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ながひさありか
2023-08-17 03:37:53
6756文字
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FF16-JC
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ジョシュクラ)ユーフォリアのこちら側1
決戦前〜ED後if。
兄に片想いをしていたジョシュアは、想いを告げることなく最後を迎えたはずだった。
ところが、どう言うわけか生き返ってしまったらしい。
見知らぬ土地の砂浜に打ち上げられていた二人は、隠れ家を目指して旅をする。
先が長くないからと言わずにおいたはずの想いが延命されてしまい、ジョシュアはこの先どうしていけばいいのかわからなくなってしまった……。
という話の序章です(全3〜5話予定)。
設定の捏造や曲解が多分に含まれます。
最後はハッピーエンドですが、人によってはこのオチは許容できないかもしれません。
兄弟がくっつく話だと言うことを念頭に置いてお読みください。
「若様って好きな人いるー?」
子どもたちにねだられ、読み書きを教えていたジョシュアは、唐突にそんなことを尋ねられた。
医者であるタルヤがジョシュアのことを「若様」と呼ぶせいで、隠れ家の子供たちも珍しがってジョシュアを若様と呼ぶはじめ、嫌ではないので否定せずにいればそれがすっかり定着してしまった。
「どうしてだい?」
難しく飽きてしまっただろうか、と教本の書き取りをしている子どもたちの手許を覗きながら尋ね返すと、「なんとなく!」と無邪気な声が戻ってくる。その純粋さに苦笑しながら、ジョシュアは「大事な人はいるけれど、そうだな、恋人にしたいって意味ならいないよ」と穏やかに答えた。
子ども達はジョシュアの返答に「えー」といささか不満そうな声を上げたが、すぐに興味を失って、ジョシュアの添削する自身の書き取りへと視線を戻した。
「惜しかったね、よく見てごらん。ほらここ、反対を向いているよ」
綴り間違いや向きの違いを指摘しながら、ジョシュアは子どもたちにバレないように小さくため息をついた。
読み書きを教えていたジョシュアの元へ、モリーがやって来た。どうやら子ども達のおやつの時間らしい。本を片付けてラウンジへ走って行く子どもたちを優しい瞳で見つめているジョシュアに、「あなたも休憩にエールをどう?」とモリーが声をかけた。
ジョシュアは丁寧にそれを辞して、モリーに別れを告げると屋上へと足を向けた。柵のそばのベンチへ座ると、柵へ腕を寄りかからせて眼下の黒いベンヌ湖を見下ろす。
先刻、子どもたちに明確な嘘をついたことに少しだけ罪悪感のようなものを覚えていた。
好きな人はいる。叶うのであれば同じように想って欲しいし、恋人にもなって欲しい。
……
ただ、
もう
、、
言わないのだと決めたからには、そんな人はいないことにしなければならない。
隠れ家へと移り住んでから、幾度となく自分へ言い聞かせた言葉を口の中で小さく呟き、ジョシュアはため息をついた。
胸の中心で暗く光る《虚》を手のひらで隠すように服の上から触れ、瞼を下ろす。風が彼の髪を優しく揺らす。目を開けると、断ち切るように「よし」と声を上げて、図書室へと向かった。
こんな、どうしようもないことを悩んだり悔やんだりするような時間が自分には残されていないことを、ジョシュアはよくわかっていた。
*
兄への敬愛の念が実際には恋情であることにジョシュアが気がついたのは、クリスタル自治領で兄と再会した時のことだった。
人の姿で目が合った瞬間、魂が揺れるような衝撃を覚えた。
この人に焦がれている。泣くなと言い聞かせても勝手に喉がわなないてどうにもならなかった。
あれほど会いたかった筈なのに、どこかで二度と会いたくないとも思っていたのは、兄とまともに相対すれば、自分の感情へ嘘をつくのが難しいとわかっていたからなのかもしれなかった。
病室のベッドで目が覚めて、自分を心配する兄と話すうちに、その考えは殆ど確信に変わった。
心配をされるのが嬉しい、だけど、心配して欲しくもない。先が長くないことをジョシュアは前々から自覚していてた。
