Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
祭子
2022-07-18 16:27:58
3960文字
Public
FF7/R×A/TLKG
Clear cache
■CUDDLE CLOSE TOGETHER■
∠[ν]-εγλ0010/10
結婚式のあと庭でエヴァンは婚礼料理を楽しみます。中座した花婿と花嫁が神羅ビルを見上げています。
※pixiv掲載テキスト(20220703初出)
■CUDDLE CLOSE TOGETHER■
∠[ν]-εγλ0010/10
教会堂の北側に中庭がある。ミッドガルからスモッグが消えて久しい。手入れされることのない芝生が直射をあびて、好き放題に伸びきっていた。
舗石タイルが円状に敷かれた一角で、三人と一頭は憩うことにした。
敷物はない。エヴァンの一張羅になるはずのダークスーツだ。じかに座って汚してしまうのは気が引けた。躊躇する彼をよそにして、神羅夫妻は高価な衣装のままくつろいでいる。
おいおい、と若干青ざめるエヴァンにルーファウスは難なく言った。婚礼衣装のついでにクリーニングへ預けておいてやる、と。
「些末なことを気にするのだな。お前はいつまで経ってもそうだ。まあ、いい。後日、うちへ取りに来い」
「ほら、エヴァンも。早く座って。こんな恰好でピクニックできるチャンス、ないよ。楽しまなきゃ」
ウェディングドレスのつややかなドレープを石畳に広げて、エアリスは屈託なく笑っている。ルーファウスにいたっては、「尻が痛い」とモーニングコートを下敷きにする始末だ。コートと共布のベストもまた白色で、エヴァンは眩しい二人に目を細めた。
そうして待ちに待ったランチタイムだ。
朝、エアリスが背負っていたのは、彼女手製のクレープだった。ルーファウスのリクエストらしい。もしかして、とエヴァンがそっとうかがう。
「何だ、バンケットメニューにフルコースでも期待していたのか。ホットドックとやらよりはましだろう」
花婿が口端を吊上げた。そのとなりでは、花嫁が手ずから婚礼料理の配膳をしている。どれもかわいらしくラッピングされていた。勿論、有名な窯元のプレートは一枚もない。気楽な会食の席へと、エヴァンは諸手を挙げて着いた。
結婚式の
――
最終的に
――
一人一三役を終えたあとの食事は格別だった。
冷製のクレープはでき立てとはまた違った味わいがある。
エヴァンの気に入りは、やはりチーズとマッシュルームだ。糸引かせ、それを舌で追いかける。いかにもチーズを食べているという感触が好きなのだ。エアリスもそれを覚えていたらしく、いつもの二種類にモザレラを混ぜたのだと言った。おかげで熱のないチーズでもしっかりと伸びて、エヴァンの食感を存分に楽しませてくれたのだった。
「やっぱりさ、義姉さんの焼く生地って美味いよな。もちもちが冷めて、すごくしっとりしてる。最高だ」
エヴァンは二つ目のクレープを頬張る。ウータイ料理らしいそれは、初めて食べたが美味い。よかった、とエアリスがお茶のお代わりを差しだした。リコリスを甘く効かせたハーブティーだ。緊張で弱っていた彼の胃を労わってくれることだろう。
「ね、エヴァン。次、どれにする」
「お勧めは」
「こっち。クリームチーズとね、キャラメリゼにしたプランテイン。あ、あっちもお勧め。カスタードクリームとベリーいっぱい。凍らせておいたんだけど、きっといい感じにとけてるよ」
「デザートはあとにする」
「じゃあね、これ。ルーファウスに教えてもらって、ベーコン、かりかりに焼いたの。プラス、お野菜たっぷりだから」
「贅沢だな」
「でしょ。それにね、オーロラソース、改良してみたんだけど。バター、多めだよ。召し上がれ」
はい、と差しだされて、エヴァンは思わず受け取ってしまった。
「かいりょう」
にわかに雲行きが怪しくなる。
彼の味蕾が覚えているのは、前回の曙色のソースだ。甘味と辛味がはげしいバトルを繰り広げ、挙句、酸味までもが殴りこんでくるという複雑な味だった。エヴァンは斜向いを盗み見る。ルーファウスが声もなく笑っていた。
「心配するな。今回のベシャメルソースはな、きちんとトマトピューレを使っていたぞ」
「味見はしたのか」
「美味かったな」
「どうしてそっちに確認、するかな」
むくれる彼女を尻目に、エヴァンは安心してかぶりついた。エアリス特製のソースは、確かに乳酪の濃い味わいがした。
神羅家の食卓に交じるようになって、早数箇月が経つ。加工品で育ったエヴァンの舌が、今になって肥えだしている。味覚も知識だ。こうして自身が豊かになっていくさまが、エヴァンは嬉しかった。
「これ、美味いな。チーズに匹敵するかも」
エアリスは何か言いたげだ。そんな彼女に、ルーファウスが目を細めている。がまんしきれなくなったのか、ふっと吹きだした。
「あれは思いだしても腹がよじれる。エヴァンで何人目だったか。お前のレッドペッパーの被害者は」
「ルーファウスったら。ばらさないで」
