ながひさありか
2023-07-09 12:57:44
4098文字
Public FF16-JC
 

大公if

・はげるさん(@tphageru)さんとお話してたジョシュアの髪を結ったりほどいたりお世話したりする騎士のクライヴの話です
・細かい設定は考えたらキリがないので適当です

 朝陽の気配に目を覚ましたクライヴは、隣で穏やかな寝息を立てている主を起こさぬよう、そっと寝台を降り、バスガウンを羽織って壁にかけられた鈴を鳴らす。程なくしてドアがノックされ、筆頭執事が杯を銀の盆に乗せて顔を出した。
「おはよう御座います閣下。湯浴みの準備はできております」
「おはよう。これをいただいたらすぐに向かう」
 ワインで喉を潤し、盆の上に杯を置くと、そのままクライヴは部屋を出て湯浴みへ向かう。下女たちに手短に身を繕わせると、再び寝室へ戻る。湯浴みの間に執事が部屋を整えて行ったのか、バルコニーに通じる天井近くまである大きな窓の重いカーテンが引かれていた。窓を開けてバルコニーから風を通すと、クライヴは執務机の上に置かれた手紙を確認する。早めに返事が必要そうなものとそうでないものに分け、朝食の後に返事を出すべきものを選定する。
 クライヴは叔父のバイロンからの封を開け、目を通す。ドルスタヌス島の復興状況と支援兵の要請について書かれていた。
 一昨年、ロザリア公国は鉄王国から"聖地"奪還を果たした。ドルスタヌス島は長年鉄王国に支配された結果、異教の神の信仰によりロザリア公国とは相容れない状況となってしまっているた。
 神を崇めるための労働力として自国では足らず、他国から戦禍の混乱に乗じ女、子どもを奴隷として攫ってきては使い捨てていた。生き残った人々を故郷に返す金の目処がつくまではロザリア公国民として受け入れ、島での労働力としてまともに雇用する予定だったが、最終的にあの戦争は大地を焼き尽くして終わらせた関係上、暮らしていくだけの農耕がすぐには再開できず、食料問題が深刻化していた。
 奴隷たちは満足に食事を与えてもらっていなかったようで、労働力として換算するのは数ヶ月先になりそうだった。そのため、ひとまずは近場の領地で難民として受け入れるしかないだろう。金はあるが物と人手が足りない。
 ……そんなことを考えながら読んでいると、
『たまにはわしにも休暇をくれ。またお前とジョシュアと狩りにでも行こうではないか』
 と末尾に記されていた。クライヴは叔父の快活な笑みを思い出し口角を持ち上げると、さて、とベッドへ近づく。
 柔らかな朝日に顔を照らされながら、まだ主はベッドの上で、白い肢体を惜しげもなく晒しながら平和そうに眠っている。
「ジョシュア、そろそろ起きる時間だぞ」
 クライヴはベッドに腰を下ろし、眠っている主——弟の長い金髪を優しく指で梳いた。
「ん……、」
 クライヴの声に、ジョシュアは朝陽から顔を逸らすように寝返りを打った。またすぐに寝息が聞こえてきてしまい、クライヴは困ったように眉を下げた。毎朝のことだったが、弟は少し朝が弱いらしい。
 クライヴはジョシュアのふわふわとした巻き毛の前髪を指でそっとわけて、「こら」と優しく声をかける。
「兄さんがおはようのキスをしてくれたら起きるよ」
 ちら、と片目だけ開けた状態でいたずらっぽく笑う弟にやれやれと肩をすくめつつも、クライヴは彼に覆い被さって望まれた通りにキスをしてやる。唇を軽く触れさせて離し、
「これでい、」
 いいだろう、と発しようとした言葉は、クライヴの口の中にジョシュアの唇と共に押し込まれた。
……………………、」
 ぺろ、と唇の表面をジョシュアに舐められて、後頭部を優しく撫でられる。形の良い唇を押し付けられながら、ジョシュア、と名を呼びかけた口内に舌が伸びて来て、逃げるクライヴのそれを追う。
 こんなのおはようの挨拶じゃないだろ、と思いながらも、先端を軽く食まれて吸われるのが気持ちが良くて止められない。
「っ、ふぅ……こら、ジョシュア」
 ちゅう、といつまでも唇を合わせたまま離れたがらないジョシュアからようやく顔を背けて叱る。ベッドの上に金髪を散らしているジョシュアは、くすくすと笑いながら自らの濡れた唇を舐めて、「おはよう、兄さん」と婉然とした。
 ジョシュアは叱られて落ち込む素振りすら見せずにあくびをしながら起き上がると、クライヴから薄い羽織を受け取り袖を通した。クライヴがそうしたのと同じように、執事を呼んで湯浴みに向かうジョシュアを見送ると、クライヴは再び手紙の確認に戻る。
 社交会の誘いに優先順位をつけると、手紙の束を持って執事を呼ぶ。断りの返事を執事に預けて、クライヴは「さてそろそろか」と小さく独り言を言う。
 姿見の隣にある鏡台のそばへ行き、赤いリボンを出しておく。
 程なくして部屋へ戻って来たジョシュアは鏡台のそばのクライヴに視線を向け、「頼むね、兄さん」と笑う。
「俺より下女にやらせたほうが綺麗だと思うんだが……
「別に式典があるわけでもないしいいでしょ?」
 椅子に腰を下ろしたジョシュアの髪に櫛を入れながら、毎日同じようなことを言うクライヴに、ジョシュアもまた似たような返事をする。
「いい香りだな」
 梳かした髪からふわりと花の香りがし、クライヴはジョシュアの艶やかな髪を手に取る。
「最近の流行りだそうだよ」
「お前によく似合ってる」
「そう? ならよかった」
 クライヴはジョシュアの髪に口付けを落とすと、何事もなかったかのように一つにまとめて、出しておいた赤いシルクのリボンで髪を結った。
 ジョシュアが髪を伸ばしはじめた頃から、髪を結うのは基本的にクライヴの役目で、式典やよほどのことがない限りは変わらない。はじめはうまく結べずにあまりに不格好で、「結って」とねだられたクライヴは元より下女達も困惑していたが、最近はだいぶ板についてきたような気がした。
 髪を結い終えるとクライヴもそばの椅子に腰掛けて、小さな箱から爪ヤスリを取り出す。無言で差し出されたジョシュアの手を取ると、弟の爪を一本ずつ整えてやる。と言っても、こちらは下女達が整えたものをほんの少しだけさらに短くする作業だ。
 クライヴは真剣な瞳でジョシュアの指の一本一本を眺めると、満足そうに頷き、オイルを手に取ると、ジョシュアの指先にしっかり塗りこんで行く。つやつやと光る指先を確認して「よし」と声を出し、手を離そうとすると、ジョシュアがぐっと身を寄せてきて、クライヴにキスをする。
「ありがとう兄さん」
 ジョシュアの青い瞳に熱が灯るのを見て、クライヴはふい、と照れくさそうに顔を逸らした。瞬間的に昨晩を思い出してしまったからだ。
 ジョシュアはクライヴの表情に口許を微かに釣り上げたが何も口にせず、さて、と椅子を立ち上がる。服を着替えるのをクライヴに手伝わせると、朝食の席へ二人で向かう。