出会わなければ別れはない。どうしたって自分の方が先に逝くのだから、悲しませるくらいなら、二度と兄には会わない方がいいのかもしれないと思っていた。
ところがこうして再会した途端、その決意は簡単に揺らいで、もう離れるのは嫌だと感じてしまっていた。
十八年前に別れたきり一度もまともに会わなかったのに、兄の自分への忠誠心
——
と言うことにしなければ思い上がってしまいそうだったので、そうだと思うことにした
——
は揺るぎなく真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐだった。
幼い頃からジョシュアにとってクライヴは万人に等しく降り注ぐ眩しい太陽のように誰にも優しい人で、それと同時に、剣技をそばで見るたびに罪科の大小にかかわらず等しく全てを灼き尽くす炎の化身のような人だとも思っていた。
もちろんそれはジョシュアの幻想で、本当は兄にも重圧だの失望の視線だの、翳りがあったことは知っていた。ただ、それを弟の自分にはなるべく見せないようにしているところを尊敬していた。
『お前が生きてくれていてよかった』
十八年会わなかった理由を告げないジョシュアに、クライヴはすぐに追求を諦めて、再会した時と同じように微笑んでそう口にした。
優しい声と穏やかな青い瞳、慈しむようにゆっくりと頬を撫でてくる甲冑に包まれた手。
兄は、昔とずいぶん姿が変わった。頬に残る大きな傷痕と髭の口許を見つめ返しながら、ジョシュアは「ごめん」ともう一度口にした。口にすることで十八年の歳月が戻るわけでもないのだが。
隠れ家で過ごすうちに、兄とジルがもどかしい関係になっていることに気がついた。ジルが兄に恋をしていることは幼少時から知っていたことで、おそらく兄もそうだろうとジョシュアにはわかっていた。
ジョシュアはジルのことも家族のように思っていたし、彼女にも幸せになって欲しいと感じていた。兄ほどではないが、彼女のことも愛している。
同じドミナントとして、石化による苦痛と日々鈍重になって行く体への
——
死へと近づいて行く事への恐怖は共感できると思っていた。ジルの石化は相当悪いようだったが、きっと自分ほどではないだろうとなんとなく感じていた。
不安や恐怖に対抗するには、それを上回る使命感か、あるいは愛が必要だとジョシュアは考えていた。
だから、ジルも望んでいるのだから、兄はジルと結ばれるべきだと思っていた。
もちろん、それが自分にとって苦しい選択なのはわかっていたが、死ぬ前に、自分のせいで兄とジルの関係を引っ掻き回したり壊すような真似はしたくなかった。
(もしかすると「最後だから」と想いを伝えたい人もいるだろうけれど、僕はそうではない)
図書室で適当な本を手に取り、中身を読むふりをしながら、ジョシュアは再度自身はそう言い聞かせた。
兄を敬愛し想っているからこそ、余計なことは言いたくない。
けれど、本当に最後まで言わずにいられるのだろうか。言わなくて、その瞬間に後悔はしないだろうか。
「
……………………
」
本を閉じて棚に戻すと、ジョシュアは別の棚へ移動する。背後で幼い二人のきょうだいがなにか楽しそうに笑っている声が聞こえて、ジョシュアは脳裏に幼い頃の自分達の姿を思い浮かべた。
穏やかで幸福だった
——
と言言い切るには、重圧で苦しい日々ではあったが
——
思い出があるのだから、やはり言うべきではないだろう。
死は誰にでも等しく訪れるものだ。だから、できれば残された人にはなるべく穏やかであって欲しい。
そもそも想いを伝えたところで、叶う筈もないことは明白だった。
兄は自分をそう言う風には想っていない。兄弟なのだから、それは当たり前のことだった。否定されたり、受け入れてもらえないだけならマシな結果で、拒絶されたり嫌悪される可能性の方が高いだろう。
兄の困惑と嫌悪の表情を脳裏に幻視し、胸が痛み、呼吸が浅くなる。父と母のようにせめて従兄弟同士であればあるいは
……
、と考えたのも一度や二度ではなかったが、兄と完全に血を分けた兄弟であることを誇りにも思っていた。
どうしようもなく苦しかったが、どうにもすることはできなかったし、したくなかった。ジョシュアはぐるぐると思考がループしている外に気がつき、考えを断ち切るようにため息をついた。
弟である限り機会など永遠にある筈もないが、代わりに、真実を口にさえしなければ、生きている間はせめて、ずっとそばにいることができる。
