Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
祭子
2022-07-18 15:19:03
3366文字
Public
FF7/R×A/TLKG/SS
Clear cache
■FIRST THINGS FIRST■
∠[ν]-εγλ0011/01/1
夜明け前に起こされたエアリスは夫と壮大な眺望を目にします。二人の一年がまた巡ります。
※サイト掲載テキスト(20211226初出)
■FIRST THINGS FIRST■
∠[ν]-εγλ0011/01
エアリスは眠りの国が好きだった。
人をだめにするベッドと上質な寝具は、どのようなときでも彼女を憩ってくれる。
今もそうだ。盤上も、ベッド上の攻防も。案の定、エアリスは惨敗だった。だがここ最近でいちばんの善戦をつくしたと、彼女は思っている。憂いはないものの、連戦続きでくたくたのエアリスを安らかな就眠までいざなったのは、それらだった。
もう一つ、眠りの国に欠かせないのがルーファウスだ。
だというのに彼には善し悪しがあって、いちがいに褒めそやすことはできなかった。ほとんど優しいけれど、たまに苦しい。それでも長い手足にきつくからめとられたまま、二人、シーツに蕩けることは
――
寝苦しさすらも
――
幸せだった。
ふと街門のそとから、エアリスは名前を呼ばれた気がした。うん、とも、ううん、とも取れる生返事をする。だが彼女の目蓋は倦怠に押さえつけられていて、ぴくりとも持ち上がらない。
「エアリス」
今度は本当に聞こえた。低く、穏やかな声音だ。いとおしい人のそれだった。
「エアリス、起きろ」
ゆっくりと街門をくぐりながら、エアリスは思う。訂正しなくては、と。眠りの国だけでなく、彼女にとってルーファウスは目覚めの国でも欠かせない人だった。
「おはよう、なのかな。ね、まだ、暗いよ。どうしたの」
クイーンサイズのベッドの真中で、エアリスは掠れた声をだした。ブラインドはすでに上げられているものの、あたりはほとんど薄闇だ。ルーファウスが窓辺に立っている。星明りのなかで長躯が白く浮かび上がっているのは、彼が裸身だからだろう。
「また、そんな恰好でうろうろして。それに、そこ、寒いでしょ」
「くそ寒いな」
「何か着て。ね、早く」
エアリスは気怠い身体をヘッドボードに預ける。ブランケットを顎下まで引き上げた。
少し前、彼女の寝具にようやくナイトウェアが加わった。変哲もないパジャマからかわいらしいネグリジェ、ルーファウスの秘書いわく『鼻血がでちゃいそうなやつ』までさまざまだった。エアリスの着飾る喜びは
――
ものによってはルーファウスの目を
――
夜まで満たされたものの、それらが本来の役目を果たすことはあまりなかった。ルーファウスが何も身につけないで眠るとき、エアリスもまたはだかだからだ。
だが、凍える夜は一度もない。行き届いたエアコンディショニングは言うまでもなく、秋の末に入れ替えられたブランケットは、ラグジュアリーな純毛だった。そしてエアリスには夫の長い手足がある。
「ああ、そろそろ始まるころあいだ。エアリス、来い」
「ルーファウスったら、人の話、聞いてないでしょ」
「聞いている」
彼のガウンを探してきょろきょろしていたエアリスが、ぴたりと止まった。
「お前の話はな、エアリス、いつも必ず聞いている」
ルーファウスの顔が、窓のそとからエアリスへと向けられている。生き生きとまたたく眸は、エアリスの明星だった。
「夜が明ける。今日も快晴だ。太陽が昇るぞ、まるで燃えるようにだ」
ブランケットをマントのように羽織って、エアリスはベッドを降りた。足元に脱ぎ散らかしたままの衣服を知らずと蹴るが、今は気にかけていられなかった。急ぎ足で彼のとなりに立つ。と、右腕を広げた。窓辺に漂うのは、凛然と身にしみる寒気だ。それにさらされたままのルーファウスを、彼女は慌ててなかに迎え入れた。
「冷たい。もう、いつからここにいたの」
「内緒だ」
「ニューイヤーから風邪、ひきたくないんでしょ」
「説教はあとにしろ。ほら、見ろ、エアリス」
エアリスの非難を、ルーファウスは軽く笑っていなした。ブランケットを彼女の手から取り上げて、二人の身体をくるみ直している。エアリスは咎めることを諦めた。こんな
――
