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古賀峰十一郎
2016-08-26 06:40:45
3174文字
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珍しい日‐アキ輝?
「
…
子規は羨ましいな」
いつもうるさい輝がこの時ばかりはぼんやりと呟いたものだから、思わず気にしてその場に止まってしまった。そもそもの原因はおそらくあれだ。あんまりにもしおらしい声だから、心配しちゃったのが間違いだったんだ。Arsの折原輝と言えば、メンバーの誰よりもナルシストで、自信家で、それからバカで。その上男なのに「宝塚に入る」事が夢とかいう斜め上な奴。僕とは大違いだ。唯一似てる部分があるとすれば、輝の氷彫刻は大きなガラス工芸みたいで、キラキラしてて綺麗
…
って位で。まあとにかく、美しい美しいって騒がしくて、パーソナルスペースの取り方がヘタクソでなんか近いし、それになんだか仕草や雰囲気がたまに女の子っぽくて苦手。子規くんはよくあんなのに声かけられるなぁ。子規くんは女の子が大好きで、あっちはあっちで僕と大違いなんだけど、面倒見が良くて頼りにしてる。それから、子規くんはよく僕の作品を褒めてくれるから、嬉しい。
嬉しい気持ちを思い出したついでに、なんだかこういう輝って珍しいなってのと、少しだけ優しい気持ちを向けてあげたっていいかなと思ってしまった僕は、輝の小さな独り言にこたえるような言葉を口からこぼしてしまった。
「珍しいね、輝が誰かを羨むなんてさ」
どうやら聞こえてしまったらしい、輝は僕を見て、その世の中の汚いことなんてなんにも知らなそうなキラキラの目を何度かぱちくりとさせた。いつもよりちょっとだけぼんやりとした金ぴかの瞳に嬉しさが滲んだような気がした。そういえば輝のその目のキラキラも、なんだか苦手だ。綺麗すぎるのだもの、でもガラスみたいで、ちょっと見つめていたくなる気もする。
「
…
なんだ、アキヲの方から話しかけてくれるだなんて、珍しいな」
「だ、だって珍しく輝が静かなんだもん
…
」
「ふふん!そうか
…
憂う私の姿から溢れる魅力に思わず話しかけてしまった、と。嗚呼なんて罪な男だろう私は!」
「そういうのじゃないから
…
」
さっきまで少しばかり曇っていた気がする輝の両目のガラス玉は血管を透かす柔らかそうな白い瞼で磨かれたからか、もうすっかりいつもの輝きと騒がしさを取り戻していた。ああうるさい。輝って黙ってにこにこしていれば、本人の言う通り神様か誰かが作ったお人形さんみたいで綺麗なんだけどな、勿体ない。輝は確かに天才だ、綺麗だ、でもそれを打ち消して有り余るほどにバカの子だ。どんな環境で育ったらこんなに残念な子に育つんだろう。純粋培養がいいとは限らない良い例だよね。
「そういうのじゃないよ、ただ、輝が子規くんの名前を呟いたでしょ
…
それから羨ましいって。いつもと雰囲気違うと、それはそれで調子狂うからさ」
「なんと!アキヲは私を心配して声をかけてくれたのか?!ふふっ!嬉しいぞ~!アキヲも成長しているのだな~!」
「いや、そういうのは良いから
…
何なの?悩み事?ま、まあ僕じゃどうせ相談相手にならないだろうけどもさ、ふひっ」
「そんなことはないさ、気持ちだけでも嬉しいよ。
…
あー、うぅん
…
でも、確かにこればかりは楽に相談してもどうしようもないものだしな
…
」
うむむ、と悩むポーズを取る輝を見て、やっぱり選択肢を間違えたみたいだと、僕は確信した。あの輝が幼馴染の楽に相談できないような内容で、一体どうして僕が力になれるだろうか。もちろん無理に決まってる。逃げなくっちゃ。
「し、子規くんを羨ましがるってことはさ、や、やっぱりプロデューサーさん関係のこと
…
?それならやっぱり僕なんかじゃ力になれないよね
…
?」
「あっ!違うんだ、待ってくれアキヲ!」
「ひぃっ!」
失敗、先手を打って逃げようとした僕の手首をガッと掴まれた。本当に勘弁してよ、恋愛相談なんて、そもそも僕は女性恐怖症なんだぞ