(それで十分じゃないか)
*
世界と生活は日々悪い方向へと進んでいた。勿論ジョシュア自身の体も。
石化の進行から考えても、きっとアルテマとの戦いが最後だろうと思っていた。体はどんどん重く鈍くなっているのに、痛みだけがますます強烈になっていた。
薬で痛みを和らげていても、切れた瞬間から再び効くまでの時間はあまりに長く、何度も正気を失いそうになっていた。
(もう少しだけ保ってくれ。頼むから)
体内のエーテルが転生の炎で灼けて行くのを感じながら、ジョシュアは苦痛を耐えるために、暗闇の中、ベッドの上で布を噛んで声を殺していた。けれど、痛みが強烈すぎて思わず床へと落ちる。肩を強く打ちつけたが、それよりも体の内側の痛みの方が強く何も感じない。床に手をついて奥歯を噛み締めている間中、嫌な汗が全身から吹き出し、顎先や毛先からぽたぽたと床へ落ちて行く。
痛みに呻きながらベッドサイドの棚へ手を伸ばし、タルヤに調合してもらった薬をもう一度流し込む。
「ぐっ
…………
、
……
クソッ
……
」
空になった薬瓶を握り締めて、ジョシュアは思わず舌打ちをした。薬の効く間隔が随分と短くなっていて、いよいよ終わりが近づいていることをわかるされるのが嫌だった。
「
………………………
今じゃない。まだ、その時じゃない」
ジョシュアは苦痛から逃れたいあまりに、鞄の奥底へ隠してある薬をじっと見つめていることに気がついた。
痛みの引いて来た体をのろのろと動かし、ジョシュアは薬の存在を確かめた。手でそれを弄んで、「まだその時じゃない」ともう一度口にする。
『クライヴには内緒。だけど必要な時があるかもしれないから、念のため渡しておく。
……
本当は使って欲しくないけど、医者としての判断』
少し前に、タルヤからこっそり渡されたこれは、あらゆる感覚
——
特に痛みを忘れさせる代わりに、やがて生きている感覚すらも失ってしまうエリシア薬だった。服用して痛みを失ってから数時間後、緩やかに心臓や呼吸が止まり、やがて例外なく死に至る。
苦痛のない死。それがどれほど貴重で眩しいものか、ジョシュアにはわかっていた。
鞄の奥底へ薬を再度しまうと、汗だくの服を着替え、目を閉じて泥のように眠理に落ちた。
*
僕の余計な思いを兄さんには背負わせたくない。
そう決めたくせに、決戦へと向かう前夜になってジョシュアはまた悩んでいた。
きっとここへは戻って来られないだろうと考えて、身辺整理は兄にばれないように教団員にも手伝ってもらって終えていた。全てを知っているヨーテだけは時折物憂げな瞳をジョシュアに向け、唇を開いたが、教団員として育てられた彼女が一番、ジョシュアの使命に殉じようとする姿に何も言うことはできなかった。
できる範囲で、やり残したことはもうない。何度も頭の中でリストを作り、チェックをした筈だったのだが、どうしても消えない想いだけがこうしてジョシュアの脳裏に影を落としてしまう。明確にやり残したことといえば、兄に想いを伝えられなかったというその一点だけだった。
「
……
だけど、これでいいんだ」
先日、ジョシュア自身も後押しをして、二人はめでたく結ばれていた。もちろん、二人が恋人同士になったからと言って、ジルのジョシュアへの態度も、兄の自身への態度もさして変化をしなかったのはありがたいことだった。
ジョシュアは窓際へ寄ると、カーテンを開け、夜空に浮かんでいるはずの月のある方角を眺めた。オリジンが浮かんでから、夜はさらに暗く重苦しいものになってしまった。こんな世界は正しくないのだから、アルテマを討たなければと夜空を眺めるたびに強く感じていた。
「
………………………………
、」
なのに、どうしてか諦めのつかないため息が漏れた。
今頃、兄はジルと同じ部屋で眠っているのだろう。
それでいいのだとわかっている筈なのに、そうしようと決めたのは自分のはずなのに、どうしてもジルが羨ましくてたまらない気持ちが殺しきれなかった。
別に二人の仲を引き裂きたいだとかそんなことは思ってもいない。
二人には幸せになって欲しい。それは本心からの願いだった。
自分の幸福より、兄さんの幸福を優先したいと本当に思っているし、そうするべきだった。
ジョシュアは我知らず握りしめていた手のひらを開き、手の中に炎を灯す。体内のエーテルが灼けて行く感覚にすぐに消すと、胸に拳を当てた。
