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祭子
2022-07-18 16:29:44
2817文字
Public
FF7/R×A/TLKG
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■LOVE DOES BUT IN LOOKING TOGETHER ...■
∠[ν]-εγλ0010/10
花婿は花嫁にせがまれて鐘塔に上ります。メテオショック以来の里帰りに思うところがあるようです。
※pixiv掲載テキスト(20220703初出)
■LOVE DOES BUT IN LOOKING TOGETHER IN THE SAME DIRECTION■
∠[ν]-εγλ0010/10
鐘楼守が持場を捨てて、三年近くが経つ。
塔は、螺旋階段までもが石造りだ。ずいぶんと苔生している。ところどころに明かり取りの小窓があるが、硝子は嵌まっていない。塔内に音をこもらせては鐘の用をなさい。メテオショックのせいではなく、これはもとからの普請だった。
雨は好き勝手に侵入し、また清掃の人手もない。足元がすべりやすいのは仕方がなかった。現に青苔はつぶれ、なすりつけたようなあとがいくつもできていた。エヴァンだ。鐘撞を終えて無傷で戻ったところを見るに、エヴァンは転ばずにすんだらしかった。
ルーファウスの後ろで小さな悲鳴が上がった。つないでいた手を引き上げるようにして、彼はエアリスを強く握り締めた。
「エアリス。何度気をつけろと言えば分かる」
「気をつけても、すべるものはすべるの。階段、幅狭いし、曲がってるし、手摺ないし。ヒールだって、つるつるなんだから」
「だから背負ってやろうと言っている」
「自分で歩きたい」
芯のある声だった。ルーファウスは思わず目を細めた。
「ちょっとだけ、心配なのはね、これ。これ、ちゃんと落ちるのかな」
ルーファウスはわずかに身をよじって、花嫁を見下ろす。エアリスがウェディングドレスのドレープをつまんだ。ウェディングアイルを拭き清め、尻は土埃で汚し、今また苔の緑色の汁を含んでいる。ルーファウスのコートもたいがいな有様だった。
「せっかくのドレスなのに。乱暴なことする花嫁さんだって、叱られちゃうかも」
ルーファウスは首を横に振った。テーラーもドレスメーカーも腕がいい。さすがジュエラーが見こんだだけはある。クリーニングから戻った衣装一式は、仕立て上がりと寸分たがわないでき栄えになることだろう。
「それは気にしなくていい」
「じゃあ、小父様に呆れられちゃうかな」
美しい女をどこに隠してしまったのか、エアリスは悪戯を見咎められた犬の顔をしている。文通を続け、彼女が小父と慕うジュエラーの茶目のあるめくばせが目に見えるようだ。
「今更だ。あの男にはな、お前の性根などとうにばれているだろう。問題はお前だ、エアリス」
「わたし」
「お前が転倒すれば、私もろとも転げ落ちるのだからな。気をつけろ。これで四度目だ。いい加減、聞き分けろよ」
この手を離すつもりはない。ルーファウスの真心にエアリスが何度かまたたいた。ややして笑み顔が花開いた。
「そのときはね、わたし、クッションになるから。だいじょうぶ」
「このぺらぺらな身体でか」
「どこ、指差して言ってるの、もう」
ルーファウスのくつくつと低い声が尖塔内に響いた。
昼食の途中、旧神羅本社ビルを見上げていたときのことだ。
「ね、もうちょっと高いところから、見よう。ここまで来たんだもの。せっかくだから、塔のなかも見てみたい」
おい、と呆れかけたルーファウスは、すぐに口元を引き締めた。
「きっといいもの、見られるよ」
エアリスが静謐の顔をしていた。
いってらっしゃいと手を振るエヴァンは、まだクレープに食らいついていた。ダークスターを残して、二人は教会堂へと戻ったのだった。
階段を登りきったところで、ルーファウスは思わず目を瞠った。腰高の位置からアーチ状の縦長窓がいくつも並んでいる。やはり硝子はない。
「すごいね」
視界が三六〇度開けた。まるで宙にい浮いているようだった。
「全部、見えるよ。ミッドガルも、神羅ビルも」
「旧だ」
「旧神羅ビルも」
二人は中央に並び立つ。北側を見る。零番街周辺の高層建造物は
――
伍番街を除いて
――
軒並み倒壊している。ひどいね、とエアリスが呟いた。
「あんなとこから、よく逃げられたね」
従者もなく、一人残った主は頭が吹き飛んでいて、満身創痍のままだ。あわれだった。
奪うことも、正しく継ぐことも、そして守ることもできなかったもの。せめて安らかに、と葬ることすら叶わない。ルーファウスには巨大で複雑なつくりをした旧本社ビルを解体するだけの余力がない。父親の城は、彼にとっていまだ『力およばぬもの』の象徴だった。
だが、これでいい。ルーファウスはそう思っている。この先も、彼を叱咤する何かが必要だった。お前はいつまで無力でいるつもりだ、と。
「何て言っていいか、まとまらない。だけど」
「だけど、何だ」
「ルーファウス、生きてる」
「『Loser』でいたおかげだな」
「違う。生きること、諦めないでいてくれた。ずっと、ずっと」
「エアリス」
「ね、ルーファウス。生きていてくれて、ありがとう」
エアリスの声は彼の耳に直接当たらない。きっと前を向いたままでいるからだろう。ルーファウスの虹彩もまた、七〇階の一点から動かないでいる。互いの存在を確かなものにしているのは、つないだ手のぬくもりだった。
神羅が無残に扱った無垢ないのち。今となっては、ただいとおしいだけの、それ。
ああ、と心のうちで彼は嘆息をもらす。
ミッドガルに生まれ、育ち、この場所を起点にして、ルーファウスはすべての道を自身で選んできた。眼前で道が分かたれるたびに選び、また分かたれては「これだ」と選ぶ。その繰り返しのなかで、いったいいくつの道を誤ったのだろう。失ってはいけないものをなくしてきたのか。
いや、とルーファウスは眼光を鋭くする。ここはまだ道半ばであって、終着点ではない。彼には確信していることがある。
ふと風向きが変わる。西から東へ。申しあわせたように、二人は東側の窓辺に向かった。
「これ、エッジの街。見てほしかったのは、これだよ」
鐘塔の高さを足したところで、ここからではプレートが邪魔をして新都の全容が見渡せない。ルーファウスは苦笑する。それはまだ小さな集落だということにほかならない。
だがルーファウスの興した街は、道は、日に日に八方へと広がっている。確実に。そして。
「ほら、すごいもの、見られたでしょ」
東のスカイラインを貫くように伸びる大通りへと、二人は双眸を見据える。
「あなたがつくった道、あっちこっち、つながっていくんだね」
なよやかな指がルーファウスにしっかりと絡む。ルーファウスはそれを離すまいと握り返す。
「ルーファウス、どこまでも行けるね」
胸がいっぱいになるというのは、こういうことなのだろうか。ルーファウスは声がだせなかった。締めつけあう五指のなかで、互いの脈がどくどくと暴れている。いとおしい鼓動だ。それだけを確かに掴みながら、ただ前を向く。終点を目指す。
この道は正しい。
■END■
(愛はお互いを見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることである)
20220703
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