祭子
2023-02-22 22:31:05
3449文字
Public FF7/SSS
 

■FF7/SSS■

∠7/CLOUD×AERITH/DC8
スイートホームにて
猫の日

※pixiv掲載テキスト、その後の小話です。
『セルの寧日』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13498885)
『ジーンの暁日』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13498894)


 クラウドが遠方配達を一日繰り上げて戻ったのは、週末の昼下がりだった。これで休日は家族とすごせる。驚かせようと、二人――婚約者と、彼の養子――には何も告げていない。片腕に大量の土産をかかえて、彼はリビングのドアを開けた。
「ただいま」
 クラウドを出迎えたのは、一匹の猫だった。
 眸は花やかな緑色。純白の毛並の長毛種だ。首輪は赤色で、桃色のリボンチャームがついている。まるで出会ったころの誰かのようだと、クラウドは思った。
 猫は音もなく歩いて来て、彼の足元に座った。人慣れしている。クラウドはどこかの預かり猫かと首を傾げる。まさか家主の留守中に、勝手に飼いはしないだろう。そう思いたい。いや、どうだろう。断言できないあたり、ストライフ家のパワーバランスは結婚前からすでに決まっていた。
 猫と目があった。大きな双眸で一心に見つめる様子は、本当によく似ていて、彼は呼ばずにはいられなかった。
「エアリス」
「にゃあ」
 クラウドは思わず笑った。荷物を下ろし、猫を抱き上げる。
「何だお前、エアリスに似ていると思ったら、エアリスだったのか」
「にゃう。にゃにゃ、にゃお。にゃん」
 冗談めかして言う彼に、猫は返事をした。お喋りな猫だ。面白そうに見ていたクラウドだったが、猫が鳴きやまないので、みるみる笑みが引いていく。
「まさか、本当にエアリスなのか」
「にゃい」
 クラウドはいっきに青ざめる。猫をかかえたまま、ソファーに沈んだ。どうしよう。
 変身に特化したマテリアというものがある。それの仕業だろうか。実際、クラウドも蛙になったことがある。あの何とも言いようのない感覚を思いだして、彼はげんなりした。
 神羅カンパニーが生成したマテリアには、しかし猫に姿を変えるものはなかったはずだ。だとすれば、ライフストリームの天然結晶かもしれない。
 エアリスが猫なら、デンゼルは犬か鳥か。家内を一通り覗いてみたが、息子は見当たらない。留守中に、彼の家族にいったい何が起こったのだろう。マテリアといえばウータイ元首を思いだすが、彼女なら稀有なマテリアをクラウドやほかの仲間のもとへと持ちこむはずがない。問答無用で取り上げられるからだ。
 再びリビングへと戻った彼は、荷物のなかから装備品を取りだす。治療マテリアに一縷の望みをかけた。が、エスナの光をあびても、猫は猫のままだった。
 クラウドはがらんとしたリビングを見まわす。住み慣れたわが家は、もうすぐ新居になるはずだった。なのに。
「俺は猫と結婚するのか」
「にゃう、にゃ」
 クラウドは立ちつくした。腕のなかの小さなエアリスが、そんな彼を見ている。いつものように、かわいらしく小首を傾げて。
 美しい翠眼、柔らかな長い毛、そして熱い身体。星が彼のもとへと還してくれた、いとおしい女だ。どんなかたちをしていても、それがエアリスなら何でもいい。
 クラウドは、しかしはたと思いとどまる。何でもいいことはないかもしれない。心のつながりはいい。だが、身体のつながりはどうする。夜の黒いベッドに沈む白い肢体を思いだして、クラウドは心の鼻血をだした。
「にゃあ」
 エアリスが桃色の肉球で彼を叩く。クラウドは微笑する。と、エアリスの毛むくじゃらの頬を撫でた。
「心配するな。あんたが猫でも、俺はあんたといたい。ずっと、いたい」
 そのときだった。
「ただいま。あれ、父さん、帰って来てたのか」
 玄関ホールから、デンゼルの声がした。ん、とクラウドは首を捻る。一週間ぶりに会う息子は、以前の――悔しいことに、クラウドより指一本ぶんほど背が高い――人間の姿のままだ。どうやら無事だったらしい。ほっとしたのもつかの間、次の瞬間、大事件が起こった。