 *

 公務を終えて先に部屋へ戻って来たクライヴが服を着替えていると、ジョシュアも疲れた様子で顔を出した。
「お疲れ様」
 ソファにぐったりと腰を下ろしたジョシュアに変わって執事に酒を運んで来るよう命じると、クライヴは残っていた手紙の処理を続ける。
「そういえばバイロン叔父さんがまた狩りに行かないかと手紙を送って来たが、いつにしようか」
「兄さんが決めていいよ」
 執事から杯を受け取り、ワインに口をつけながら答えるジョシュアの表情は疲れ切っていた。
 ジョシュアは幼い頃から病弱な子どもだった。その頃から考えれば今は随分と体力がついたのだが、しばらく戦争と遠征が続いていたせいで、少し疲れが溜まっているように見えた。勿論騎士としてジョシュアに同行しているクライヴも同じ旅程を辿っているが、体力の違いが如実に現れていた。
 そろそろまとまった休暇を取らせるか、とクライヴが考えていると、「兄さん」とジョシュアがソファの上からクライヴを呼ぶ。
「いつまでも仕事ばかりしていないで、そろそろおしまいにしたら?」
「手紙は別に仕事じゃ——
「何言ってるの、大事な仕事でしょ。だけどもうおしまい」
 はぁ、と心の底から疲弊したため息をつくジョシュアの態度に心配になり、クライヴはわかったわかった、と言いながら未処理の手紙を箱へしまう。急ぎのものは朝にも確認しているから、明日になっても問題はないはずだった。
「そろそろまとまった休みを取ろうか」
 ソファに腰を下ろしてジョシュアを抱き寄せると、ジョシュアは遠慮せずに体重をクライヴへ預けながら、うん、と幼いいらえを返した。
 クライヴの頬に唇を寄せながら「本当は逆なのにね」とジョシュアが自嘲するように口にする。
「突然どうした?」
 髪を撫でながら首を傾げるクライヴに、「ナイトを癒すのも僕の役目なのに、これじゃ逆じゃないか」とジョシュアが笑う。ジョシュアは柔らかな緑色の光を手のひらに乗せてから、それをそっと握り消す。
 弟の真面目さに胸が打たれ、クライヴは「戦場でもないのにそんなことを気にするな」とジョシュアの白い頬を撫でる。青い瞳がクライヴをじっと見据えて、長い睫毛に縁取られた美しい目許がそっと閉じられた。
 それが合図のように、クライヴはジョシュアにキスをする。瞼を開けるとジョシュアとちょうど目が合い、お互いに再び目を瞑った。
 ジョシュアの手で肩や腕をさすられて、腰を撫でられる。太ももから膝にゆっくりと触れられているうちに、ジョシュアの肌の熱さが布越しに伝わってくる。
 シャツを引き抜かれて、ジョシュアの手が直接素肌に触れる。腹筋を撫でてくる手に声を漏らすと、左耳に唇が寄せられる。
「兄さん、ほどいて」
 ジョシュアの腿に手を置き首筋に吸いつこうとしていたクライヴは、その声に顔をあげる。
 ほら、と結われた髪をクライヴに見せつけるように、ジョシュアが首を巡らせる。
 クライヴは赤いリボンに手を伸ばし、滑らかなそれを解く。
 肩を優しく押されて、クライヴは逆らわずに背をつけた。ジョシュアの濡れた青い瞳が欲に燃えるを見ながら、覆い被さって来たジョシュアの髪を梳きながら、同じデザインの装身具の嵌ったジョシュアの左耳にキスをした。
 ——我が君
 クライヴの囁くような睦言が、ジョシュアの耳を打つ。


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