風に、浮足立っている
――
ときの彼には、何を言ってもむだだった。それ以上に、まるで少年じみた夫にエアリスは弱いのだ。
「かわいい人」
両腕を、エアリスは彼の腰にまわす。今、彼女にできることといえば、自身の体温をルーファウスに分け与えることだけだった。
「何か言ったか」
「聞こえてるくせに。かわいいって、言ったの」
「わざわざ言われなくても、分かっている」
エアリスは微笑む。ルーファウスを見上げた、ちょうどそのとき。
東のスカイラインで何かが一閃した。暁光だ。
「すごい」
紫紺色の緞帳は幕を上げ、星のスポットライトが次々に消えていく。濃い橙色の舞台へとせり上がるのは、白色の大きなかたまりだ。丸い輪郭が黄金色の光に縁取られている。
新しい太陽だった。
「きれい。大きい。すごく、きれい」
「ああ、美しいな」
峰の山頂、ひときわ高いコテージの大窓から地平まで、視界をさえぎるものは何もない。ベストビューポジションで、エアリスは歓声を上げた。
二人は身をよせあって、同じ方向を見つめ続けた。やがて太陽の外縁がほとんど姿を現したころ、ルーファウスは静かに口を開いた。
「お前に見せたかった。いや、違うな」
ルーファウスの声は、やはり温和なままだ。
「エアリス。お前とともに見たかった」
エアリスは優しい人を見上げた。
「こういうときね、わたし、セトラに生まれてよかったって、思う。本当にそう思うの。ルーファウスのとなり、ちゃんとたどり着けた」
遠かったなあ、とエアリスがおのずともらす。彼女の腰にそわされた手のひらに、ぐっと力がこもった。
「奇遇だな。私もそうだ。セトラを捕らえ、酷遇した神羅に育ったからこそ、今がある。ただのセトラの女を、お前をようやく知ることができた」
「酷遇から一転、今は厚遇ってやつね。吃驚」
「幸せか」
「幸せ」
太陽に見惚れながら、二人はぽつりぽつりと言葉を交わす。やがて互いの体温が均一になる。ブランケットのなかに、日溜りのようなぬくもりの満ちたころ。
「ハッピーニューイヤー」
二人の声が重なり、次いで同じタイミングで笑み声もこぼれる。そして碧眼と翠眼が強く絡んだあと、どちらともなくくちびるをふれあわせた。
「ホリデー、今日で終わっちゃうけど。だけど、最高のスタートだね。今日も、今年も」
「最高のスタートに、お前は何をしたい。エアリス」
そうね、とエアリスは首を右側に傾げた。それから左側へと捻ったところで、ううん、と唸る。左右に動く彼女を、ルーファウスは追いかけてくる。エアリスは口をそっと開いた。上唇を下唇を、ゆっくりと、彼の薄づきなくちびるが甘噛みしだした。くすぐったくて、エアリスは腰をよじらせる。
「どうしよう。すぐに思いつかないよ。でもね、ルーファウス。早起きしたぶん、一日、長いから。きっと、何でもできるね」
ルーファウスは目を瞠った。それもわずかの間のことで、彼はしっかりと頷いた。
「ならば、まずはミーティングだ。エアリス、バスタブに湯を張ってくれ」
「今日の会議室、バスルームなの」
「身体が冷えきってしまったからな。お前もだ。湯につかって血を巡らせなければ、いい案は浮かばないだろう」
ルーファウスはエアリスの肩を抱いたまま、ベッド付近へと戻った。ガウンを拾い上げている。エアリスも濃紺色のそれを羽織りながら、夫を見上げた。
「じゃあね、ルーファウス、コーディアルつくって。お風呂で飲むの、いいでしょ。そうね、ちょっとリッチにローズ」
「エキナセアを入れるか。風味の邪魔にはならないだろう」
「いいね、それ。きっと、最高」
「最後の仕上げはいかがいたしましょう、マダム」
胸に手を当て、ルーファウスは大仰にかしこまった。水か、炭酸か。エアリスのこたえは聞かれる前から決まっていた。
「しゃきっと炭酸で」
「いいだろう。ピッチャーいっぱいに用意しよう。エアリス、お前がまたのぼせないようにな」
からかうように言いながら、ルーファウスは妻の前身頃を整えている。それから腰紐を結び始めた。甲斐甲斐しい夫の肩ごしに、ふとエアリスは大窓に目をやった。
新しい陽光に照らされて、二人の新しい一日がまた始まる。
■END■
(最初にやるべきこと)
20211226
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内