祭子
2023-02-22 22:28:40
1674文字
Public FF7/SSS
 

■FF7/SSS■

∠7/CLOUD×AERITH
旅の途中にて
猫の日

「あ」
 わたしは立ち止まった。
 仲間たちの――大小さまざまで、だけどどれも頼りになる――背中が、ふらふらのろのろと遠退いていく。まるでおばけの行進だね。野宿の次の日は、いつもこう。皆疲れているから、早くホテルで休みたいんだろうな。わたしもさすがに疲れたよ。
 だけど眠い目をこすって、わたしは顔を上げる。
「どうした」
「ほら、あそこ」
「猫か」
「うん」
「珍しくないだろう。野良猫なんて」
「珍しいよ、野良ちゃんなのに逃げないなんて」
「なるほど。かもな」
 クラウドも立ち止まって、塀を見上げた。
 のんびりした感じの町の、誰かさん家の塀に、猫が座っている。ほかの猫たちはすぐに逃げてしまったけれど、その猫だけはわたしたちの様子をうかがっている。手足の長い、縞がきれいな猫。
「クラウドって猫みたい、だね」
「俺が」
「うん、そっくり。言われたこと、あるでしょ」
 クラウドはお決まりのポーズで「言われない」をアピールした。わたしはくすくすと笑う。
 パーティーから離れてしまったわたしのために戻ってきてくれるところは、猫というより犬。かいがいしい犬君だよ。だけど、アーモンド型の大きな目も、青い色の眸も、目の前のあの猫ちゃんとそっくり。
 わたしは手を差し伸ばした。
「猫ちゃん、おいで」
 呼んでも、猫はちっとも動かない。逃げもしないし、よっても来ない。ただじっとこっちを見てるだけ。
「ふられたな、エアリス」
「そんなことない。あの子、照れてるだけ」
「どうだか」
 言いながら、クラウドは大きなあくびをした。「どうだか」が「どうふぁあああか」って聞こえて、わたしはまた笑った。
 本当は笑っちゃいけないんだけど。
 だって、野宿の日はね、決まってクラウドが寝ないで番をしてくれているから。いちばん疲れているのはクラウドだから。
「ありがとう、クラウド。ホテル、先、行ってて。晩ご飯まで、少し寝るといいよ」
「そうする。あんたもうろうろしてないで、早く来いよ」
「もう、わたし、子供じゃありません」
「子供じゃないから言ってるんだ」
「このつんつん猫ちゃん、エアリスちゃんの魅力ででれでれにしたら、戻るよ」
「どうせ、ふられるんだろうけどな。傷心でさびしかったら、俺のベッドに潜りこんだらいい。鍵は開けといてやるよ」
「ふられません。潜りこみません。鍵はちゃんとかけて寝てください、無用心でしょ」
「ふられた」
「残念だね、クラウド。わたし、猫ちゃんにはもてるんだよ。ね、知らなかったの」
 クラウドはちらっと塀の上を見た。猫は相変わらず静観している。「どうふぁあああか」と、またあくび交じりに言って、クラウドはホテルのほうへと向かった。つんつん尖った金髪が塀の角を曲がったことを確かめる。よし、と気合を入れて、わたしは猫に向き直る。
「さて、猫ちゃん。邪魔者、いなくなったよ」
 なあ、と猫が初めて声を聞かせてくれた。
 そしてわたしの目の前に下りてきた。すとん、と音も立てないで。むだな動きはこれっぽちもない。かろやかで、しなやかで。
「やっぱり、似てるよね」
 わたしはそっと屈んだ。そして手を伸ばす。少し埃っぽいけれど、日向のにおいのする頭を撫でた。いやがらなかったので、小さな額をぐりぐりもした。それが気持ちよかったのか、猫は身体ごと押しつけるようにして、わたしに擦りよってきた。
「ほら、言ったでしょ。『猫』にはもてるって」
 ごろごろ鳴る喉を撫でて、わたしは得意げに言う。二人きりになると甘えてくるところなんて、本当にそっくり。縞々の背中を眺めなら、あの金色の『猫』もたまには撫でまわしてあげよう、なんて思ってしまう。
 だって、かわいいんだもの。
 あんなに大きなあくび、隠しもしないで。
 すごく無防備なとこ、わたし以外には見せないんだよ。
 もう、かわいいったらないよ。
「喜ぶよね、きっと」
 ね、と首を傾げると、猫はまた「なあ」と甘えた声をだした。


■END■

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