「エアリス、ただいま」
「にゃにゃにゃあん」
 デンゼルがエアリスに向けて両手を広げた。エアリスは甘えた声で鳴いた。クラウドを蹴るようにして、かろやかに床へと着地する。と、脇目もふらずにデンゼルの胸のなかへと飛びこんだ。ぺろぺろと、エアリスはデンゼルの顔を舐めている。挙句、くちびるまで。
「痛いって、エアリス。舌、ざらざらしてる」
「にゃうにゃあん」
「だめだって。ほら、離れて」
「にゃうん」
「嘘だろ」
 まさかの浮気現場を目の当たりにして、クラウドは頭が真白になる。
「デンゼル、どういうことだ。お前、そんな、エアリスと浮気なんて。俺の女に、嘘だろ」
「父さん。どうしたの」
「どうしたもこうしたもないだろうでんぜるうそだといってくれそんなまさかえありすときすしたのかおれのるすちゅうにちゅうするなんてあばばばば」
 怪訝そうなデンゼルが、ああ、とかわいそうなものを見る顔つきになる。
「落ち着いてよ、父さん。この猫は」
「ねこっていうなよえありすだぞどんなすがたでもえありすはえありすだからなくぁwせdrftgyふじこlpってもう古いのか」
 またまた、そのときだった。
「ただいま。あれ、クラウド、帰って来てたの」
 玄関ホールから、エアリスの声がした。んんんんん、とクラウドは首を捻る。一週間ぶりに会う婚約者は、以前の――生気に満ちて美しくもかわいらしく、そしてあいらしくてかわいらしくてあいらしい――人の姿のままだ。
「エアリスも、ただいま」
 マーケットの紙袋をダイニングテーブルに置いて、エアリスはデンゼルに近よる。と、猫の額にキスをした。
「あ、クラウド。この猫ちゃん、名前、エアリス。あのね、デンゼルのお友達の家、旅行中なの」
「それでうちで預かることにしたんだけど」
 途中から、デンゼルがにやにやと続けた。クラウドは片手で口元をおおう。
「おい、何でそんな紛らわしい名前なんだよ」
「よくある、女の子の名前でしょ。昔ね、神羅の受付にもいたよ。エアリスちゃん」
 紛らわしいって何、と聞かれて、クラウドはすっとぼけた。
「クラウドったら、帰って来るなら、連絡、くれたらよかったのに」
 わずかに口を尖らせたものの、エアリスはすぐさま相好をくずした。
「でも、嬉しい。クラウド、お帰りなさい、お疲れ様。晩ご飯、はりきっちゃうね」
 花やぐ彼女にしばらく惚けたあと、クラウドは小さく咳払いをする。デンゼルが猫をエアリスに預けてから、それとなく父親の横に立った。
「デンゼル。シューズだ。P社の新作、限定モデル」
「あれ、二色あるんだよね。どっちにしようか迷うな」
「二つとも買う。これでいいか」
「オーケー、それで手を打つよ」
 痛い口止め料だが、いたし方がない。クラウドはそっとエアリスに目を向ける。午後の光のあふれるリビング、猫と戯れる恋人。カメラが手元にないのが惜しかった。
「父さんって、ときどき純粋すぎて危なっかしいよなあ」
「うるさい。マテリアのせいだと思ったんだ」
「だからってさあ、いくら何でも。ねえ」
「お前はマテリアを使ったことがないから、あれの危険性が分からないだけだ」
「そういうことにしておいてもいいけど」
 こそこそと横目でやり取りをする父子を、エアリスが不思議そうに見ている。猫といっしょに、同じ角度で首を傾げる姿に、クラウドはまた心の鼻血がでた。
「ね、何の話」
「猫を飼うのもいいかもしれないと思って」
「あ、クラウド、猫ちゃんのこと気に入ったの。うん、かわいいもんね」
「ああ、すごくかわいい」
 差しだされた猫を抱きながら、クラウドはエアリスから視線を離さない。デンゼルが呆れているが、彼は息子を無視した。
「お茶、準備するね。クラウド、疲れたでしょ、座ってて。ね、デンゼル、手伝って」
「土産のなかに菓子があるぞ。ノースコレルの名菓らしい」
「やった。お茶受けに、早速開けちゃおう」
 二人は連れ立ってキッチンへと向かう。クラウドの頬が自ずとゆるむ。今、恋人と息子が振り向けば、きっと吃驚するに違いない優しい顔を見ているのは、猫だけだ。
 クラウドは猫を連れて、ソファーに座る。居候が一匹増えたものの、穏やかな週末になりそうだった。


■END■

20210331