強烈な痛みで目を覚まし、慌てて布を噛みながら暗闇の中で薬を探した。なんとか瓶を開け薬を流し込むと、手のひらで口を押さえる。酷い苦味と痛みで気が遠くなるのを感じながら、なるべく呼気が漏れないように必死で奥歯を噛み締めて痛みに耐え、耐えられそうにない痛い内側から引き裂かれるような痛みで目の前が明滅する痛みで口の端から唾液が溢れているのが押さえた手のひらの濡れた感触でわかる痛い頭が体中が痛い指先が痺れる痛い痛い痛い痛い痛い!
頭を掻きむしって床の上をのたうち周りたくなるが、体の方が逆に言うことを聞かずに動けなくなっていた。痛みで体が硬直し、息が詰まって頭の血管が切れそうな感覚がする。永遠にも思えるほどの長い時間、なんとか呻き声を上げぬようベッドの上で縮こまっていると、唐突に痛みが薄れ、苦しみから解放される。痛いは痛いが、我慢のできる痛みになっていた。
胸の奥から炎が爆ぜるように燃える感覚がし、体内のエーテルが消費されて行くのを感じた。壊れた体の再生がようやく始まったらしい。
はぁ、と息を吐き、額を流れるいやな汗を拭った。全身にびっしょりと汗をかいてしまった。あまりに不快で眠れそうになく、諦めてベッドを降りるが、そこで腰が抜ける。全身が軋んで、動きが鈍い。服を着替えたい。そう思うのに動けず、諦めてそのまま床に身を横たえた。
汗で張り付いた髪が不快だったが、指で払う気力もない。
朝になってヨーテや兄さんが訪れる前にベッドに戻れるだろうか。いや、今夜こそ無理かもしれない。ヨーテならまだいいが、兄さんにこんな自分の姿を見せたくはなかった。
気力を振り絞り、床から身を起こす。なんとか立ち上がるが、もう服を着替える気にはならなかった。倒れるようにベッドへ戻り、目を閉じる。
昔から健康な時の方が少ない体だったが、最近は特に具合が悪かった。石化が随分進んだこともあり、体の動きや感覚が鈍くなっている部分がある。痛みのない時間が最早ないことを知っているのは、恐らくヨーテだけだった。
ヨーテは僕の覚悟を尊重してくれているが、時々彼女の瞳や口許が悲痛そうにゆがむのを知っていた。彼女の心配を受け止めてあげられないことは申し訳なく思うが、それでも僕は僕の使命を果たすまでは立ち止まるわけにはいかなかった。
「……兄さん」
小さく呟き、拳を額に押し当てる。弱音を吐きたくなったり、歩みを止めたくなりそうになった時は、いつもこうして兄さんのことを考えていた。
人が人として生きられる世界を作る、と自ら人に憎まれる道を選び、罵られようとも信念を曲げずに悪道を進む兄さんを尊敬していた。アルテマという理を倒さなければ、この世界は何も残らない死へ向かうばかりだった。僕たちのみちゆきの先に、人々の幸福だけがあるわけではないことはよくわかっていた。
先の未来なんてどうだっていい、自分たちが生きている間だけ平和であればいいのだと考える人たちからしてみれば、僕たちのやっていることは許し難いことだろう。だが、彼らを説得する時間は最早なかった。
後どのくらい、この体は保つのだろうか。
石化の進む両腕を見下ろし、ため息をつく。
アルテマの痕跡を追い各地を旅をする内に、砂と果てたベアラー達の死体をいくつも見てきた。きっと自分も最後には、彼らのように全身が石化して砕けるに違いなかった。その姿を兄さんに見られたくはないが、恐らく叶わないことだとわかっている。
そう遠くない未来で、自分が死ぬことをずっと覚悟している。
使命に殉じることへの恐怖はなかったが、僕が死ねばきっと兄さんは悲しむだろう。それだけがどうしようもなく苦しい。
だから会わないようにしていた筈だったのに、隠れ家に来てからはそんな誓いなど嘘のように、兄さんとまた暮らせることが嬉しくてどうしようもなかった。
まさかナイトである兄さんと肩を並べてる戦える日が来るだなんて、十歳までの僕に言っても信じないだろう。僕自身まだ実感がないのだから。
「っ…………」
指先に鋭い痛みが走り、フーッ、と息を吐く。祈りを捧げるように両手を組み、額へ当てる。
まだその時じゃない、と自分の体へ何度も何度も言い聞かせ、そうすることで石化の進行がどうにか遅延しないかと無駄なことを考えていた。
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