…
女の子関連の相談なら子規くんにすればいいのに。
「は、離してよ
…
」
「待ってほしいんだ、その、プロデューサーは関係なくて
…
」
あれ、なんだか向き合った顔がほんのりと赤い。ちょっぴり恥ずかしげにはにかんで、思わずあっちゃった目線を輝が逸らす。あ、これも珍しい。今日は珍しい輝がいっぱいだ。それも、虎や子規くんや楽にそれを見せるんじゃないから珍しさもひとしお。ええと、もしかしたらそんな珍しい輝の日だから、逃げられないっていう僕も、今日は珍しい僕の日だから仕方ないのかもしれない。ってなんだそれ我ながらまとまらなすぎな考え、意味が分からない。
「むしろ、あの、あ、アキヲに関係することなんだ
…
」
「へ?」
「子規はよく、アキヲからトンボ玉を貰っているだろう?それがだな、ええと、羨ましくって
…
。ら、楽に相談しても『そんなのアキヲ本人にくれって言えばいいじゃろう』みたいにあしらわれてしまうことが分かってしまっているからな
…
でも、直接くれと言うもの、美しくないだろう?」
ああそういえば、こないだ僕がトンボ玉を渡しすぎるから子規くんがいっぱいいっぱいだって苦笑いして言ってたっけ。僕、そんなに渡してたのか
…
迷惑じゃないかな、気をつけないとだ。ってそうじゃない、逃げなきゃ。でもどうしよう振りほどけない、全力で腕を振れば絶対逃げられるはずなのに、そんな優しい表情をされると、ハの字になった形のいい眉を見せられると、逃げられなくなってしまうんだ。これが、僕が逃げた後には悲しそうに歪むのかもしれないと思うと、気弱すぎる僕にはきっと耐え切れなくなってパンクしちゃうから、話を聞くだけだから、それだけだから、僕は輝のキラキラから逃げるのを諦めた。僕が抵抗を止めると、輝は勢いに任せて捕った僕の手首を一旦離して、正面から両手で柔らかく捕えなおした。ああもう、なんだよ、話聞いてあげるだけだぞ、そんなに嬉しそうにするなよ。もういやだ、これはこれで調子狂っちゃうよ、ホント。
「アキヲの作品はとても美しいだろう?あんなにも美しいのにいつまでも残すことができて、眺めていられるもの。私はアキヲの作品ほど美しい作品を見たことはないし、きっとこれからも見ることはないだろうよ」
もちろん一番美しいのは私だけどもね。と僕の手首を柔らかに滑らかな両手で宝物のように包んだ輝は、いつものように僕の目をまっすぐと見て、いつもより数段ふんわりと、それこそ花がほころぶように微笑んだ。そんな風にされると体温が上がってしまって、ますます動けなくなる。
「ほら、見た目は氷と似ているが、氷とは違う。炎の中に作り手の息を吹き込んで作るガラス工芸は、暖かで素敵だと、思うんだ。中でもアキヲが子規の為に作る作品にも感謝とか、大切に思う気持ちがこもっているだろう?アキヲのこの繊細な手であんなにたくさんの思いを形に残してもらえている子規が、ね、少しだけ羨ましくなってしまったんだ」
怒られた子犬のように、申し訳なさそうに輝は笑った。まるで夢に手の届かなかい事に気付いた子供じゃないか、いつもの輝じゃないよこんなの、ねぇ。
「そ、そっか
…
」
胸がきゅうと締まるような思いがする。このまま放っておくのは、何だか嫌だ。輝はなんてずるい奴なんだ。
「その、輝
…
」
あれ、目の前に映っている男は誰だい。
「じゃあ、今度またトンボ玉を使った髪飾りでも作ってあげるよ」
こんな優しい声音で輝をあやす役目はお前の物じゃないだろう。
「本当かい
…
?嬉しいよアキヲ!」
満開の花が開いたのを僕は幻視した、その真ん中あたりの黄色いキラキラのガラスに嬉しそうに、父親みたいに優しく笑う男が映って見える。おい何をしているんだ、戻れなくなったって知らないぞ、なあ言うことを聞いてくれよ、後から後悔しちゃうかもしれないんだぞ!ああもう!その花はお前が摘んでいい物じゃないだろう鳶倉アキヲ!!
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