薬を紅茶で流し込み、ジョシュアはシンクへマグカップを置くと、宣言通り寝室へ向かう。背後ではクライヴがリビングの電源を落としていた。
「で?」
 ベッドに入ったジョシュアは、ベッドヘッドの照明をつけて、クライヴが部屋の電気を消すのをじっと見つめた。
 無言でベットへ上がってくるクライヴに焦れながら「僕のどこが好きなの?」と兄の頬に手のひらを当てて自分の方へ向かせる。
 クライヴは当てられた手に自分の手のひらを重ねて頬を擦り寄せると、ジョシュアの手のひらにそっとキスをする。
「セックスの上手いところ」
 クライヴの細められた瞳とジョシュアの視線が交わり、二人の唇が近づく。


 長い口付けの後に、「まあ、今日はしないが」とクライヴが真顔でボケたことを言うので、「はぁ!?」とジョシュアは咳をしながら声を上げた。


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