古賀峰十一郎
2017-10-15 08:13:43
2433文字
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百合園大賀オシオキ

まとめて読みたい人向け、内容はほぼ同じです

GAME OVER
ユリゾノくんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします

[それじゃあみんな、ゆめゆめ優先順位を間違えないように]


the tale of White Lily
白い百合のプリンスは

目を開けると裁判場よりも開けた場所、まるでおとぎ話の世界のような、いや俺はこの場所に見覚えがある。彼女と出会ったあの懐かしい場所だ、彼女と誓いを交わした森だ。最期に選ぶのがこんな場所だなんて、目が合うと微笑んだ庭師さんはつくづく[シュミがいい]。
「さて、百合園さまにはこちらを」
目線を追った先にあったのは1つの箱、中には百合の刻まれた大ぶりのナイフと小さめのリンゴ。
そして、「RESCUE」とだけ書かれた手紙。
「その林檎はおやつのようなものです。それでは今度 は 失敗しませんように、ね」
「ああどうも。でも、今度 も でしょう?助けることに関しては」
「そうですか。それでは、いってらっしゃいませ」

 庭師さんの示した先、少し離れた視線の先には蹲る少女と背の高い男。もらったリンゴを一口齧りながら目を凝らす。なんだ、これまた馴染みの顔じゃないか。忘れもしない、何度言葉で諭しても宥めても何の改善も無かったあの男、俺の自転車に細工して、こいつがいさえしなければ、俺はケガなんかしなくて済んだのに。リハビリなんかに時間を割かなくても済んだのに、功績を残して、彼女を迎えに行けたのに。
 そんな男の右手には銀のハサミ、左手は今にも少女の髪をつかもうとしているんだって視覚情報が思考よりも先に運動神経に接続される。瞬間、手に伝わるのは ぬるり とした暖かさと少しだけ懐かしい柔らかいものを壊す感覚。でも足りない、こんなんじゃ足りない、ヒトはこんなんじゃ死なない、俺の憎しみはこんなんじゃ死なない。だから今度は何度も、何度も、何度も何度も何度も刺して、顔に飛び散る温かな飛沫が涙のように冷たく頬を伝うまで刺して刺して刺して、動かなくなるまで、刺して。

 冷たくなった肉塊を少女の視界から離すように転がしながらふと、メモの内容を思いだす。「RESCUE」、最期に助けるのに失敗して惨めになったところで殺すつもりだったんだろうか、残念ながら伊達に体鍛えてるわけじゃねえんだよな。それとも、救出対象の機嫌を損ねてからが本番か、と、振り返る。

「Lottei...」

 ああ、俺は知っている、微かに朱の差した頬の柔らかさを、あの日泣き腫らしていた丸い緑の濡れた色を、つややかに熟れきったリンゴのような赤い髪のさらさらと流れるのを。抱きとめるだけで折れてしまいそうな小さな体は手のひらに収ます小さな金色を分け合った時より幾分かすらりとした印象はあるものの、変わらない少女性を湛えて不安定さが愛おしい。
 思わず手を伸ばして、固まる。君の白く清らな指に比べて今の俺の手は君の髪よりずっと赤く汚くて。我ながら笑えない自分を思い出して、膝が笑って座り込む。軽蔑されるよりも怯えられる方が、彼女のトラウマたちと並ぶ方がずっと怖くて、請うように見上げた唇から目をそらす。

「ねえ、タイガ、でしょ?やっと、迎えに来てくれたのね」

 最悪の想像を裏切って喜色の滲む声。

「嬉しいわ、だってずっと待っていたんだもの、王子様〈あなた〉のこと」

 ああそうか、これは幻だ。こんなにも都合のいいものが現実で有るものか。覚悟なんて済ませてきたと思ったのに、庭師さんは本当に[シュミが悪いな]。

「なあ、ロッテ、俺こんなに汚れちゃったよ。ごめん、もう君を抱きしめる資格も無い、よな」
「それでもさ、ずっと君のこと好きだった。今でも愛してる、君の王子様になりたかった」
「君を、お姫様にしてあげたかった」

「ごめん、許してなんてさ、言える立場じゃないよな。わかってるんだ」

 くしゃりと微笑みかけると、惑うように小さな口が開く、ごめんな、最期までかっこつけられなくて。

「」
「ロッテもよ。ロッテも。ずぅっと、愛してた。」
「タイガにね、救われたの、だからねロッテは許すわ、ね、だからもう泣かないで」

 ふわと甘い香りに包まれる。彼女の身を包む清純を纏うようなセーラー服が赤黒く汚れるのも気にせずに俺を抱きしめる彼女の体の柔らかさも、ごわついた髪を宥めるように梳く手の優しさもありありと感じられて、目が熱くなって、おずおずとその背に腕を回してグッと引き寄せる。ああ、暖かい。

 暖かい?

 その目の熱っぽさは感じても、指の温度は感じなかったのに。それなのに抱きしめたら体温が伝わるだなんて。懐疑的な目を熱を帯びた腹に向けて、向けた左目の世界で、やっと熱の原因に気付く。自ら立てた金属の冷たさなんだと、気付く。ああそうだ、俺ずっとナイフ、握ったままだったんだ。俺を庇うように共にナイフに刺さる齧りかけのリンゴはあまりに無力に見えて。
 瞬きを数回。それでも君は笑う。ぼんやりとした右目の世界に必死にピントを合わせると、俺の可愛いシャーロットが、まるで魔女のようにいやらしく笑って、俺の腹にナイフを突き立てて、

「ねえ、タイガ」

底なし沼のような優しさで囁く

「これでロッテもお揃いね、これからもずっと、ふたりぼっちよ」

「い、やだなぁ」

 君には綺麗なまま、前を向いてほしかったのに。

 シュウマツに祝福の鐘は鳴らない。響くのはただ、世界の終わりを告げるトランペットの音色だけだ。威厳と無垢の花に赤を散らして少年はばらばらと崩れ落ちる。ああなんてつまらないおとぎ話だろう。庭師は腹から抜け落ちれども林檎を離さないナイフをそっと拾うと、億劫そうに本を閉じた。

the tale of White Lily
白い百合のプリンスは
 赤い林檎で眠る
is slept by his Malus.

「結局、貴方を殺したのは何だったんでしょうね」