エアリスに睨まれるなか、ルーファウスは動ぜず食事を続けている。手づかみで、大口を開けていても品位は損なわれていない。二つほど平らげてから、口元を拭った。ナプキンの使い方すらスマートだ。
「ソースがついている。ほら、そこ、上唇の右のほう」
「まだ、食べてるとこ。あとで拭くから」
「甜麺醤か。鳥皮にあわせるのが気に入ったらしいな」
「うん、好き。甘いの、ばっちりあうね」
「私はまだ食べていない。まずお前のくちびるで味見だな。ほら、舐めるぞ」
「すぐ拭いてください」
ルーファウスは小さく笑った。エアリスの顎をつまみ、「もう」と尖る口先にそっと布巾を押し当てている。いつか役に立つ
――
マナーと恋人のかわいがり方
――
かもしれないと、エヴァンは男の所作に見入っていた。
確かにミッドガルにいるというのに、かつての分刻みのせわしさはどこにもない。のどかな空の下、ほとんど無音のなかにいると、エヴァンは時間の流れから弾きだされたような気がした。
「そろそろ花嫁のご機嫌取りといこうか。エアリス、歩かないか」
ルーファウスは立ち上がる。花婿の手へと掴まるエアリスに、迷う様子はない。
「ご機嫌、すごく斜めなんだから。ちゃんと直してね」
そう言ったエアリスは、すでにかれんに笑っていた。
歩きだす二人、その後ろ姿からエヴァンは目が離せなかった。ウェディングアイルを経て、花婿と花嫁は現在から未来に向かっている。
何を話しているのかは、すでに聞こえない距離だった。だがルーファウスのすらっとした立ち姿と、エアリスのしゃんと伸びた背筋がくっきりと視界に納まるところで、二人は足を止めた。
そのずっと先にあるのは、神羅ビルだ。
正午は
――
誓いのキスが思いのほか長すぎて
――
とうにすぎたが、太陽は中天から大きくはずれてはいない。巨大ビルの黒い影もまだ短いのだろう。このあたりまで日陰になることはなかった。
「そっか」
メテオショックから二年と九箇月、ルーファウスが神羅家家長となって、これが初めての帰省なのだ。そう聞いていたことを、彼はすっかり失念していた。
「ここなんだよな、社長の故郷ってやつ」
エヴァンが近しくしていたのは、山中の隠宅で悠々とすごすルーファウスだった。神羅社長の自宅といえば、いちばんに思い浮かべるのがヒーリンロッジの邸宅だ。だが、長く暮らした場所となればそうではない。
ルーファウスの生家が壱番街の『白亜の城』であることは、ミッドガル市民なら誰でも知っていた。そのほかにも居宅をかまえていたことは、ハイクラスから
――
なかには建築やインテリアもあった
――
ゴシップにいたるまで、あらゆる雑誌で特集を組まれていたから、エヴァンもいくつかは聞き齧っている。
「社長の家って、このへんにもあったのかな」
感慨深いのだろうかと思いかけて、エヴァンは首を振る。
この鋼鉄都市すべてが神羅家のものだと、教会堂へ到着するまでに思い知ったばかりではないか。たかが家一つを惜しむことは、ルーファウスならしないだろう。
「だったら、やっぱりあれかな。あれしかないよな」
贅を贅とも思わない男でも、さすがに中央にそびえる自社ビルは特別なのだろうか。ルーファウスの背中は、凍りついているかのようだった。
エアリスがそっと花婿の手を取った。ぬくもりが、ルーファウスに息吹を与えたようだ。ようやく片手が動いた。花嫁のそれへと五本の指を絡ませている。二つの頭は前を向いたままだった。
よかった、とエヴァンは思った。
神羅社長は、神羅家家長は、そして花婿は、エヴァンの恐れた孤高ではない。
ルーファウスのとなりにはエアリスがいる。
本当によかった、と。
「あ」
花嫁のベールが、突風を含んで大きくひるがえった。よりそう二人に白い紗がかかる。それでもルーファウスとエアリスは、一点を向いたまま動かないでいた。
エヴァンは目をしかめる。ベールのせいか、それとも涙か。二人を隠す霞がなかなか晴れない。
「だめだな、俺。幸せに当てられすぎたかも」
今日は何だか涙脆くていけない。エヴァンはつんと痛む鼻を指先でこする。ゆるみっ放しの頬は、もうどうにもしようがなかった。
ぴすぴすと変な音に、エヴァンはわれに返った。ダークスターが主人夫妻を目で追っている。顎は重ねた前足に置いたままだが、尻尾がせわしなく石畳の塵を払っていた。本当はついて行きたかったのかもしれない。
「悪いな、ディーさん。俺のお守りばっかりで。それにさ」
エヴァンはベールの向こうに目を凝らす。二人の身体は前を向いたままだ。だが横顔と横顔が、いつの間にやら重なっていた。
「邪魔できないもんな、あれ」
ふん、と鼻を鳴らす様子は、主にそっくりだった。エヴァンは少し笑う。もう何度目になるのかバスケットをあさる。ダークスターにと用意されたクレープを差しだした。べろん。
手ごと一口に咥えられて、エヴァンは敢えなく悲鳴を上げた。
■END■
(よりそう)
20220703
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内