古賀峰十一郎
2017-06-19 00:00:07
2400文字
Public
 

舞子澪治IFオシオキ

5章偽シロ生き残りだったのでオシオキはIFだけど、まあ852回もクロ死してるしきっとこんな時もあったのでしょう。そんなかんじですしおすし

     GAME OVER
マイコくんがクロにきまりました。
   おしおきをかいしします
「まい子は あるじゃーのんを 君の 花たばへ 」
    ‐マイゴノアルジャーノンハキミヘハナタバヲ‐

 きゅっと瞑っていた目を開くと、そこは真っ暗な通路だった。
 前を向いても後ろを向いても何もないその空間に独り立たされた少年は、かつんかつんと鳴り響く、いやというほど聞いてきた女性の足音に目を輝かせる。お母さんが帰ってきてくれた、お母さんが僕を迎えに来てくれた。音の鳴る方へ、小さな光の差す方向へ、足取りは軽く嬉々として華やいだ表情の少年は走る。かつんかつんかつん、自分の歩いたその方向で何かが落ちる音がする。ぱりんぱりんぱりん、それまで居たその場所で何かが壊れる音がする。しかし少年はそんな事は気にも留めない、止める必要が無いのだから。だっていつでも、彼の世界に大切なものは1つだけ、たった一人だけなのだから。

 走って、走って、いつからか冷たくなった空気に息が切れても走って、いつ踏んだのか分からない破片に脚が切れても走って、いつのまにか聞こえなくなった足音に、分からなくなった大切な人の顔に気がついても……ふと、少年はそこで足を止める。僕は一体誰の為に走っていたんだっけ、温い液体の垂れるぬかるんで真っ赤な足元とは対照的に頭は頬はどんどん温度を失い青ざめていく。こういう時、どうすればいいんだっけ、迷子になった時には迎えが来るまでそこを動かないようにと、お父さんは言っていた。目印があるから、すぐに見つけて迎えに行くからと言っていた。ああでもどうだ、お父さんはあれから一度も迎えに来てはくれなかったじゃないか、僕はもらった髪飾りをいつも忘れずつけているというのに、どうすればいいどうすればいいどうすればいい、迎えが来なかった時にどうすればいいかなんてお父さんもお母さんもパパもママも誰も教えてくれなかった。笑う膝を叱咤して、とりあえずは、元いた場所に戻らなくちゃ、と振り返った少年を突然スポットライトが照らす。

 次々と増える照明にやっと目が慣れてきた彼の目に飛び込んできたのはざわめく客席、つまり自分はステージの上にいるのだと気づく。流れ始めたのは悲しげな音楽、みずぼらしくなった自身の姿によく似合う、同情を誘うような曲。ようやっと少年は自分がどうしてここに立っているのかを思い出した、ああそうか白雪姫の母親のように、ライトに灼かれて死ぬまで踊れと、それが与えられた罰なのだと。それでも誰かが僕を、今この場所に立つ僕の事だけを見ていてくれている、確かに誰かの観測によって舞子澪治はここにいる、ここにいるということを許されている期待されている見られているのだ。高鳴る胸を押さえつけ、期待に染まる頬を落ち着け、昂揚感に吊り上がる口角を宥めたら、タイミングよく転がってきたいつもの道具に手繰った紐を掛けて上へ飛ばす。だったら演じきってやろうじゃないか。最高に哀れで最低なまでに卑しくも涙を誘うようなそんな可哀想な僕を、魅せてやろうじゃないか、演ってやろうじゃないか、幸福で満たされたこの僕が。
 道具が帰ってくるまでの数秒間、単純なリズムに耳を傾け即興でルーティンを組み上げる。いやらしい笑顔を貼りつけて前を向いた彼に、キャッチに備えた動作に降ってきたのはピンクのディアボロ……ではなく、大きな大きな鉄の塊、今の今まで彼を照らしていた熱い熱いライトだ。小さく悲鳴を上げながら、とっさのバックステップで直撃を避ける。しかし未だ乾ききらずに滴っていた物に足を滑らせて彼が転がり込んだのは底の無い奈落。滲む涙は死への恐怖か、失望への恐怖か、それとも解放への期待か歓喜なのか、浮かぶ失敗の文字に頭がぐちゃぐちゃになって本人には判別がつかない。でも、それでも暗い場所は似合わないから、シリアスなのは似合わないと言ってもらえたから、明るいステージの上に帰らなくちゃ。ぴりぴり痛む腕にぐっと力を込めた瞬間、上から誰かに覗きこまれる。逆光と涙で判別はつかないけれど、シルエットからすると手を差し伸べようとする誰かさんはきっと少年よりも年の上な男性なのだろう。彼がそう認識すると同時に、高揚にいくばくか赤らんでいた表情は恐怖で血の気が引き、腕は震え始める。口からは意味をなさない声ばかりが漏れ出て、笑顔がひきつっていくのを感じた。視界がさらにぐるぐるとまわる。

あああいややめてこないでぼくはわるくないんですいつだってそれはままがはんだんしてきたことでぼくはぼくがそうしたくてうらぎってきたわけじゃないんですおこらないでおこらないでどならないでたたかないでけらないでいたいことしないでさっきはしっぱいしちゃったけどもうつぎはしっぱいしませんからおとなしくしますからおねがいですからやめていやだぼくをなぐらないでどうして、ぱぱ、ぼくがいったいなにをしたっていうの、こっちこないでよやめてよ……ああそっかそうだったふふ、なんだよひがいしゃみたいなかおしちゃってさ、ふふふ、ざまあみろ、よ、あは!

 きっとそれは蜘蛛の糸のごとく素直に受け取れば彼を助けるはずだったのかもしれない。でも、触れたその時弾くようにその手を拒否したのは紛れもなく確かに彼自身の選択だ。だからもう関係ない。それに彼は満足げに笑顔のまま落ちていった、きっとその胸に満たされたのは達成感だったのだろう。空っぽで、無価値で、どうしようもなく汚れてしまってはいたけれど、期待していた物とは違うけれど、まあ可愛くなかったわけではない。青年は無責任にもステージを放り出した演者に変わって礼をすると美しい所作で舞台を降りる。がらんどうな客席からは怒声も拍手も聞こえない。閉じる幕、ただ残されたのは、小さな丸い花束と果実を失った蒼い蝶。