祭子
2022-07-18 13:06:58
1402文字
Public FF7/R×A/TLKG
 

■HOW DARK SO EVER THE NIGHT MAY BE■

∠[ν]-εγλ0010/02
後遺症に臥せる夫を寝かしつけるのはエアリスの役目です。安眠のためにあることを提案します。
※サイト掲載テキスト(20200820初出)

■HOW DARK SO EVER THE NIGHT MAY BE■
∠[ν]-εγλ0010/02


 背中をさすっていた手が止まった。ルーファウスはうとうととしかけた目を開ける。ふと顔だけを後ろに向けると、エアリスの悪戯っぽい眸に見下ろされていた。
「痛いの、もうだいじょうぶそうだね」
「ああ」
「子守歌、歌ってあげよっか」
「子守歌とは」
「いいから、いいから」
 ルーファウスは怪訝に思いながらも頷くと、再びスタンダードピローに頭を戻す。ややして澄んだ声が彼の耳朶にふれた。歌詞はない。エアリスは口を閉じたまま、声を鼻に抜いてメロディを奏でている。
 ああ、これはとても心地がいい。
 うっとりと目を瞑っていたが、よくよく聞いていると聞覚えのあるメロディだ。ルーファウスは記憶をさぐる。とたんに彼は吹きだした。社長就任後、初めて訪れたジュノンでの歓迎式典に用意された楽曲だった。
 エアリスは興が乗ったようだ。今度はマーチングバンドよろしく軽快に歌いだした。リズムよく彼の肩をとんとんと叩きながら。きちんと歌詞をつけて。
「ニューエイジ、時代を築く」
「待て、エアリス」
「ルーファウス、新社長」
 ルーファウスは笑いすぎて痛む脇腹をさすりながら、仰臥した。ナイトランプの橙色が彼女を照らしている。エアリスの質の細い髪が肩にそって流れ、胸や背中に垂れ落ちている。その輪郭が金茶色の燐光を放っていて、マンティラベールをかぶっているようだった。
 ルーファウスは宗教画のような静謐さに目を奪われた。だというのに、マドンナのくちびるからは、まったくもってセンスのかけらもない歌詞が紡がれる。そのちぐはぐさに、ルーファウスはまた笑った。
「お前、私を寝かしつける気はあるのか」
「懐かしいでしょ。わたし、あのパレードに参加してたんだよ。兵隊さんのふりして」
「そうらしいな」
「視聴率、すごかったでしょ」
「おかげで私の顔が全世界に広まってしまったわけだ」
 エアリスから笑顔が消えた。彼女はルーファウスが生死不明のまま辺境にとどまっている理由を知っている。ルーファウスは軽くくちびるを噛んだ。
 彼のものの言い方はストレートだ。まわりが萎縮することにも気づいている。それは意図的に身につけた話術であり、声音だった。惰弱な人間を見極めるのに役立つからだ。いつの間にかそれが常になっていて人を遠ざけてはいるが、ルーファウスには改める気などなかった。
「冗談だ」
 だというのに、彼女の悲しそうな様子はどうにも不本意だ。ルーファウスはおのずと口を開いていた。
「社長就任前から、私は有名人だからな。お前が気に病む必要はない」
 エアリスは小首を傾げた。こんなとき、彼女は決まって思慮深げな顔をする。納得したのかどうか、彼には分からなかった。ルーファウスは諦めて目を閉じる。
「さあ、歌ってくれ」
「お、おお、神羅。お、おお、神羅カンパニー」
 ルーファウスはまた吹きだした。
「だから、それはやめろ」
「やめない。冗談へたっぴな人にはお仕置き。ニューエイジ、時代をつくる。これからも、神羅がいちばん」
 真夜中だというのに、エアリスは元気よく歌い、ルーファウスは笑い転げている。ただ、とんとんと彼をあやす手は、ひどく優しかった。


■END■
(たとえ夜がどんなに暗くとも)

20200820