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猫柳 楸
2023-09-21 16:17:01
2673文字
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「さよなら」って言えなかった
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完全なる捏造のユディシュティラお兄ちゃん(サーヴァント)と百王子(ショタ期)がいる
ユディヨダ?
「
……
ねぇスヨーダナ、私にも、サイコロ教えてくれないかい?」
ドゥリーヨダナとはじめて2人きりで話した時の事をユディシュティラはなぜだかはっきりと覚えていた。
宮殿へ来たばかりの頃、自分よりほんの少し年下の従兄弟が兄弟や叔父と楽しそうにサイコロを振っているのを見た。その花が咲くような笑顔が目に焼き付いて、どうしても自分もドゥリーヨダナと遊んでみたかった。
「そういうのは、叔父上のほうがじょうずだぞ」と渋られたが、何度も頼んでやっと教えてもらえることになった。
「森育ちは物を知らんのだな
……
」
と呆れたような顔をしながらもドゥリーヨダナはユディシュティラに、意外な程に丁寧に遊び方を教えてくれた。
ユディシュティラの目の前でころころと石のサイコロを振ってみせるその横顔は普段の警戒した態度が少し薄れていて、なんだかとても年相応に見えた。
ユディシュティラも教わった通りの手順でサイコロを振った。だが、何度サイコロを振ってもちっとも駒が進まない。なかなか思うようにならないことに首を傾げていると
「ふふ、お前のような者でも思う通りにならん事があるのだなぁ」
と、ドゥリーヨダナは楽しげに笑った。
思えばこれが、ドゥリーヨダナからユディシュティラへと向けられた、最初で最後の笑顔だった。
「このまま普通に続けてもつまらんだろう、何か賭けるか?」
とサイコロを掌の上で転がしながらドゥリーヨダナが言った。
「賭けるようなものなど、私は何も持っていないよ」
とユディシュティラが答えると、ドゥリーヨダナはニヤっと口の端を吊り上げる。
「ならば、俺が勝ったらお前は今日一日俺の舎弟になるというのはどうだ」
「む、そんな賭けには乗れな
……
。あぁ、いや。ひとつ思いついた」
「うむ、なんだ?」
「ねぇスヨーダナ。私が勝ったら君との時間をちょうだい?」
「俺との?」
「私は、君と一緒に過ごす時間が一日欲しい。駄目かい?」
「
……
ふぅん、まぁ良いだろう」
「本当?ありがとうスヨーダナ」
しかし、その勝負に決着が着くことは無かった。
「兄さん!ドゥフシャーサナが!」
息を切らせて部屋に飛び込んできたのは、ドゥリーヨダナの弟のひとり。駆け込んできた彼はユディシュティラの姿を見てビクリと身を竦ませた。
ドゥリーヨダナはすぐさま弟に駆け寄りその背に手を添えて落ち着かせようとしていた。
「どうしたヴィカルナ?何があったかこの兄に教えてくれ。ゆっくりでいいぞ」
少年、ヴィカルナはドゥリーヨダナとユディシュティラの間に視線を彷徨わせながら口を開く。
「兄さん達が溺れたのです、それでドゥフシャーサナだけ、まだ目が覚めなくて」
「!」
それを聞いて、ドゥリーヨダナは弾かれたように立ち上がった。
「よく伝えにきたな。偉いぞヴィカルナ、大人と医者は呼んだか?」
「ま、まだです」
「そうか。ドゥフシャーサナのところには俺が行こう、ヴィカルナは大人を呼んでこい。出来るか?」
「は、はい!」
そう言って走りだそうとした少年をユディシュティラが引き留める。
「私が大人に声を掛けておくよ、君は兄を案内してあげるといい」
「え
……
。は、はい、兄さんこっちです!」
ドゥリーヨダナは走って部屋を出ていく弟を追い掛けようとして、ふとユディシュティラの方を振り返った。
「色々とすまないな、この続きはまた」
申し訳なさそうな顔で此方を見遣り、すぐさま駆けていくドゥリーヨダナに、ユディシュティラは
「早く行ってあげて」
と手を振った。
私はこの時2人について行かなかったことを、今でも後悔し続けている。
*
私たちの賭けの続きが私の望んだ形で訪れることは無かった。
ドゥリーヨダナの弟が溺れた原因はビーマとの喧嘩で川に突き落とされた事だった。ドゥリーヨダナはビーマを激しく糾弾し、我々に憎しみを向けるようになった。
ビーマは私たち兄弟の中でも力が強かったし、なによりその力のコントロールが苦手だった。しかし、どんな理由があろうと弟を殺されかけたドゥリーヨダナはビーマを許しはしなかった。遂にはビーマに毒を盛って川に投げ込んだのだ。ビーマが彼の弟達にしたように。
この出来事以来、我々パーンダヴァとカウラヴァとの対立は深まっていった。
「よく来たなぁ、ユディシュティラ」
にんまりとした人を嘲るような笑み。ああ、私の知るスヨーダナはそんな顔はしなかった。
「
……
ねぇあの時の賭けは覚えているかい、スヨーダナ」
ドゥリーヨダナは眉をしかめ、吐き出すようにユディシュティラを嘲り笑った。
「はぁ?そんなものは覚えておらんな。それに」
私を見やったのは冷たい、つめたい色をした目だった。
「わし様の名は、ドゥリーヨダナだ。覚えておけよ、ユディシュティラ」
"ソレ"はもう、私の知らない男だった。
「さあ、勝負をはじめようか」
*
「カルデアは良いところだね、マスター」
ユディシュティラは穏やかに笑う。
「ビーマもアルジュナもここに居ると楽しそうだ、私は嬉しいよ」
ふと、思い出したように口を開く。
「そういえば、ここにはドゥリーヨダナがいるとカルナ兄さんから聞いているんだけど。私ここに来てから一度も彼に会えていないんだよね」
やっぱり嫌われているのかな、とユディシュティラは首をかしげる。
「え、ドゥリーヨダナが?ユディシュティラが来たのを教えた時に確かにトラブルは起こさないでねって釘は刺したけど
……
」
うーん、と俺は考え込む。確かに彼はユディシュティラの事を嫌っていた。というよりも苦手そうにしていたし、俺としてもドゥリーヨダナをユディシュティラに会わせてしまって万が一にも決闘でも始まったら大変だと思っていたけれど、
「もしかしてユディシュティラってドゥリーヨダナのこと好きなの?」
「んー、どうだろう。嫌いでは
……
無いと思う、かな?」
ユディシュティラは困ったように笑う。
「なんだかね、私の知っている彼はもっと無邪気で明るくて、兄弟仲がとても良くて、でも少し寂しがり屋で」
うん、と俺は頷く。彼が言っているのは間違いなくドゥリーヨダナのことなんだろう。
「本当に小さな頃は一緒に遊んだりもしたんだよ」
そっかぁ、と俺は相槌を打つ。ユディシュティラは嬉しそうに昔の思い出を語り続ける。
「彼は、私の事を嫌いかもしれないけれど。私はまた彼と遊んでみたいんだ」
ユディシュティラは優しく微笑んで、きっと叶わないだろうけどね。と続けた。
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