明日、何もかもが終わる。
*
胸を裂いてアルテマの一人が出現したのに気がついた時、ジョシュアは兄に隠れてこっそり薬を飲んでおいてよかったと感じていた。
息が切れて視界が揺らぎ、体の感覚がだんだんとなくなってくるのを感じながら、クライヴの肩を掴んで力を譲渡する傍ら、舌の感覚も曖昧になりながら言葉を続けた。
体の中からなにか大きなものが抜けていく感覚に、ああ、本当にこれで最後なのだとはっきりと感じた。
ドミナントとして覚醒した幼いあの日からずっと、自分の弱い体をここまで散々延命し、それと同時にジリジリと灼き続けてきた暖かなものが消えて行く。
兄の背から優美な燃える両翼が生えるのを見ながら、やはりこれでよかったのだジョシュアはと安堵していた。
当主であることを望まれた兄から何もかも奪った人生だったけれど、最後に、全てを兄に返すことができたのだから。
クライヴに今更「世界を救って」なんて言わなくても、世界を救ってくれるに決まっていた。
(だって兄さんは僕のナイトなんだから、負ける筈がない)
子どもの頃にそんな無茶を散々言って、後でマードック将軍からこっそり嗜められたことを唐突に思い出した。
ひどいわがままをいつだって兄さんは怒らずに受け止めて、時には正しく嗜めてもくれたっけ。そう言うところも好きだった。
「死ぬつもりか
……
!?」
涙を流して動揺する兄をなんとか安心させたくて、ジョシュアは微笑みを浮かべる努力をする。
痛みもなければ、感覚ももう殆どない。うまく表情が作れているのかどうか、正直なところわからなかった。
兄に抱き止められているのが見えているのに、包まれている感覚はもうなかった。意外なことに恐怖や淋しさもなく、きっと兄が勝つだろうという確信もあった。
最後の《命令》を、ナイトであるクライヴが叶えてくれないとは思わなかったから。
「ありがとう
……
、兄さんでいてくれて」
心の底から、すんなりと言葉が出たことに何よりもジョシュアは安堵していた。
細く息を吐き、ジョシュアは眩しく暖かい光に包まれるような感覚を覚えながら、ゆっくりと降りてくる瞼の重さに抗わず、目を閉じる。
余計なことを言わなくてよかった。
これで、兄さんの思い出の中の僕は、永遠にただの弟として残る筈だ。
*
「
…………………
え?」
ジョシュア、と揺さぶり起こされて目を開けたものの、すぐには現実を受け入れられず、ジョシュアは呆然としていた。
「よかった
……
、よかった
……
!」
見知らぬ砂浜の上で、兄に強く抱きしめられている。
抱きしめられている感覚がある
、、、、、、、、、、、、、、
。
頬を兄の熱い涙が伝って落ちて行く感覚、痛いほど抱きしめられて骨が軋む。今際の際にはわからなかった兄の腕の中の体温。
おかしい。一体何がどうなってるんだ?
呆然としながら、ジョシュアは泣き続ける兄の背を無意識に抱きしめ返し、背中越しに青い空を見上げた。
浮かんでいたオリジンはない。と言うことはきっと、兄はアルテマを討ち、この世界の終わりが早まるのを止めたのだろう。
「兄さん
……
」
掠れた声をジョシュアが上げると、ようやく、クライヴが体を離してくれる。
泣きながら右手で頬を撫でてくるクライヴの表情に見惚れていると、「このばか」と軽く頬を叩かれて、「え」と声が出た。
「ふざけやがって
……
、くそ
……
、お前な
……
」
泣きながら悪態をつく珍しい兄の姿に、「兄さんにはじめてそんなこと言われた」とジョシュアは目を瞬かせて、思わず笑ってしまう。
ジョシュアの反応にクライヴはむっと眉を寄せて押し黙り、疲れたように、けれどほっとしたように瞳を細めて微笑みを浮かべた。
「二度とやるなよ」
甘ったるくて、柔らかい、優しい声だった。
その表情を見て、どうしよう、とジョシュアは深く考える前に、反射的にそう感じていた。
最後ではないとわかったら、途端に、納得したはずの想いがどくどくと脈打つのを感じた。
自分に何が起きているのかもわからないのに、勝手な期待で脳が痺れて、うまく呼吸ができない。
「僕は
……
生きてる
……
?」
呆然と呟いたジョシュアを、クライヴは再び力強く抱きしめた。
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