猫柳 楸
2022-03-03 01:45:55
1214文字
Public ポケモン
 

墓標

列石峠の名のない墓標はツバキさんが管理しているのでは?という妄言
直接的ではありませんが、ポケモンが人を襲ったり食べたりしている描写があります。

天冠山の探索をしていると、誰かの落し物を見つけた。
(ああ、はやく届けてあげなければ)
と荷物を拾い上げて何気なく周りを見回した時

「えっ……

目に飛び込んできたのは、血溜まり。そして細かな肉片と血液で汚れた服の破片。
ウォーグルとオオニューラに人を呼んで貰うと、すぐさまツバキさんとノボリさんがやってきた。

「なんだ、あなたにもこわいものがあるのだねぇ」

呆然としていたぼくにそう声を掛けてたツバキさんは、珍しくとても優しい顔で微笑んでいて。その顔を見たらもう駄目だった。ぼくはそのまま倒れてしまったのだ。
遠のく意識の縁で、慌てるノボリさんとツバキさんの声が聞こえて、
(ああ、珍しいものを見損ねた)
なんて思っていた。

2日後、ぼくは迎月の戦場を目指して天冠山を登っていた。ショウ先輩やラベン博士には苦い顔をされたが、今行かなかったらきっと後悔するだろうから、と何度もお願いして探索の許可を出してもらった。

列石峠までやってくるとツバキさんがスカタンクと共に穴を掘っていた。
足音で振り返ったツバキさんは目を丸くして、ここにおいでよぅとぼくを呼んだ。

「またやってきたのだね」
「はい。あの……それって……?」
「ん?これかい?これはお墓だよ。ほら見てごらんよ」

ツバキさんの指差す先にあるのは、いくつかの白い小さな石のようなもの。よく見るとそれは人の骨だと分かった。それに気が付いた瞬間ひゅうっと喉が鳴る。

「あなたが見つけた服の持ち主のようだよ。野生のポケモンに食べられていたのだろうね、これしか残っていなかったよ」
……
「この山には神殿や遺跡があるだろう?だから修験者や信心深い者が時々訪れるのだけど、地形は険しくポケモン達も力の強い暴れ者が少なくないからね、襲われたり滑落したりする人が昔から多いのさ。そうして亡くなった人の形見や身体の1部をここに弔うのもツバキの仕事のひとつなんだよ。ツバキには、弔うことしかできないのだけれど」

そう言って目を細めるツバキさんの横顔を見て、ぼくは何も言えなかった。
野生のロトムが近付いてきてケラケラと笑うような鳴き声で一緒に遊ぼうと誘ってくる。

……そういえば、ツバキさん知っていますか。ロトムは人間の魂がポケモンに変わったものなんだそうですよ」
「へぇ。……せっかく自由になれたのだから、好きな場所へ行きたかった場所へと行けば良いのによぅ」
こんなところにしがみついて、馬鹿だねお前。
ロトムの体の周りでパチパチと弾ける電流を目を細めて眺めているツバキさんを見て

「ぼくがこの場所で死ぬことがあったら、ぼくのポケモン達に食べてもらおうと思っていたけれど。ここに、ツバキさんに、埋めてもらうのも悪くないですね」

つい口をついて出た。

ツバキさんはぼくを見て、いつもみたいに自信満々な顔で笑って、それから

「やだよぅ」

と言った。