古賀峰十一郎
2017-10-16 04:27:23
1623文字
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悪い夢を見た後は

手をつないで眠りましょう。
◆楽園追放組、IFるーとはっぴーえんど
クロ勝ちかもしれないし、違う世界線の話かもしれない。

 ぱちぱちと薪の爆ぜる暖炉は幸せの色をしている、と常々思う。大好きな彼女の、小さな揃えられた脚に頭をのせて、ぼんやりと眺める炎は尚更そう感じる。頭を優しくなでる手は暖かくて、まるでこんな自堕落な時間も、お姫様を迎えに行けなかった時間の長さも、全てが世界から許されたような気持ちになってしまう。そんなわけがないのに。
「泣いてるのかしら、タイガ?」
 頬を伝った雫が触れたのだろう、甘やかすように尋ねる少女に、まるで子供みたいにポツリポツリと、涙をこぼすみたいに言う。夢を見たんだ、と。誰かを殺してしまう夢を、君に会うためだなんて嘯いて、手を汚して、それで君が離れていく夢を見たんだと告げると、ぐいと体を転がされ、無理やりに顔を合わせられる。いっそう柔らかく微笑んだ彼女は細めた目でまっすぐと俺の目を見つめた。
「大丈夫よ、ロッテはここに居るわ、もうこれからはずっと一緒よ。何も怖い事なんて無いの、誰もあなたをいじめたりなんてしないわ。それがたとえ神様でも、ロッテがタイガをずっと守ってあげるんだから」
 どこかで聞いたようなその台詞にぽかんとしていると、あなたが昔言ったんじゃないとくすくす恥ずかしそうに笑われる。ああそうだ、そんなこともあったっけ。いや、言った覚えがある。不器用な手で予定よりも大きな花冠をプレゼントした日の事だっけ。”もうこれからは怯えなくてもいいよ、誰も君をいじめない。そんなやつがいたら俺がやっつけてやるんだから”だったっけ。我ながら熱い奴だと感心した。そんな情熱を今の俺はどこかに置いてきたような気もしないことは無くて、まだ少し強張った右手を握って閉じる。
「手をつないで寝ましょう?今日はずいぶん冷え込むもの、暖かくしなくちゃ風邪ひいちゃうわ。ね?」
 そっと指を絡ませる彼女に、そこに確かな熱があるのに不安を感じて力が入る。
「ね、ロッテたち、もうどこに行くにも一緒よ。」
 そんな不安なんてお見通しだと言わんばかりに囁く少女に視界が滲む。
「それが、死んだ先の世界でも?」
「ええもちろん。あなたとなら、どこでだって幸せだもの。みんなが言う天国に行けなくてもね」
「ロッテ」
 ああ、俺はどこまで弱くなれば気が済むんだろう。
「なぁに」
「一緒に死んでくれないか」
今からかしら?」
 きょとんと返すそのあまりにも日常の延長戦な声にふ、と我に返り慌てて跳ね起きる。
「いや、い、今のは冗談だよ、気にしな」
「いいわよ、でもちょっとだけ時間を頂戴」
 弁明をあっさりと切り捨てて、まるでデートに誘われたかのような返事に、形容しがたい恐怖を覚えなかったと言えば嘘になるんだろうか。ああなんで、俺はこんなに弱いのに、彼女はこんなに強いのに、どうして。
「なんで」
「だって王子様と旅に出るのよ?おめかししなくちゃダメでしょう?」
「違う、」
「大丈夫よ、言ったじゃない。タイガが隣にいてくれることが幸せなのよ。それにね、今度はロッテが救う番だって、ずっと決めてたんだから。」
 微笑む彼女の、握った手が少しだけ震えている。そうか、ごめん、君も怖かったんだ。
「ロッティ」
「だからね、もうロッテを置いていかないで」
「ああ」
 そうだな、強がりでも、少しは強くならなくちゃ。だって俺、君の王子様なんだもんな。
「もう絶対に置いてなんか行くもんかよ、死ぬのも、死んだ後も……いつまでもずっと一緒だ。」
 脳裏に、小さな時に二人きりで挙げたごっこ遊びの結婚式が浮かぶ。大人から見ればそれはただの真似っ子遊びでも、あの日の俺たちは真剣で、二人で作った誓いの言葉も、小さな花束と揃いの花冠も、明日になれば萎れてしまう指輪も、触れるだけの口づけだってどれもこれも二人にとっては神聖な本物で真実だったんだ。
「どうか、明日も君が隣にいてくれますように」
 終わりなんて来ないことを祈りながら、今はただ、幸福な日々を謳おう。