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祭子
2022-07-18 13:39:50
2815文字
Public
FF7/R×A/TLKG
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■REINVENT THE WHEEL■
∠[ν]-εγλ0010/06
療養を切り上げたルーファウスが自宅玄関で立ち竦みます。妻の予想外の歓迎が待っていました。
※pixiv掲載テキスト(20210113初出)
■REINVENT THE WHEEL■
∠[ν]-εγλ0010/06
ルーファウスがヒーリンロッジへと戻ったのは、ブロードビーンソースのニョッキを食べ損ねた日から、二週間が経ったころだった。
階段を上がりかけたところで、いい香りがした。彼の妻が精油からつくるルームフレグランスだった。ルーファウスはおのずと微笑する。ようやく自宅へ帰って来たのだと、嗅覚が彼に教えた。
プライベートフロアへと続くドアの生態認証をパスしたところで、妻と愛犬が優しく迎えてくれる。そのはずだった。
「ディー、ケアル」
ドアの先ではエアリスがいかめしく突っ立っていた。彼女の号令にダークスターが吠える。首輪にセットされたマテリアが発動するすんでのところで、ルーファウスは慌てて止めた。大きな声をだしたのは、久しぶりだった。
「もう、ディーの裏切り者。ちゃんと打ちあわせ、したでしょ。何でやめちゃうかなあ」
ダークスターは尻尾を下げる。詫びるようにエアリスを一舐めしてから、ルーファウスの真横に控えた。とたんに尻尾と触覚がそわそわと動きだす。ルーファウスは内心ほっとした。どうやら主の面目は保たれたようだ。
「あなた、全治一箇月だって、言ってたでしょ」
「銃創はほぼふさがっている。回復マテリアは不要だ」
「本当に」
「あとは包帯と塗布剤の交換だけだ。それならば自宅でもできる。本当だ」
擦りよってくるダークスターを宥めながら、ルーファウスは言った。
タークスの本気は華麗だった。MTR社から始まった一連の問題は、残務処理も含めて五日で片がついた。ルーファウスがすぐに戻らなかったのは、傷の回復を待っていたからだった。エアリスからは完治するまで帰って来るなと、厳しく言われていた。万が一、再び有事があったとして、自由に動けない身体では危ないからという彼女の気遣いは、重々承知している。だがルーファウスは鳥かごの風鳥でいることに飽きたのだ。
「ケアをお前に頼みたいのだが、かまわないだろうか」
伺いを立てるような言い方になってしまうのも仕方がない。あの日、さんざんに泣かせた負い目が、彼のなかでいまだに燻っている。自身の口からでる、聞いたことのない声音がおかしかった。
「それは勿論、いいけど」
そう言ってから、エアリスは彼を見上げた。一心な眼差にルーファウスは囚われる。「ああ、これだ」と彼は思う。どのみち
――
ルーファウスが名乗りを上げるまで
――
この先もしばらく鳥かご暮らしが続くのであれば、エアリスと二人がいい。緑色の瑞々しい双眸を見つめ、それに見つめられていたかった。
「あのね、あなたのポリシー、ちゃんと分かってる」
エアリスは胸の前で指を組みあわせた。ルーファウスは耳を傾ける。魔晄エネルギー技術を廃絶したいという彼の信条に、彼女が敬意を払っていることは知っている。本当はエアリスがマテリアを使いたがっていたことも。だがそのたびにルーファウスは己の信条を押し通してきた。それが今回は災いして、彼の愛犬にいらぬ痛苦をこうむらせたことは、己の落度だと認めている。
それでも、と口を開きかけた彼より先に、エアリスが「でもね」と言った。
「あなたの意志、尊重しなくちゃって思ってたけど。無視することに決めました」
にこりと小首を傾げながら、エアリスは無慈悲なことを口にする。ルーファウスは絶句した。
「もう、つくっちゃったものは、仕方ないでしょ。だったら、あるものは、有効活用しなくちゃね」
「人工的に生成したものでも、また星へ還せる」
ルーファウスは眉をひそめる。彼が積極的にマテリアを回収しているのは、無論利用するためではない。
マテリアはライフストリームを人工的に凝固させたものだ。そうすることで球状の結晶になる。それを昇華させれば、また星を巡る精神エネルギーへと循環する仕組みだった。メテオショックから二年半が経つが、ミッドガルエリアはいまだ赤土のままだ。旱魃に強い穀物どころか、雑草すらまばらなありさまなのだ。星にはまだまだエネルギーが足りないのだろう。たかがマテリア一つでもむだにはできなかった。
神羅が長年にわたって啜り上げてきたのは、星の血だ。ルーファウスには二度と吸血鬼になる気はなかった。
「そんなこと、知ってるよ」
渋るルーファウスに、しかしエアリスは容赦をしない。
「でも、勿体ない。もう二度とつくる気ないなら、尚更でしょ。全部独り占めしてって、言ってるわけじゃないよ。ちょっとくらい、残しておけば。そのぶん、あなた、別のことで星に負担かけないようにがんばってるんだから。いいじゃない、そのくらい」
エアリスがけろりと言ってのける。ルーファウスは思わず口を半開きにした。
「お前は、すごいな」
二の句が継げないまま、ルーファウスは首を横に振る。
「厚かましいにもほどがある」
かろうじて彼が捻りだした言句は、率直にすぎた。拗ねるか文句を垂れるかと思いきや、エアリスはぷっと吹きだした。後ろ手を組むと、ルーファウスのまだ呆然としている顔をのぞきこんだ。
「失礼ね。柔軟って、言って」
「ものは言いようだな」
「いいほうに捉えたほうが、気分もいいでしょ」
「分かった。私は使わないが、だが」
ルーファウスは観念した。両手を胸の高さまで上げる。降参の印だった。
「ディー、研究所でマテリアの使い方は習得しただろう。今後はお前の判断で使え」
ダークスターが勇ましく鼻息をついた。やったね、とエアリスがダークスターの首を撫でる。
「私の決意を挫けるのは、お前くらいだよ」
溜息をつきたいところだった。が、エアリスがあまりにも満ち足りたように頬を綻ばせるので、ルーファウスは思わず見入った。
「もう、怪我、ちゃんとふさがったの。本当にだいじょうぶなの」
ルーファウスは頷く。エアリスは彼の手首を取る。と、ハミングをしながらキッチンへと向かう。
「じゃあ、このあいだの続き。ブロードビーン、まだたくさん残ってるから。夕飯の支度、手伝って」
「なあ、エアリス。教えてくれ」
先立って歩く細い背中を見ながら、ルーファウスは言った。
「こんなとき、私は何を言えばいい」
エアリスの足が止まる。鼻歌も。だが振り返る様子はない。離れようとした彼女の右手を掴んで、ルーファウスは左手を絡める。彼の真心に応えるように、ほっそりとした指に力がこめられた。
「ただいまって、言って。ただいまって」
エアリスの声がわずかに掠れた。ああ、とルーファウスは首をゆるゆると振った。彼女はこれを待っていたのだと、ようやく気がついた。
「エアリス」
ルーファウスは彼のできうるかぎりの優しい、とても優しい言い方で、無事の帰宅を告げる。
■END■
(分かりきったことを一からやり直す)
20210113
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